ホーンテッド・キャンパス 春でおぼろで桜月
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
大学の春休み、森司はアパートで思索にふけっていた。
一月は大学二年生だったが、四月になれば三年生だ。
自分は今何年生なのか、そんな取り留めのないことを考えていると同じアパートの先輩から電話が入った。
闇ピザ大会をするから来いというのだ。
ピザ大会ではなく闇ピザ大会だ。
貧乏な学生でピザの具材になりそうなものを持ち寄って、ピザっぽいものを食べようという趣旨である。
森司は女の子との待ち合わせを、ドタキャンされた小山内をさそって、先輩の部屋を訪れた。
固くなった食パンや、餃子の皮などにケチャップとチーズ持ち寄った具材を乗せてトースターで焼いて食べる。
大会で小山内と話していた森司は、好きな子とのデートに映画はないと強く言われてしまう。
そうか映画はないのか…。
彼はこよみを映画に誘おうと思っていたのだ。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第九弾。
各話のあらすじや感想など
意気地なしの死神
あらすじ
三月のある日、世間一般では三月は春だが、雪国ではまだまだ寒い。
雪越大学の学生、沙也香と双葉は、双葉がSNSで知り合った人たちとのオフ会に参加するため、会場であるカフェバーを目指していた。
双葉はSNS上で色々と悩みを聞いてもらっていたらしい。
沙也香は友人として思う所はあったが、面識のない人の方が打ち明けやすいということも有るのだろう。
カフェバー「クリシェ」は狭い店らしく、今日は貸し切りだそうだ。
双葉が店を指さし言った。
「いま男の人が入っていた店だよ」
沙也香は双葉の腕をつかんだ。
痛いという双葉に沙也香はこう告げた。
「さっき入った男の人と絶対ホテルに行かないで」
感想
SNSやネットを使って悩みを相談することは、今の時代珍しいことではありません。
リアルの友人に言えないことも、匿名性も手伝って言いやすいという面もあります。
親身になって悩みを聞いてくれる人には、好感も持つでしょう。
しかし、その裏には別の思惑が潜んでいるのかもしれません。
金の帯 銀の帯
あらすじ
小夜は見ていたテレビを消した。
窓の外では猫の声が聞こえる。
時間は十一時半を回っていた。
小夜は「また陽斗くんと話せなかったなぁ」と小さく呟いた。
高校からの同級生である陽斗と、同じ大学に通うため塾に通い、偏差値をあげて、なんとか入学できた。
しかし、積極的になることが出来ず、一年たっても何の進展もないままだ。
つい、実家から持ってきた市松人形にあたってしまった。
おかっぱ頭の黒髪で、艶やかな振袖を金糸の帯でとめたそれは、飾り棚に座らされている。
亡母の物だった人形を、実家に帰省した折に見つけ、部屋に持ってきたのだ。
八つ当たりしたことを人形にあやまり、抱き上げ語り掛ける。
噂で陽斗に彼女が出来たと聞いたのだ。
もう望みは無いかなぁと話しかけていると、不意に人形が歌いだした。
いきなりの事に驚き人形を取り落としてしまう。
何かのボタンを押してしまったのだろうか。
慌てて人形を探るがボタンらしきものは見つけられない。
歌は唐突に止まった。
ほっと胸を撫で下ろし、人形を飾り棚に置いた。
なんとなくベッドから人形の目を逸らすように、体を斜めに向け眠りについた。
夜中に小夜はふと目を覚ました。
何かいる。何かがこっちを見ている。
小夜はベッドの中で目を動かした。
人形と目が合う、そんな確かに斜めに向けたはずなのに。
室内に人形の歌が流れた。
小夜はスタンドの明かりをつけ、飾り棚の下から人形を見上げた。
角度のせいか、人形の顔はひどく酷薄に見えた。
突然、人形の肩ががくりと落ち、小夜の顔めがけて落ちて来る。
樟脳の匂いと共に、人形の手が小夜の耳たぶに触れぎゅっと掴まれた。
彼女は悲鳴をあげた。
感想
以前、活き人形の話の際に書いたように、人形が苦手です。
子供の頃、祖父の家に飾ってあった日本人形にも、不気味な物を感じその部屋に入ることが出来ませんでした。
