自作小説

フォーエレメンタル 第一話「セレンとガーラル」1-1

投稿日:2019年4月4日 更新日:

トンネル

中央太陸の東に位置する地方都市「アスタミル」
その一角、宿と酒場を兼ねる店「鯨亭」で二人の人物が言い争いをしていた。

いや言い争いではなく、片方が一方的にまくしたて、もう一方が冷静に反論している。

声を荒げていたのは金髪で青い瞳の皮鎧をきた少女だ。
年のころは、17、18ぐらいに見えるが尖った耳がエルフであることを示しているので、おそらくその倍は生きているだろう。

反論していた方は、140センチ程の黒髪髭面の男。
所謂ドワーフと呼ばれる種族だ。
黒いプレートメイルを着込みテーブルには同じく黒い兜が置かれている。
座っている椅子には両手用のバトルアックスが立てかけられていた。

エルフは白ワイン、ドワーフは火酒を手に二人はこの街にあるダンジョンの探索について話しているようだ。

ダンジョンと言っても、自然の洞窟に魔物が棲みついた物もあれば、高位の悪魔やドラゴンが自身の魔力で構築した物、道を外れた魔導士がキメラなどの実験場として作り出した物など様々だ。

ダンジョンが作られる目的も主によって異なる。
魔物はただ洞窟などを巣として利用している。
悪魔は宝を餌に冒険者を誘い込みその魂を奪う事が目的だ。

ドラゴンは習性として財宝をため込むため、その保管場所として。
彼らは往々にして金貨や宝石をうず高く積み上げ、その上で寝ている事が多い。

魔導士は禁忌に手を染めた者が街に居られず、自身の研究成果を試すため作りだす事が大半だ。

この街の物はそのどれでもなく古代王国の研究施設が王国の滅亡により廃棄された物だった。
五十年程前に入り口が見つかり施設に残された研究成果、魔法の品や武器等を求めて、冒険者と呼ばれる一攫千金を求める者が潜るようになったのが街の始まりだったと言われている。

施設はまだ稼働しておりマジックアイテムや武器を生産しているため、五十年たった今でも街に冒険者が絶えることはない。
時折、貴重なアイテムを手に入れ、それを売却し一財産築いた者が出ることもあり、夢の実現のため、はたまた借金返済のため、人々は希望を抱いてダンジョンに足を踏み入れるのだ。

無論、冒険には危険が付き物で施設には警備員としてモンスターが徘徊している。
ゴーレムなどは施設で生産される物だが、勝手に棲み付き繁殖したゴブリンやコボルト等も存在する。
中には元冒険者だった者が追剥目的で入り込んでいたりもする。

