ながたんと青と ―いちかの料理帖― 10 KC KISS
著:磯谷友紀
出版社:講談社
老舗料亭、桑乃木の婿養子、周(あまね)を自分の右腕にしたい彼の兄、栄(さかえ)は、周の妻、いち日(いちか)とは師弟関係のシェフ田嶋(たじま)に桑乃木の手伝いを頼む。
そのことを知った東京で研修中の周は仲のいい、いち日と田嶋の関係に不安を覚える。
一方、いち日の周への想いを知った田嶋は、彼女を東京の周の元へ送り出し……。
登場人物
頌子(しょうこ)の母
栄の結婚相手、頌子の母
まとめ髪の女性。
仕事で忙しく飛び回り、川島の家に寄り付かない栄に不安を覚える。
周たちの母
周の実家、山口家当主の妻
跡取りである山口家長男、縁(ゆかり)の妻、鈴音(すずね)に男児を望む。
その事で鈴音は更に追い詰められ……。
あらすじ
桑乃木の更なる発展のため、東京へ研修に出た周。
彼の兄、栄の目論みで桑乃木の手伝いに入った田嶋に周への想いを打ち明けたいち日は、田嶋の後押しで周のいる東京は川島家へと向かう。
川島家に迎え入れられ、頌子の願いで台所に立ったいち日。
帰宅した周は久々のいち日の料理を堪能し、二人はその後、夜の東京を歩きながら言葉を交わす。
緑豊かな公園のベンチに腰掛け、いち日は今まで言えなかった周への想いを打ち明けた。
最初は戦争で死んだ夫の事が忘れられず、周とは完全な政略結婚だった。
周も当初は兄の妻で幼馴染の鈴音への想いがあり、いち日との結婚は山口家から独立する為の手段でしかなかった。
しかし、桑乃木を立て直すための二人三脚の日々は、二人の距離を縮め胸の内を明かす事のないまま、いち日と周は互いに魅かれあう関係となっていた。
周さんのことが、とても、好きです。
今は、一等、大事……なんです。
いち日さんは、ぼくのやりたいことを大事にしてほしいって、いつも言ってくれるけど……。
ぼくはいち日さんがいてくれれば、それでいいんですよ。
これまで伝えられなかった想いを言い合った二人は、不安を払拭し料亭、桑乃木の今後について話しながら川島の家へと戻るのだった。
感想
今回は冒頭、これまで言えなかった気持ちを伝えあったいち日と周から始まり、いち日の帰宅と周の三色そぼろ弁当、山口家と壊れかけの鈴音、二号店の方針でぶつかる慎太郎(しんたろう)と栄、縁の相談と離縁について、栄と待つことを止めた頌子、栄と鈴音とかき氷、頌子の来訪と二号店などが描かれました。
今回はその中でも互いの気持ちを伝えあったいち日と周、それとは対照的にすれ違う、兄夫婦たち、縁と鈴音、栄と頌子の姿が印象に残りました。
山口の家を継ぐ男児を生む存在としてしか価値を認められない事で、歪む鈴音。
仕事を言い訳に形だけの夫婦を続ける栄と、待つことを止めた頌子。
鈴音のエピソードは、縁も含め周囲が鈴音自身の人格を無視し、ただ跡継ぎを生むことだけを求められる環境で、精神的に追い詰められる鈴音を見ているのが辛かったです。
一方の頌子のエピソードは、結婚を家への義理と割り切る栄に対して、頌子がグイグイ迫る展開で、これまで策士として自分のペースを乱さなかった栄が狼狽えるシーンが読んでいて楽しかったです。
鈴音は離縁の話、頌子は妊娠という形で次に進んだ二つの夫婦。
彼らの今後がどうなるのか、続きが楽しみです。
まとめ
この巻では商売と実家の繁栄を優先する山口家で、壊れかける鈴音の姿が印象的でした。
いち日と周も店の存続を目的とした政略結婚でしたが、いち日の性格もあったのでしょうが、二人はお互いの気持ちを恋愛感情は置いておいて伝えあっていたように思います。
一方の縁は山口の流儀を踏襲しようとするあまり、鈴音に心無い言葉をかける事も多く……。
嘘のない気持ちをぶつけ合う事は大事だな。
エピソードを読んでいてそんなことを思いました。
こちらの作品はコミックDAYSにて一部無料でお読みいただけます。
作者の磯谷友紀さんのTwitterはこちら。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。