自作小説

花旅ラジオ 第七話 「彼女の生まれた訳」

投稿日:2019年4月26日 更新日:

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01

食事を終えたルクは、バギーをエレベーターに乗せ、製造施設に戻した。
タマがボックスいれた肉は、彼に話したように保管庫で冷凍保存する事にした。
明日は島に向けて出発する予定だ。

ルクは島までの航路や、島の地図を端末で調べた。
地図は過去の物だが、無いよりはましだろう。
その間にタマには準備した道具を、トレーラーに積み込んでもらう。

ゴムボートは大きめのスーツケースの様な形状をしており、ボタン一つで展開する事が出来る。
情報を調べ終えたルクは、タマと協力してボートをトレーラーに積み込んだ。

「ルクこの鞄が船なのか?これじゃあ浮いても、波にのまれたら終わりだぞ。」
「大丈夫です。これは持ち運びしやすいように、折り畳んでいるだけです。ボタンを押せば大きくなります。」
「へぇ、便利なもんだな。」

道具を積み終えた二人は、製造施設の椅子に腰かけ、島での行動について話し合った。

「母ちゃんが行くなって怒ったって事は、島にはなんかヤバい事があるって事だよな。」
「そうですね。危険な動物が多くいるとか、攻撃的な人達がいるとかでしょうか?」
「さあな。俺はあの街しか知らないから何とも言えないな。」

ルクはタマが旅人を見た事があると言っていたのを思い出した。

「タマさんは人間を見た事が有るんですよね?」
「ああ、遠目だけどな。」
「どんな様子でした。」

タマは腕を組んで目を虚空に向けた。

「えーっと、深緑色の被るやつがついた布を着てた。あと一メートルぐらいの黒いゴテゴテした細長いやつを持ってた。」
「着ていたのはフード付きのマントでしょうか。黒い棒はライフルですかね?」
「ライフル?」
「タマさんに渡した銃の長いものです。こんな物でしたか?」

ルクは端末を操作して、ライフルを画面に表示した。
画面には、アサルトライフルやボルトアクションライフル等が表示される。

「そうそう、こんなやつ。そいつらが持ってたのには、他にも色々付いてたけど。」
「多分、照準器やライトとかですね。」

タマが指さしたのは軍でも使用されていた、大口径のアサルトライフルだった。
旅人が、こんな銃を持たないといけないという事は、この星にはそれだけ危険が多いという事だろう。

「他に気付いた事はありますか?」
「あいつ等、海から来たんだよ。船で街に乗りつけて、しばらく街をウロウロして帰っていった。」

「海から…。お母さまはその時は…。」
「母ちゃんは、もう死んでたからな。」
「……すいません。」

タマは目を細めて笑顔をみせた。

「気にすんな。」
「…はい。」
「それで、その時は十人ぐらいいたし、なんかヤバそうな気がしたから、俺は木の上に隠れてたんだ。」

「何をしていたんでしょうか?」
「なんか探してたみたいだけど、無人だと分かったから引き上げたんじゃねぇか?」

ルクは海から来たという点が気になった。
彼らが島から来たのなら、武装した者達が島にいるという事になる。
船やオプションの付いた銃を持っているなら、弾薬やエネルギーの供給を行える施設もあるだろう。

ハンドガンとタマのナイフだけでは、心もとない気がする。
戦うのは最後の手段だが、準備はしておいた方が良さそうだ。

 

02

ルクは端末を操作して、自分用の防弾ベストと、オプション付きのアサルトライフルを一丁、そしてタマと同じナイフを製造することにした。
そして銃を扱うための動作パターン、軍隊格闘術、視界に照準を表示するプログラムをインストールした。

ルクはプログラムのインストールは極力控えていた。
なんでもかんでもインストールして覚えたのでは、つまらないし、自分が機械であるという事実を、目前に突き付けられる気がしたからだ。

しかし、もし戦闘になってタマが負傷したり、最悪、彼を失う事になりでもしたら。
その事を考えただけで、ルクは胸が締め付けられる気がした。

「タマさんは私が守ります。」
「急に何言ってんだ?それにルクは鈍臭いんだから、どっちかっていうと俺が守るほうだろ。」

「フフッ、そうですね。猪から守ってくれました。」
「だろ。なにかあったら、また守ってやるよ。」
「はい。」

ルクは彼に守られ、そして彼を守ろうと心の中で思った。
ただ、戦闘プログラムをインストールしても、肉体的には一般的な人間と変わらない自分が、どこまで出来るか漠然とした不安はあったが。

その後、タマと一緒に新しく作ったアサルトライフルで射撃訓練をした。

アサルトライフルはエネルギータイプにして、エネルギーはベストの発電機構から、マガジンにエネルギーを充填する物を採用した。
これはルクのエネルギーを流用する事になると、発射サイクルから考えて、彼女自身が動けなくなる可能性があったからだ。

