まぼろしの女
安田均 編
山本弘 他
イラスト 米田仁士
富士見ファンタジア文庫
テーブルトークRPG「ソード・ワールドRPG」の世界フォーセリアを舞台にした短編集、第十作目。
今回の短編集「愛情」もしくは「想い」がテーマに書かれています。
この短編集には3作が収録されています。
各話のあらすじや感想など
遅れてきた鍵 内藤渉
チャ・ザの神官、シエラは船に乗りオランの南にある無人島を目指していた。
実家であるフォード商会の倉庫で火災が起こり、周辺を巻き込み被害を出してしまった。
商会を運営していた父と兄は大やけどを負い床に伏した。
そこで債権者たちは、パダの寺院で神官として活動したシエラに、賠償金の支払いを求めたのだ。
しかし商会の資産をすべて売却しても、賠償金にはとても及ばず、シエラは途方に暮れていた。
何かないかと焼け跡を調べていたシエラは一枚の羊皮紙を発見する。
そこには孤島にある館の財産について記されていた。
書いた人物はアーク・フォード、彼はフォードの先祖で古代魔法王国の貴族だった。
魔法王国の遺産を発見できれば借金を返済できるかもしれない。
シエラは友人のイェル、監視についてきた借金取りのファーと共に館のある無人島、フォード島に向かったのだった。
感想
作者である内藤渉さんは短編集「戦乙女の槍」で表題作である戦乙女の槍を執筆された方で、後にカレイドスコープの少女等を執筆されています。
前作同様、今作も読み応えのある作品でした。
借金取りの魔術師のファーは解説で、安田均さんが書かれているように変わったキャラですが大変魅力的です。
誰がための記憶 西奥隆
あらすじ
ウォルフとオーグルは「遺跡掃除屋」と呼ばれている冒険者コンビだ。
名前の由来は遺跡の隅々まで調べつくし、後には塵一つ残さないことからきている。
他の冒険者が探索した遺跡であっても、彼らが発見できなかった隠し扉やその先にあるお宝を見つけ出すのだ。
彼らはアレクラスト大陸東部のグロザルム山脈、山中深く隠された古代魔法王国の付与魔術師、ルヴァンの実験室と呼ばれる遺跡にいた。
数日前、盗賊風の男から情報を購入した二人は、遺跡に赴き、お宝を得るべく調査を行っているのだ。
しかしお宝はなく、発見できたのは棺に入れられた女性だけだった。
ルヴァンは美術家としても知られている、女性は人間ではなく人形かもしれない。
ウォルフが棺の蓋に触れると、棺は静かに開き横たわっていた女性の胸がゆっくり動き始めた。
目を覚ました女性はリーザと名乗り、二人に自分はルヴァンの婚約者であり、空中都市レックスにあるルヴァンの研究所に連れて行けと高圧的に命令する。
あまりに高飛車な態度にウォルフは反感を抱くが、このままではくたびれ損なので、リーザの提案を渋々飲むのだった。
感想
後の短編集にも収録される遺跡掃除屋の第一作目にあたる作品です。
短気で喧嘩っ早いウォルフと沈着冷静なオーグルのコンビは、それぞれがお互いの足りない部分を補いあっています。
ウォルフの熱さが、読んでいて心地よかったです。
幻の女 “赤い鎧”1 清松みゆき
あらすじ
ベルダインで騎士兼衛視長補佐をしているポールは、部下のバンドールと市内見回り中、一軒の酒場前で大男とグラスランナーの喧嘩に遭遇する。
しばらく喧嘩を眺めていたポールだったがグラスランナーの戦い方に違和感を感じる。
彼らはその特性として、盗賊になるべくして生まれてきたような種族だ。
よって戦闘の仕方も攻撃を避け、隙をつくやり方が基本だ。
しかし目の前のグラスランナーは大男の攻撃をガードし真っ向からやり合っている。
グラスランナーでは体格差は如何ともしがたく、叩きのめされた。
そこでポールは止めに入り、大男をねじ伏せた。
その後、見回りを終え詰め所に帰ると先ほどのグラスランナーが待っていた。
ランプと名乗るグラスランナーは、助けてくれたお礼とそれとは別に頼みがあるらしい。
話を聞くためにポールはランプを家に誘った。
道中ランプの身の上話を聞いていると、ベルダインに来る途中魔獣に襲われたようだ。
その魔獣から助けてくれたのは聖戦士だったらしい。
ランプの話が聖戦士の容姿に移った時、ポールは思わず声を上げ馬を止めた。
ランプが聖戦士は赤い鎧を着ていたと言ったからだ。
しかしその時は、馬がぐずり始めたため、深く追求することなく家へむかった。
家へ着いたランプは驚きの声をあげる。
無理もないだろう一般的な家ではなく着いた場所は城だった。
ポールはかつて国の宰相も務めたことのある、ギュゼルバーン家の当主代行だ。
食事をしながら自分の身分を話し、ランプの頼みを聞いた。
彼は戦い方を教えて欲しいという。
酒場の大男にも、魔獣にも、自分の戦い方は通用しなかった。
彼は盗賊ではなく、戦士の戦い方を教えて欲しいと、ポールに乞うのだった。
感想
羽根頭と並び短編集の中で大好きなシリーズ、赤い鎧の第一作目です。
主人公のポールは、衛視として市内でおこる事件を捜査します。
ベルダインでは一年程前から仮面をつけ、赤く光る鎧をまとった謎の戦士が暗躍しています。
被害者は凶悪な人間ばかりで、殺害した被害者の横に、罪状を書き示した仮面を残し去ることから、「仮面の男」もしくは「赤い鎧」と呼ばれています
ポールは衛視として赤い鎧の犯行を苦々く思っています。
確かに被害者は悪人ばかりですが、法を無視し個人がそれを行う事は、許されないと考えているからです。
市内で起こる殺人事件を追う衛視という、探偵小説の面白さに、ファンタジー要素を加味したことで、更に楽しい作品になっています。
まとめ
今回の作品集は“愛情”もしくは“想い”がテーマに書かれています。
三作品とも、とても良く、大変楽しめました。
遅れてきた鍵ではシエラとイェルのやり取り、誰がための記憶ではリーザの一途な思いと、ウォルフのリーザに対する感情、幻の女ではファントムの歪んだ愛情と、三者三様の想いが描かれています。