自作小説

花旅ラジオ 第九話 「捕獲部隊」

投稿日:2019年4月29日 更新日:

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01

二人が島の中心を目指して廃墟に踏み込んですぐに、ルクのセンサーに反応が現れた。
サイズから推測するに人間のようだ。総勢十名、二人一組で二人が上陸した地点を取り囲むように接近してくる。

「タマさん、人間がこちらに向かって来ています。全部で十人。動きから察するにこちらを包囲するのが目的のようです。」
「俺が前に見た奴らかな?あいつ等だったら会いたくないなぁ。」
「隠れて様子をみましょうか?」
「そうだな。」

タマと相談し、包囲から外れた木の上から、様子を伺う事にした。
ルクが木登りに手こずったりしたが、何とか上りやすい木を見つけ、樹上で動きを観察する。
包囲してきたのは全員男で、全員がボディースーツの様な物を着込み、ヘルメットを装着している。
彼らは上陸地点に二人がいない事が分かると、一人が胸に手をやり何か話し出した。

「何か言ってますね?」
「任せろ、この耳は伊達じゃないぜ。」

タマが耳をクイッと動かし、男たちの方へ向けた。
タマが男の話に耳を傾けている間に、ルクは男たちの装備を調べた。

ボディースーツは防弾、防刃性に優れた物だが、電撃に対する耐性は低い様だ。
持っているアサルトライフルは、炸薬式の物で5.56ミリ弾を使用するタイプだ。
バレル下部には、グレネードランチャーを取り付けている。

「本部聞こえるか?二人はここにはいない。ボートも無い。足跡は街の方に向かっているが、道中では遭遇しなかった。」

再度、男が耳に手を当てる。
何度か頷き、他の者に指示をだした。

「目標は街に向かったと思われる。散会して痕跡を探せ。発見したら全員で追い込む。捕縛にはネットランチャーを使え、なるべく無傷で捕まえろとの指示だが、抵抗するようなら発砲も許可する。以上だ。散開!」

男たちは先ほどと同じく二人一組で散り、森に飲まれかけている宿泊施設を中心に捜索を開始した。
タマから会話の内容を聞いたルクは、タマに問いかけた。

「どうしますか、タマさん?」
「捕まったらロクな事にならない気がするな。ばらけたみたいだし、近場の奴を捕まえて話しを聞いてみるか。」
「分かりました。では一番近い二人組を尾行しましょう。」
「よし、んじゃやるか。」

ルクは木から降り地上を、タマはそのまま枝を伝って二人組を尾行した。
銃の扱いについての行動パターンの中に、戦闘時の動きについても含まれていたので、ルクは二人に気付かれず尾行する事ができた。
タマについては言うまでも無いだろう。

人は横に対する警戒はしても、上に対しての警戒は比較的散漫になる。
ルクたちは、二人組が他の人間と十分離れてから、行動を開始した。

初めにルクがショックモードに切り替えた弾丸を、片方の首筋に打ち込んだ。
スタンモードは不可視の衝撃波を、ショックモードはワイヤー付きの針を打ち込み、対象を感電させる仕組みだ。
ショックモードは射程と連射が出来ない事がネックだが、敵を殺さずに無力化するのには適している。

サプレッサー付きのアサルトライフルから放たれた針は、ほぼ無音で男を昏倒させた。
バディが突然倒れて困惑している間に、樹上からとびかかったタマが、ナイフでもう一人を気絶させた。

ルクが近寄ると、タマは男たちの武器を奪い、後ろ手に持っていたロープで縛り上げていた。
ルクは男たちの体をスキャンし、無線機や発信機を取り除き、発信機を茂みの中に捨てた。
無線機は使えそうなので、持って行くことにする。

「それなんだ?」
「遠くの人と話したり、自分の位置を仲間に伝える物です。移動しましょう。不審に思って他の人が見に来るかもしれません。」
「分かった。武器はどうする?」
「途中で適当に茂みの中に捨てていきましょう。簡単には見つからない筈です。」
「了解。」

二人は残った石畳の上を歩き、なるべく痕跡を残さないように、男たちを移動させた。
ルクは無線を装備し、通信を聞きながら作業を続けた。
その内連絡の取れない組がいる事に気付いて、そちらに向かうよう無線で指示を出している。

「タマさん、異常が起きている事を気付かれたようです。こちらに向かってきます。」
「良し、んじゃ隠れるか。」

ルク達は男たちを比較的原形をとどめていた建物に隠し、自分たちは襲撃地点を見下ろせる木の上に身を潜めた。

 

02

「ビーコンがありました!二人の姿は見えません。」
「襲撃を受けたか。訓練を受けた兵士のようだな。良しこの付近を捜索する。百メートル以上は離れるな。無線は入れっぱなしにしておけ、異常を感じたらすぐ報告しろ。」
「イエッサー!」