ルクはアサルトライフルを指切りしながら、射撃した。
反動の無いエネルギー銃という事とプログラムのおかげもあり、銃弾は次々と的の中心を撃ち抜いた。

タマはそんなルクを横目で見ながら、台の上に乗りハンドガンを撃っている。

最初よりは上達したが、まだ命中率は良くない。
ルクはライフルを置き、タマの後ろに歩み寄った。

「タマさん、右腕を真っすぐ伸ばして、左手を右手に下から添えてください。」

後ろから手を回し、タマを抱えるようにして銃の持ち方を修正する。

「ほら、こうすると、照準と目の高さが一緒になるでしょう。これで狙ってみて下さい。」
「分かった。」

タマは慎重に狙いをつけ、引き金を引いた。
銃弾は的の中心に穴をあけた。

「やった!真ん中に当たったぞ!…これで鳥も獲れるかな?」
「ええ、落ち着いて狙えばきっと当たりますよ。」
「ありがとなルク。」

タマは振り返り、ルクの頭を撫でた。
ルクは顔が上気するのを感じた。
頬を桜色に染めながら、彼女は黙って頭を撫でられた。

「顔が赤いぞ。熱でもあるのか?それともまた腹がいたいのか?」

「…なんでもありません。気にせず練習を続けて下さい。私は食事を準備してきます。」

「分かった。あれはもう飲むなよ。」
「お酒ですね。……分かっています。」

ルクは足早に射撃場を後にし、食堂へ向かった。

この気持ちは何だろうか。
ルクはタマに頭を撫でられるたびに感じる感情に、戸惑いを覚えていた。

 

03

漆黒の宇宙空間を、星を出た人類を乗せて移民船団が航行していた。

船の乗客の一人、ルクを作った管理者の男は、窓から近づきつつある移住可能な惑星を眺め、端末に送られてきたデータの表題のみを確認し、電源をおとした。

彼のかつての仕事は、アンドロイドのデザイナー。
施設を使い、要望に応じたアンドロイドを作り出す事が、主な仕事だった。

顧客の要望は様々で、容姿にこだわった一品物もあれば、純粋に戦闘力に特化した注文もあった。

彼は一品物であれば、客に何度もヒアリングをし、その理想を具現化させ、戦闘用であれば、使用場所に即したバランス取りを施しインストールするプログラムも厳選し、納品した。

丁寧な仕事が評価され、顧客の評判は上々だった。

彼がルクを作った理由は、コールドスリープから目覚めた時、星がどうなっているか知りたかったからだ。
荒れ果ててていても、緑が復活していても、船が戻る事はない。

ただルクが見聞きしたことを、定期的に亜空間通信で受け取り、活動記録を娯楽として楽しもうと思っただけだ。

彼女を戦闘用の素体で製造しなかったのも、感情を持つように設定したのも、その方が面白いと思っただけだし、六百年後に設定したのも、自分が目覚める少し前にタイミングに合わせただけの事だった。

五年間、ほぼ施設中しか映らない映像に管理者は早々に興味を失い、今では内容を見ることはない。
同僚が置いていったICプレーヤーが、ルクを施設の外に連れ出し、タマと出会い恋をするなど思ってもいないだろう。

管理者はルクに、人を好きになる事が出来るよう設定していた。
もしかしたら、生き延びた人類とアンドロイドの、ロマンスが楽しめるかもと考えたからだ。

通常であれば恋をするのは、ルクと容姿が同じな人類だったのだろうが、管理者はバステトの存在を失念していたため、対象を制限しなかったのだ。

管理者もまさか自分が作ったアンドロイドが、遺伝子改造された猫を好きになるとは想定していなかっただろう。

管理者がルクの旅を知るのは、まだ少し先になりそうだった。

※※※※

 

ルクは気持ちを切り替えるため、料理に専念する事にした。
今日は猪を使ってカレーを作る事にした。

多様なスパイスが取れる熱帯地域で発祥したというその料理は、様々な国に伝わり独自の進化を遂げた。
今日作るのは、小麦粉でとろみをつけた、甘さのある物だ。
カレーに合わせてナンでなく、ライスを用意した。

食事の用意が出来ると、タイミングよくタマが食堂に入って来た。

「なんの匂いだ?」
「カレーという料理です。ピリ辛ですから気をつけて食べて下さい。」
「ふうん。まあ取り敢えず食べてみるよ。いただきます。」
「いただきます。」

二人はスプーンを手に取り、カレーを一口、口に運んだ。
口に入れた瞬間は甘さを感じた。
その後、徐々にスパイスの香りや辛さが口に広がる。

結論から言えば、ルクはこの料理をとても気に入った。
タマも、鼻をすすりつつ、バクバクと口に運んでいる。

皿に盛られたカレーはあっという間に、二人の胃袋に消えた。

「ご馳走様。美味かった。また作ってくれ、ルク。」
「はい、よろこんで。」

ルクは笑みを浮かべそう答えた。

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