自作小説

花旅ラジオ 第六話 「猫とバギー」

投稿日:2019年4月24日 更新日:

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01

食事を終えた二人は、早速昨日の猪を取りに行くことにした。
武器製造施設に移動すると、既に生産は終わっていた。

バギーは二人乗りで、前後にキャリアを備えている。
ルクは一緒に製造した、牽引用の小型トレーラーを後部に取り付けた。
操作方式は、二輪のバイクと同じようだ。

タマは興味深々で、バギーの周りをぐるぐると回り、ハンドル周辺のメーターをのぞき込んだり、タイヤを突っついたりしている。

「これが昨日言ってた奴か?」
「そうです。最高速度は時速百二十キロぐらいは出るようですが、未舗装の道ではゆっくり走ったほうが良さそうです。」
「時速百二十キロってどのぐらいの速さなんだ?」

「そうですね。ここからタマさんが暮らしていた場所でしたら、百数える間に行けますね。道が真っすぐで平らならですけど。」
「百数える間!?すごく速いじゃん。へぇ、ずんぐりむっくりしてるけど、やるなぁこいつ。」

タマは感心したように、シートをポンポンと叩いた。
そんなタマを見ながら、ルクは操作方法を端末で検索した。

マニュアルを見ると、操作自体は思いの他、簡単なようだ。
右ハンドルのスロットルを捻ると前進。
ハンドルの左右のレバーが、それぞれ前後のブレーキとなっている。
ギアチェンジは必要なく、加速すれば自動でギアが切り替わる、オートマチック方式を採用していた。

「操作方法は分かりました。では出発しましょうか?」
「よし、昼は猪を食うぞ!」
「ええ、楽しみですね。」

ルクがハンドルを握り、その後ろにタマが飛び乗った。
製造施設からは、大型エレベーターを使って直接外に出られる。
アクセルを捻り、ルクはバギーを発進させた。

エレベーター内で一旦停止し、ハッチ横のパネルに手を触れる。
稼働を示すランプが灯り、乗り込んだドアが閉まりエレベーターが、ゆっくりと上昇していく。
エレベーターは普段は地中に隠れており、使用時のみ地上に顔を出すようになっている。

上部に乗った土を草ごと持ち上げ、十メートル四方の立方体が草原に出現した。
ドアが開くのを待ってルクはバギーを前進させエレベーターを出る。
タマは後ろを振り返り、ルクに声をかけた。

「ドアが閉まっちゃったぞ。帰りはどうするんだ?」
「外側のパネルに、触れればドアが開きます。」
「ルクしか動かせないのか?」

製造施設関連は、現在、ルク以外動かせない設定になっている。

「今のところは、タマさんも登録しましょうか?」
「いや、いい。なんか変なとこ触って、勝手に動き出したら手におえない。ルクが一緒にいれば問題ないだろ。」
「一緒にいれば……、はい!!」

タマはルクの腰に手を回し、頭を左右に振った。
何をしているのか気になり、ルクは尋ねた。

「どうしたんですか、タマさん?」
「お前の後ろだと、前が見えないんだ。」
「では私の前に乗りますか。タマさんの大きさなら操作に支障はないはずです。」
「いいのか?やったぜ!」

タマは脇の下から潜り込むように移動し、ルクの前に座った。

「良し、行こうぜ!」
「了解です。」

ルクはスロットルを捻り、バギーを加速させた。

02

「おお、結構速いな。もう森だ。」
「森の中はゆっくり移動しますね。」

森の中は木が密集している場所もあったが、川沿いは通れる場所も多く、猪の場所までそれ程時間は掛からなかった。

猪は繋ぎ止めたロープを不審に思ったのか、他の獣に荒らされる事も無く昨日と同じ場所にあった。
ルクはバギーを止め、周囲をセンサーで探った。
バギーを恐れたのか、付近には大きな反応は見られなかった。

「危険な動物は近くにはいない様です。」
「分かった。じゃあ猪を後ろの車に乗せようぜ。」
「分かりました。」

二人でふうふう言いながら、水から猪を引き上げ、引きずって何とかトレーラに乗せた。

「重かったです。でもこれでしばらく肉には困りませんね。」
「うーん。そうなんだけど、干し肉とかにしないと日持ちしないぞ。」
「冷蔵庫に入れれば良いのでは?」

「あの中が寒い箱か?ちょっとは長持ちするだろうけど…。」
「施設に帰って保存方法を調べてみます。」
「おう、任せた。んじゃ、帰ろうぜ。それでさ、帰ったらでいいんだけど、こいつの動かし方を教えてくれよ。」

ルクはタマの体を見た。このバギーは人間の大人用だ。
タマのサイズでは、ハンドルに手が届かないだろう。

「教えるのは構いませんが、大きさ的に無理ではないでしょうか?」
「いいだろ。俺もこれを動かしてみたいよ。」

ルクはバギーを製造するとき見た車両の中に、子供用の乗って動かせる玩具があったのを思い出した。
施設では人間の幼児タイプのアンドロイドも製造されていたため、それ用のオプションも多数用意されていたのだ。

