ダンピアのおいしい冒険 1
著:トマトスープ
出版社:イースト・プレス
十七世紀末、南洋(中央・南アメリカ周辺)の海を中心に活動していた私掠船(プライベティア:国から免許を得て海賊行為を許された船)バチェラーズ・ディライト号を舞台に、好奇心旺盛な青年ダンピアの航海の日々を描いた作品です。
登場人物
ウィリアム・ダンピア
イギリス人の船乗り
私掠船バチェラーズ・ディライト号の航海士
好奇心旺盛で航海で目にしたあらゆる物を記録している。
大学で博物学を学びたかったが、金銭的な理由で断念、船乗りとなる。
世界周航を三度成し遂げ、各地の詳細な記録をヨーロッパに持ち帰った。
彼の記録は後の世に多大な影響を与える事になる。
しかし今は私掠船の一乗組員。
ウィリアム・アンブロシア・カウリー
私掠船バチェラーズ・ディライト号の一等航海士(マスター)
ケンブリッジ大学の学位を持つ秀才。
ディライト号の食事に食傷ぎみ。
ジョン・クック
ダンピアの乗る私掠船の船長
楽天的で陽気な男。
自身がクリオール(植民地出身者)という事もあり、人種や出身で人を差別しない。
仲間を見捨てないその行動で船員たちに慕われている。
エドワード・デーヴィス
私掠船バチェラーズ・ディライト号の操舵士(クォーターマスター)
操舵士は船において船長に次ぐ地位であり、船の監督役。
オランダ出身の巨漢で武闘派な男。
ライオネル・ウェーファ
私掠船バチェラーズ・ディライト号の船医
ダリエンの密林で負傷し、数ヶ月原住民たちと生活を共にした。
体や顔のタトゥはその名残。
ロビンとウィル
私掠船バチェラーズ・ディライト号の食料調達係
中米ホンジュラスとニカラグアの原住民モスキート族の青年。
侵略者であるスペインに対抗する為、イギリス人のクック達に協力している。
ウィルはダンピア達が以前所属していたシャープ船長の船団が敵対しているスペイン艦隊に襲われた際、置き去りにされた。
ジョン・イートン
私掠船ニコラス号の船長
同胞であるクック達と行動を共にする。
あらすじ
イギリスの私掠船に乗る青年ウィリアム・ダンピア。
彼は大学で博物学を学ぶ事を志すも、金銭的な理由から断念。
学校を辞め、船乗りとしての人生を始めた。
信用のおけないシャープ船長と別れ、ダンピアは私掠船バチェラーズ・ディライト号の航海士として船長ジョン・クックの下、航海をつづけている。
当時、まだ謎に満ちていた南洋を旅しながら、ダンピアは目にした様々な物を詳細に記録していた。
その記録は「最新世界周航記」という名で出版され、後世の人々に多大な影響を及ぼすのだが、それはまだ先の話だ。
感想
海賊船に乗った青年ウィリアム・ダンピアを主人公に据えた海洋冒険を描いた作品です。
以前このブログで書いた海賊モア船長の遍歴(多島斗志之著)と同じく大航海時代を舞台にしたものとなっています。
モア船長と同様にこの作品も、当時の海賊たちの生活の様子が丁寧に描かれています。
ダンピアの乗るディライト号も、モア船長の船アドヴェンチャー・ギャレーと同じく民主主義で運営されています。
船長も船員たちの投票により解任される事もあったようです。
また、今作は海賊行為よりも船の食料事情や南洋の島々や大陸、そこで暮らす人々の様子に重きを置いています。
荒くれ者、無法者といった印象の強い海賊ですが、この作品を読むとそんな事は無く、私掠船は本国や植民地、陸で居場所が無かった人々が未来に希望を持てる場所だったんだなと感じました。
地位や貧富の差に支配された陸と違い、当時の海には危険と隣り合わせで自由があったのではないでしょうか。
まとめ
作品は海賊がモチーフですので、勿論戦闘シーンも描かれますが感想で書いた様にそちらはメインテーマではありません。
知らない土地を旅し、見た事がない物を知る探求と冒険がこの物語の主題のように思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この作品はイースト・プレスのwebメディア“マトグロッソ”にて一部無料でお読みいただけます。
作者のトマトスープさんのTwitterはこちら。