冒頭の二人もそんな冒険者と呼ばれる者達だ。

「だからぁあの時、防御魔法の発動を待ってからの方がぁ、安全だったでしょぉ!」

金髪のエルフ、セレンが瞳をつり上げて抗議する。

彼女が飲んでいるのは白ワインのようだが、だいぶ酔いがまわっているのか呂律が怪しい。
テーブルに叩き付けた拳で、料理の乗った皿が硬質な音を立てた。

「儂の作った鎧はそんなに軟ではない」

それを受けて黒髪のドワーフ、ガーラルが火酒を舐めつつ冷静に反論する。

「君たちその位でいいだろう」

この程度の言い争いは二人にとっては日常茶飯事なのだが、彼らはこの街に着いて日が浅いため、おせっかいな、よくいえば良心的な冒険者が止めに入ってくれた。

「なによぉ、あんたには関係ないわぁ!…あら、あなたいい男ねぇ」

止めに入った冒険者は金髪で筋肉質の彫りの深いハンサムな男だった。
金属製のプレートメイルを着ていることから恐らく戦士だろう。

「相変わらずマッチョに弱いのう」

聞かれないようにガーラルが口の中で呟く。

「ちょうどいいわぁ、ガーラル。あなたとはここでお別れよぉ」
「何じゃと?どうする気じゃ?」

「ねぇあなた、私をパーティーに入れてくれない?私はセレン、レンジャーで、精霊魔法も使えるわぁ、うふふ、どうかしらぁ?」

セレンは仲裁に入った冒険者に、寄りかかりながら問いかける。

「仲間に聞いてみないと、何ともいえないですが?皆どうする?」

そう言いながら、少し引き気味に彼は近くのテーブルに問いかける。
話を聞いていたのだろう、すぐに返事が返ってくる。

「精霊魔法の使い手はメンバーにいないから大歓迎よ」

黒髪を肩まで伸ばした黒いローブを着た女が答える。

「ぼくも賛成。三人じゃ少し不安だし」

皮鎧をきた栗色の髪の男の子が答える、おそらくハーフリングだろう。
ハーフリングで皮鎧であれば盗賊で間違いない筈だ。
盗賊は罠の感知や宝箱の解除が主な仕事だ。

「こちらは問題ないようですが、いいんですか?」

カインの最後の言葉はガーラルに向けてのものだった。

「別にかまわん、その娘の気まぐれには慣れておるよ」

そしてセレンに聞こえないように小声で付け足す。

「気は強いが、根はいい奴じゃ…。よろしく頼む」

それを受けて冒険者は小さくうなずき、セレンに話しかける。

「ではセレンさん、よろしくお願いします。自己紹介がまだでしたね。俺はカイン、それじゃパーティーの皆を紹介するよ」

そう言ってカインは、セレンを彼らのテーブルに招いた。

「決まり。それじゃあねぇ、ガーラル」
「セレン、武器防具の手入れは欠かさずするんじゃぞ」
「分かってるわよぉ。最後までうるさいわねぇ」

セレンはガーラルにそう言うと、後ろ手に手を振り、カイン達のテーブルにふらふらと去っていた。

「ではガーラルさん、失礼します」

カインもガーラルに挨拶し、テーブルに戻っていく。
あいつと喧嘩するのはこれで何度目かの、喧嘩の数を思い出しながら、ガーラルは手にした火酒を口に含んだ。
慣れ親しんだはずの酒は、その日は驚くほど辛かった。

それから二日後、ダンジョン内で彼らはばったり出くわした。

「なんでここにいるのよ?」
「なんでって、街の近くには、ダンジョンはこれ一つしかないから仕方ないじゃろう」
「ガーラルさん、お一人ですか?」

先日、酒場で出会った戦士、カインがガーラルにそう問いかける。
あの時とは違い、兜に盾、剣を装備している。

ガーラルも酒場で仲間を探したのだが、戦士は飽和気味でパーティを組んでくれる者を見つける事は出来なかった。
彼は一応精霊魔法も使えるが、鍛冶魔法という武具製造に特化した物で戦闘に向いてはいない。