「帰ったら、タマさん用のバギーを作りますから、それで我慢してください。」
「おっ!そんなのがあるのか?気が利いてるな。んじゃ、早く帰ろうぜ。」
「はい。」

嬉しそうなタマを見ていると、ルクもなんだか嬉しくなった。

施設に帰るとタマは猪の解体を始めた。
ルクはタマを残し、施設に入って製造施設で、子供用のバギータイプの玩具を製造した。

こちらは最初のバギーと違い、一時間ほどあれば製造は完了する予定だ。
その後、肉の保存について端末で検索する。

様々な方法が出てきたが、携行するならフリーズドライが良さそうだ。
ルクは施設で食品のフリーズドライが可能か探ってみたが、残念ながらここの設備では難しそうだ。

アンドロイドパーツの保管庫がマイナス二十度だったので、そこを使ってすぐ使わない物は、冷凍するのがいいかもしれない。

燻製などは作るのに時間がかかりそうだったので、島に持って行くものは食料プラントを頼る事になりそうだ。
タマは嫌がるだろうが、我慢してもらうしかない。
島で生き物を獲る事が出来れば、いいのだが…。

そうこうしている内に、端末にバギーが完成したと報せが来た。
ルクは製造施設に足を運び、出来上がったバギーを確認した。
幼児用の物なので、合成樹脂が多く使われ、見るからに玩具という感は否めない。

取り敢えず製造施設に有った台車にのせ、施設の入り口で解体作業をしているタマの所へバギーを運んだ。

 

03

施設を出て、バギーの方を見ると、解体はほぼ終わっているようだった。
タマはナイフを使い、肉を切り分け、うさぎを持ち帰る時に使ったボックスに入れている所だった。

「タマさん、お疲れ様です。バギー持ってきましたよ。」
「おう、こっちも大体終わった。なんかいい保存方法は見つかったか?」
「取り合えず、すぐ使う物以外は施設で凍らせて保存しようと思うのですが。」

「へぇ、ここってそんな事も出来るのか。凍らせると長持ちするのか?」
「はい、燻製なども考えたのですが、作るのに時間がかかるので、島にすぐ行くのなら持って行くのは難しそうです。」
「そっか。まぁ島にもなんかいるだろ。そいつを捕まえりゃいいさ。んで、それが俺用のバギーか?」

タマはナイフを水で洗って、二、三度振り水気を切って鞘にしまった。
台車に駆け寄り、バギーを見る。

「なんか、ルクの違ってあんまり鉄を使ってないな。これも同じぐらい速いのか?」

タマはスピードを求めていたのか。
このバギーの最高速度は、時速五キロだったように記憶している。
どうしよう。

ルクは見上げるタマから目を逸らしながら、どう言おうか考えた。

「タマさん、これは…、そう。練習用なので、そんなに速く走れないんですよ。」
「練習用?そんな必要ないだろ。ルクが動かすのを見てたけど、簡単そうだったぞ。」
「ほら、私はアンドロイドですから、機械の操作は慣れているんです。」

タマは頑なに目を合わせようとしないルクに、訝しそうな目を向けたが一応納得したようだ。

「まぁいいか。何でも練習は大事だしな。」
「そうですよ。ささ、タマさん試してみて下さい。」

ルクは台車からバギーを下ろし、タマに動かし方を説明した。
幸い玩具と言っても、操作はルクのバギーとほぼ一緒だったので、練習用という話は疑われなかった。

「よし、それじゃ動かしてみるか。」

タマはバギーに跨り、アクセルを捻った。
モーターの駆動音を響かせて、施設前の草原をバギーが走る。

「ルク!練習用にしたって遅すぎないか!?」
「えっ!そうですか!?みんな最初はそれから始めるそうですよ!?」

苦しい言い訳だが、全て嘘という訳でもない。
人間の子供が最初に乗って運転する物という意味では間違っていないだろう。

「そうか!でもルクには悪いけど、これはもういいな!次はもっと速いやつにしてくれ!」
「分かりました!施設で作れるか探してみます!」
「おう、悪いな!」

タマは遅いと言いながら、それから三十分近くバギーを乗り回した。
その間に施設に戻り、ルクは昼用の野菜や調味料を食堂で用意した。

バギーを乗り回す猫というシュールな場面だったが、楽しそうにしているタマを見ていると、ルクは自然と笑みがこぼれた。
タマはルクの近くにバギーを止め、座席を降りた。

「遅いけど、これはこれで楽しいな。あんがとなルク。」
「いえ、楽しんでもらえたようで良かったです。」
「ルクちょっとしゃがめ。」
「なんですか?あっ。」

タマはしゃがんだルクの頭を優しく撫でた。

「へへっ、お礼だ。さぁ、飯にしようぜ。」

タマが火を起こすためにその場を立ち去った後も、ルクはしゃがんだまましばらく動けなかった。
自分はどうしたのだろうか、タマに撫でられると、心が温かくなって嬉しい気持ちが溢れて来る。
ルクが自分の感情を持て余していると、タマがルクに声を掛けた。

「ルク、何してんだ!猪を焼くぞ!食べないのか!?」
「いただきます!」

ルクは火の側で肉を持って待ってるタマの下へ、勢いよく駆け出した。

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