男たちは襲撃場所を中心に散会して、二人を探し始めた。
命令をしていた男は、組んでいた者とその場に残り、襲撃された場合にそこに急行するのだろう。

「どうしますか?」
「全員気絶させるか。そうじゃないと話も聞けない。」
「分かりました。では下の二人から倒しましょう。」
「分かった。」

ルクは寝そべっていた枝の上から、隊長らしい男に狙いを付けた。
タマも静かに枝の上を移動し、ナイフを構えている。
二人は視線を交わし、ルクが引き金を引いたと同時に、タマがもう一人に襲い掛かった。

気絶した二人を放置して、その場を移動し端から順番に倒していく。
上手く二人同時に気絶させることが出来たので、同じ要領で気付かれずに全員倒す事にした。
全員を拘束し、最初の襲撃場所に集め、隊長らしき男だけを起こし話しを聞くことにする。

無線機は一つだけ残し後は破壊した。
男たちがビーコンと呼んでいた発信機は、一か所に集め持って行くことにした。
持っていた武器も、ルクが銃を使って全て破壊した。

二人は隊長を建物に運び、座らせた状態で柱に縛った後、頬を叩いた。
何度か叩くと隊長は目を開け、二人を見上げた。

「お前らが侵入者か、これは何のつもりだ!拘束を解け!」
「あなたの命令を聞かなければならない理由はありません。こちらの質問に答えてください。」

「貴様、その髪の色…。アンドロイドだな?そっちの黒猫はバステトか?人間に奉仕するために、作られたくせに反抗するな!今すぐ拘束を解くなら、許してやる!」

その言葉を聞いて、タマの目が細まった。

「あんた、自分の立場がわかっているのか?ここで解体されても文句は言えないんだぜ。」

タマはナイフを抜いて男に近づいた。

「やめろ!!何をする気だ!?」
「別にあんたが話したくないって言うなら、他の奴に聞くから無理してしゃべらなくてもいいよ。」

タマはナイフで男の着ていたスーツを、動物の皮を剥ぐように切り開いた。

「服を全部剥いだら、次は皮を剥ぐ、血抜きをして、内臓を処理して、部位毎に切り分けたら、立派な食材の完成だ。」
「私はこれを食べたくありません。」

ルクが隊長を指差しそう言うと、隊長はギョッとしたように二人を見た。

「贅沢言うなよ。この島には鳥とか小さな獲物しかいないんだろ。新鮮な肉、十人分だぞ。味はともかく腹は膨れる。」

そう言ってタマはニヤリと笑った。
笑った拍子に鋭く光る牙がのぞく。
二人の会話を聞いて、隊長の顔は青ざめ、脂汗を流している。

「俺を食うつもりか!?」
「殺さなかったのは話しを聞くためだ。話さないんなら用はない。せいぜい食料になってもらうぐらいしか、使い道がないだろ。」
「分かった!話す!なんでも話すから食わないでくれ!!」

隊長の反応にタマは、ルクにウインクして小さく笑った。

 

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03

隊長はそれからは、二人の質問に素直に答えた。

「まずはお前たちが何者か答えろ。嘘は言うなよ。ほかの奴にも聞くからな。」

「…我々は、この島のシェルターで暮らしていた人間の末裔だ。シェルターの発電設備の老朽化による電力不足事で、九年前に初めて地上に出たんだ。」
「次だ。何故俺達を捕まえようとした。」

隊長はタマをチラリと見て、視線を逸らし言い淀んだ。

「言わないのか?別にいいぞ。お前は中々鍛えているから肉は硬そうだが、よく煮込めばいい味が出そうだしな。」
「グッ……。奴隷にするためだ。」

「奴隷?どういう事だ。」
「我々がシェルターを出た時、この島はバステトが暮らしていた。彼らは集落を作って、狩りで生活を立てていたんだ。」

タマはナイフを揺らしながら、続きを促した。

「島はすでに奴らの物だった。食料はバステトを養うだけで精一杯だった。我々の入り込む余地はこの島には無かった。」
「それで?」

「シェルターの指導者だった大佐が、バステトを武力で脅し、彼らを労働力として使う事を提案したんだ。」
「具体的には何をやらせたのですか?」

ルクの言葉に、隊長は彼女を見た。

「お前、アンドロイドだろう?なぜバステトに協力している?アンドロイドは、人に従うようプログラムされている筈だ。」
「私にはそのような命令は設定されていません。タマさんに協力しているのも自分の意思です。」

「自由意志を持ったアンドロイドだと…。」
「そんな事はいいから、続きを話せよ。」

隊長は悔しそうに話しを続けた。

「…バステトを脅して、土地を開墾し畑を作らせた。他にもシェルターの電力設備の修理や様々な労働に従事させた。」
「電力設備の修理?そんなのお前らがやればいいじゃないか?」

「設備は核で動いている。防護服を着ても人間では長く作業は出来ん。お前らバステトは遺伝子改良の副産物か放射線に耐性がある。人より長く活動できるし、小さな体は狭い所の作業にはうってつけだった。」

隊長たちはルク達を捕まえて、そういった労働に回すつもりだったのだろう。

「畑を作るにしたって、自分たちでやればよかったんじゃないのか?」

「最初はそうしたさ。だがバステトを見つけてから、大佐がそれは人間の仕事ではないと提案したんだ。バステトという奴隷がいるのに、主人である人間が、わざわざ重労働をする必要はないとな。」
「じゃあお前らは何をするんだよ?」