木を一瞬で炭に変えたり、小さな炎を起こしたり、地面から炉を作り出したりと、戦いではあまり役には立たないからだ。
野外でキャンプする時は重宝されたが……。

街に滞在するには金がかかる。
ガーラルは生活費を稼ぐため、取敢えず浅い階層を一人で探索することにしたのだ。

「もしよかったら、一緒に行きませんか?戦士が二人いれば後衛が安全に戦える。あなたにも悪い話ではないと思うのですが?」

カインがガーラルにそう提案してきた。
確かに、パーティを組んだ方が、より深いところまで潜れるだろう。
浅い階層では、出て来る品物もたかが知れている。

街ではゴブリン等に懸賞金もかけられているが雀の涙で、宿泊費用を捻出するには何十体と狩らなければならない。

「それはありがたいが……本当にいいのか?」
「ここで再会したのも何かの縁です。みんなどうかな?」

カインはパーティーメンバーに尋ねた。
セレンを除き、反対者はいなかった。

「セレン。彼が加わってくれれば君やアルマ、ラグもより安全に探索出来る。どうかな?」
「……パーティの皆が良いんなら……それで良いわよ」

セレンは、あまり納得していない様子でそう答えた。
酒場であんな別れ方をしたのでガーラルと顔を合わせづらいようだ。

「話はまとまった様じゃな。ではよろしく頼む。儂はガーラル。見てのとおり戦士じゃ」

ガーラルの挨拶を受けて、カインが自己紹介をした。

「では改めまして、俺はカインです。このパーティのリーダーをやらせてもらってます。戦士で少しなら治癒魔法が使えます」

ガーラルはカインの自己紹介に少し驚いた。
治癒魔法を使えるという事は聖戦士の素質がある。
彼はもしかしたら騎士の出なのかもしれない。

「私はアルマ、魔法使いよ。初級魔法なら一通り使えるわ。中級魔法は勉強中ってところね」

黒髪のローブの女性アルマが、杖を小脇に抱えそう話した。

「僕はラグ、ハーフリングの盗賊だよ。罠の感知と宝箱の罠解除が主な仕事かな。一応スリングは持ってるけどあまり期待しないで」

盗賊のラグはスリング、所謂パチンコで後方から援護するスタイルのようだ。
盗賊の中には腕利きのナイフ使いもいるが、彼はそういうタイプではないらしい。

「セレン、自己紹介は……別にいいでしょ」

流れ的になにか言わないといけないと思ったのか、セレンが口を開いた。
彼女は弓と剣、精霊魔法も使え結構優秀だ。
只、エルフである彼女は華奢でスタミナもあまり無いので、ガーラルと二人ダンジョンに潜っている時も後衛で戦う事が多かった。

「まあまあ、二人とも探索中は喧嘩は一時休戦してくれると俺としては助かるんだが」
「分かってるわよ。探索に私情は持ち込まないわ。その頑固なドワーフは盾としては優秀だしね」
「フンっ、ようやく儂の鎧の頑丈さを認めたか」

「別にアンタの鎧云々じゃなくドワーフは頑丈だけが取り柄でしょ!」
「確かにどこかのエルフのように、探索中に疲れた帰りたいと泣きごとを言うドワーフはおらんな」
「何ですって!?」

「まあまあ、二人とも落ち着いて」

売り言葉に買い言葉でヒートアップしそうになる二人を、すかさずカインが宥める。

石膏で作られたような白い壁の続く通路を五人は歩いた。
道幅は広く、床は壁と同じ素材で出来ている。

この素材は硬く、昔ダンジョンが発見された当初、ドワーフの石工が建築に使おうと掘り出そうとしたのだが、鋼の鶴嘴を使っても傷一つ付かなかったらしい。

ダンジョンは元が研究施設だったためか魔法の明かりが通路を照らしている。
別途灯りを用意しなくて済むのはかなり助かった。

松明を持てば片手がふさがるし、灯りの魔法も継続時間がある。
魔法使いの魔力を灯りに使えばその分攻撃に回せる魔力が減る。
ランタンを腰につるすという手もあるが光量的に不安があった。
光の届かない影から、魔物が不意打ちしてくる場合も往々にしてあるからだ。

道中出てきた敵をアルマが魔法で眠らせカインとガーラルで仕留めていく。
時折セレンが前衛に出て細剣を振るいゴブリンの喉を切り裂く事もあった。

探索は順調に進み、一行は地下二回に下りる階段までたどり着いた。
このダンジョンには各階直通のエレベーターが設置されているが、そちらを使うには特殊なカードが必要でダンジョンから見つかったそれは、この街である程度功績を上げないと貸し出される事はない。

新参者は地道に階段を降りていくしか下層に向かう手段はないのだ。

「どうするんじゃカイン。下におりるのか?」
「そうですね。アルマ、魔法はまだ使える?」

「中級魔法は後二回、初級はあと五回くらいは使えるよ」
「セレンさんはどうかな?」
「私も魔法は温存しているから大丈夫よ」

「ふむ、俺は地下二階に下りようと思うんだが皆の意見は?」

一行は全員一致でカインの意見に賛同した。
これまでの探索で地下一階で見つかった物は、切れ味の悪いナイフと皮鎧、金貨が数枚、山分けすれば幾らにもならない。

ガーラルとしても、もう少し実入りが欲しい所だった。

「よし、じゃあ二階に進もう。情報によると二階はアンデッドが多いらしい。このパーティには聖職者がいないからアルマの火の魔法が頼りだ。よろしく頼む」
「任せて」

アルマは杖を掲げ、微笑みを浮かべた。
仲の良い、よくまとまったパーティだ。
ガーラルは彼らを見ながらそう思った。

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※イメージはPixabayのFoundry Coによる画像です
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