祖父の家が現在の住宅のように明るくなく、薄暗いものだったこともあって、余計に恐ろしく感じたのだと思います。
月のもとにて
あらすじ
その日、森司は食料の買い出しを終えアパートに着いた。
買い込んだ食材を冷蔵庫に詰め込み、古くなった食材でお好み焼きを作る。
それをつまみつつ、金曜ロードショーを見ていると、電話が鳴った。
先ほどからLINEにしつこくメッセージを送ってきた人物。
中学の同級生、影山からだった。
電話に出ると、焼き肉をおごってくれるという。
影山の家は金持ちで、昔から羽振りが良かった。
なにか頼みごとがあるんだろうと切り出すと、会ってから話すという。
貧乏学生に、おごりの焼き肉は魅力的だ。
森司は彼の誘いを受けることにした。
翌日、影山に案内された店は庶民的な焼き肉店ではなく、高級店だった。
値段を気にする森司に、影山は親父のカードを持ってきたから大丈夫と言った。
焼き肉を堪能しながら、影山に彼女とのデートプランなどを聞いてみたが、森司の予算に合うものではなかった。
食事を終え、彼の頼みを尋ねてみると、一人暮らしのための物件選びに付き合ってほしいという。
森司は中学の時も目立つほうではなかった。
なぜ彼が森司に声をかけたのか訝りながら、物件探しに付き合うことにした。
待ち合わせの場所に父のレクサスで現れた影山は、森司にタブレットを手渡した。
タブレットには物件情報の他に、炎のアイコンや、縄のアイコンなどが表示されている。
これはなんだと尋ねる森司に、影山は嬉しそうにアイコンの意味を答える。
炎は家事、縄は自殺、ナイフは殺人事件、そして布を被ったお化けマークはいわゆる出る物件だそうだ。
影山は森司が大学でオカルトサークルに入ったと聞き、今回の物件探しを頼んできたようだ。
帰るという森司に、焼き肉の料金分は付き合ってもらわないとなと影山は言い放った。
森司が食べた分、一万千五百円、一日五千円として二日は付き合ってもらうと影山は言った。
森司は二日だけだと念を押し、渋々彼の物件選びに付き合うことにした。
感想
このお話で新しいキャラクター、鈴木瑠衣が登場します。
私はこの鈴木のことが大好きです。
物語の終盤では、思わず泣いてしまいました。
籠の中の鳥は
あらすじ
北詰英太は大学の寮をでて今春から一人暮らしを始めた。
寮での生活も悪くなかったが、一度何をするのも自由な一人暮らしを経験してみたかったのだ。
彼は親を説得し、一人暮らしを了承させ、親からの資金二十万プラス、バイトで貯めた金で2DKバストイレ別、ロフト付きの部屋を借りた。
もう寝るかとロフトに上がり布団を用意して、読みかけの漫画をめくるうち彼は眠りに落ちていた。
闇の中歌が聞こえる、かごめかごめだ。
子供たちが一人を取り囲んで回りながら歌っている。
取り囲まれている真ん中の人物が鬼だろう。
歌が終わり真ん中にしゃがみ込んでいた人物が、立ち上がった。
後ろ姿だったが女だと思った。
取り囲んでいた子供たちの輪が崩れ、女が駆け出す。
英太の視点が回転する、目を閉じ再び開くと視点が変わり女が正面から走ってくる。
柵が女を阻む、英太はどうすればいいのか戸惑った。
女は柵から手を伸ばし英太の腕をつかんだ。
爪が食い込み、骨がきしむ、彼は悲鳴を上げた。
英太は自分の声で飛び起きた。嫌な夢だった。
びっしょりと冷や汗をかいている。
ロフトから降りようと手を伸ばしたその腕に目が釘付けになる。
彼の左腕には真っ赤な痣と、爪を立てたような傷跡がくっきりと残っていた。
感想
童謡の中にも、怖い解釈をされている物が多数あります。
後からつけられた物もあるのでしょうが、歌詞の意味がよくわからないことも、それに拍車をかけている気がします。
まとめ
新しく登場した鈴木瑠衣。彼も霊を見ることが出来ます。
森司や泉水と違い、霊が見えることで苦労した彼が、森司やオカルト研究会のメンバーとの交流でどう変わっていくのか楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。