「船だ。」
「船?」
「シェルターには、小型の移民船が残されていた。起動電力が足りなくて動かせなかったがな。」

ルクは自身のメモリーを検索した。
移民の際に残った人たちが暮らすシェルターには、心変わりした人のために、確かにコールドスリープ装置を積んだ船が用意されていた。

船のスペックを調べて見ると、移民した惑星で居住スペースと安全を確保するため、様々な兵装が装備されている事が分かった。

「あなた達は船を使って何をするつもりですか?移民をするため宇宙に出るのですか?」
「星の環境が回復したのに、なぜわざわざ宇宙に出る必要がある?星を飛び回れれば十分だ。」

「そんで、この島のバステトを奴隷にしたように、星で生き残ってる奴を奴隷にするわけか。」

ルクは大佐という人物に怒りを感じた。
折角、緑の溢れる場所で平和的に生きていけるのに、自分たちが案楽に生きるために、武力を使って他人を支配しようとしている。
シェルターには、大佐に反発する者はいなかったのだろうか?

「大佐の計画に、シェルターの人々は進んで協力したのですか?」

「シェルターで暮らしていた人間は、当初五百人程にいたが、大佐はバステトを奴隷にすることに反対した人間を全員処刑した。今は四百名程だ。」
「百人も殺したのですか?」

「俺達に勝っても、どうせお前らも殺される!大佐には誰も逆らう事は出来ないんだよ!!」

隊長は少し元気を取り戻したのか、勢いづいて言った。

 

04

「シェルターにいる戦闘要員は全部で何名ですか?」
「……」
「早く答えろ。」

タマが歯をむくと、隊長は苦々し気に答えた。

「二百名だ。その内の我々も含めた百二十名程がシェルターに配備されている。」
「残りの八十名はどこにいますか?」
「畑でバステト達を見張っている。」

シェルターの方はここで十人倒したので、残りは百十という事になる。
ルクは質問を続けた。

「バステトは現在この島に何人いますか?」
「フンッ、当初は二千匹はいたはずだ。今は全部で千五百匹ぐらいだ。」
「訂正してください。匹ではなく人です。」

隊長はルクが何を言っているのか分からず、彼女の顔を見上げた。
無表情だったその顔には、怒りの表情が見て取れた。

「…千五百人だ。」
「五百人はどうなったのですか?」

「言う事を聞かせるために、見せしめとして二百ぴ…ニ百人位は殺された。あとの三百は逃亡しようとして殺されたり、重労働で疲弊して死んだ。」

「なんて事を……。彼らはどこにいるのですか?」
「殆どはシェルターの近くで農作業してるよ。残りは狩りに行かせたり、電源施設を修理したりしている。」

ルクは不思議に思った。
タマの動きは人間が捉えらえるのは難しいだろう。
バステトが千五百人もいれば、反乱を起こせば簡単に勝てるはずだが…。
ルクの疑問は代わりにタマが尋ねてくれた。

「いくら武器を持ってても、俺の仲間がそんな簡単にやられるとは思えない。なんか仕掛けがあるんだろ?」
「…バステトは大体二百人くらいの集落で、島に点在して暮らしていた。一つずつ集落を襲って首輪をつけたんだ。」
「首輪?」

「逃げ出せば、スイッチ一つで爆破出来る。反抗する奴もいたが、奴らの爪はスーツが防いでくれる。何人か殺せば全員素直になったよ。」
「くそっ!その首輪はどうやって外すんだ?」
「解除キーは大佐が管理している。俺も場所は知らん。」

バステトを解放するには、正攻法でいくなら大佐をどうにかして、解除キーを手に入れるしかなさそうだ。
だが自分なら端末があれば、何とか出来るかもしれない。

「シェルターを管理している端末の場所を教えなさい。」
「何だと?何をするつもりだ?」
「いいから、場所を言えよ。」

タマがナイフを突きつけると、隊長は悔し気に口を開いた。

「かつての街から北にある山の中腹にシェルターがある。シェルターの中には端末なんて幾らでもあるさ。」
「街の北。」

ルクはメモリー内の地図を確認した。街は港を中心に広がっている。
北にはこの島で一番高い山がそびえていた。
地図には載っていないが、地形データからシミュレートすれば、候補地はすぐ割り出せた。

「場所は確認しました。確率は百パーセントではありませんが、ほぼ間違いないと思います。」
「よっしゃ。んじゃ行くか。」
「はい。」

「お前らシェルターに行くつもりか!?無駄な事はよせ!扉は開かないし、防衛システムもあるんだ!それより見逃してやるから俺達を解放しろ!!」

建物を出ようとしていたルクは振り返って隊長を見た。
その目に感情は無く、ガラス玉のようだった。

「情報ありがとうございます。あなたはもう少し眠っていて下さい。」

そう言うとルクは隊長に銃口を向け、引き金を引いた。
二人は男たちを残し、まずは街に向かうことにして足を踏み出した。

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