ホーンテッド・キャンパス だんだんおうちが遠くなる
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
大学を舞台にしたオカルトミステリー第十九弾。
クリスマスのデートで用意した真珠のネックレスをこよみちゃんに渡した森司(しんじ)君。
こよみちゃんも気に入ってくれたようで、初心な二人の距離も少し近づいたようでした。
そんなクリスマスシーズンも終わり、その年も暮れようとしていた頃から時間は少し遡り、十二月の初旬、オカルト研究会部室を一人の女性が訪ねてきます。
各話のあらすじや感想など
水晶の飾り窓
冒頭部分 あらすじ
十二月の初め、オカ研の部室に訪ねて来た蒔苗妃映(まきなえ きえ)と名乗った美女は家で死んでいる自分を見るのだと森司達、オカ研の部員に打ち明けた。
彼女は元占い師として如月妃映(きさらぎ きえ)の名前でテレビに出ていた。
ただ、彼女に霊能力的な物は無く、占いもインチキで人気は容姿と内面を見せない神秘的な雰囲気で得ていた部分が大きい。
現在は裕福で優しい夫と、自分の理想が詰め込まれた屋敷で暮らしている。
不満と言えば、騒々しくゴシップ好きで派手という自分とは相いれない義母が週三で尋ねて来る事ぐらいだ。
そんな妃映の身に不思議な事が起こり始めたのは二年前。
その日も誰かがインターホンを押した。
また義母だろうか、重い気持を引きずりながらインターホンのモニターを見る
モニターには女だろう人物の肩が映っていた。
「ただいま」
そう言った人影に恐怖を感じながら、妃映にはその人影を直感的に家族だと思った。
だが同時にそれを家に入れてはいけないとも感じていた。
あけろあけろあけろ!!
問答の末、狂った様に叫ぶ何かに妃映は「あなたなんか知らない、帰って!」と返しインターホンを切った。
その瞬間、妃映はリビングに一人になった。
幻聴だろう。そう自分に言い聞かせ振り返った妃映は、ソファーで死んでいる自分を見た。
感想
妃映と彼女の家族の過去が複雑に絡み合った、そんな事件でした。
歪んだ欲望の犠牲者達と、羨望を抱き同化しようとした者の邂逅が貰らした悲劇。
救われない気持ちの中で、妃映の強さで未来はいい方向に向かう様に感じられました。
大好きな曾祖母
冒頭部分 あらすじ
大晦日のその日、街は大雪に見舞われた。
アパートの雪かきをしていた森司の耳に、通りからエンジン音とタイヤの空転する音が聞こえて来る。
情けは人の為ならず、そう思い通りに出て轍にハマった軽自動車に近づく。
その軽自動車を押していたのは、大学の先輩だったOGの三田村藍(みたむら あい)と森司の想い人、灘こよみだった。
二人は雪にタイヤを取られ動けなくなった軽自動車をたまたま見かけ、助けようとしていたようだ。
森司はそんな藍たちと協力して車を押し、何とか轍から抜け出させた。
軽自動車から降りて礼を言った女性は、森司たちと同じく雪大生だったらしく、三人がオカ研のメンバーだと知っていた。
相談したい事があると言う彼女と共に、森司達はカフェに移動し話を聞く事にした。
百々畝凪(どどうね なぎ)そう名乗った女性は、部屋で祖母の幽霊がドアの影から覗くのだと話し始めた。
一方、森司達が凪から話を聞いていた頃、パン工場でバイトしていたオカ研のメンバー、鈴木もバイトの同僚で同じく雪大生だという男、鳩貝大樹(はとがい ひろき)から相談を持ち掛けられていた。
弘樹は祖父の幽霊が襖の隙間から覗くのだと鈴木に打ち明けた。
感想
祖母の幽霊がドアの隙間から覗く凪と、祖父の幽霊が襖の隙間から覗く大樹。
不思議な類似性を見せる二つの相談が同時に持ち込まれる。
そのどちらもが一族、身内の事が原因による物でした。
問題のある親戚は一人は一族の中にいる、そんな事を感じさせるお話でした。
四谷怪談異考
冒頭部分 あらすじ
その日、オカ研のメンバーは依頼者を喫茶店で待っていた。
やって来たのは座長が事故死した「劇団箱庭座」に所属している劇団員の石渡紫乃譜(いしわた しのぶ)と村崎葵(むらさき あおい)。
どちらも二十代後半ですらりと伸びた手足を持つ、男女で次の舞台ではメインどころを務めるそうだ。
相談というのは紫乃譜が宣伝で上げるSNSの写真についてだった。
SNSは紫乃譜個人の物ではなく「劇団箱庭座」の物だったが、費用を掛けず宣伝が出来る事で重宝していた。
その日も何枚か取った写真のうち、写りの良い物を上げて次の舞台に付いての意気込みを書き込む。
肌の綺麗さや可愛い等のコメントが寄せられる中、話題作りお疲れさん(笑)等の批判的なコメントがリプされる。
話題作り? 上げた写真はオフショット的な物で、何もおかしな事はしていない筈。
そう思い紫乃譜がSNSを確認すると、撮影した自分の姿に腕が一本増えていた。
その後も上げる写真にはおかしな物が写り込み続けた。
それはまるで、次の舞台のモチーフである四谷怪談に登場する民谷岩(たみや いわ)のようだった。
感想
四谷怪談。お岩さんが夫、伊右衛門に裏切られその恨みを怨霊となって晴らすといった内容だったと記憶しています。
四谷怪談は歌舞伎等でも演じられる人気の演目ですが、それ以上に公演前には関係者がお岩さんを祀った神社にお参りをしないと、祟りが起きると言う事でも有名だと思います。
物語はそのお参りをしなかった事が原因で、座長の死や諸々の怪現象が起きるのではと考えた劇団員がオカ研の下を訪れています。
四谷怪談はボンヤリとしたディティールは知っていても詳しい内容は知らなかったので、部長の語る四谷怪談の概要はとても興味深かったです。
全体の感想
今回のテーマは親戚、一族といった血族にまつわるお話かなと感じました。
親戚という血の繋がりのある関係であっても反りの合わない人はいるし、その中には問題のある人物も存在している。
当たり前の事かもしれませんが、エピソードを読んでいてその事を強く感じました。
親しき中にも礼儀あり、そういう事かなぁと今回収録された作品を読み終えて思いました。
また、そんな家族が引き起こした事を乗り越えた者と乗り越えられなかった者の違い、認識の差についても考えさせられました。
運や能力で、なんとか出来た人には出来なかった人の気持ちは分からない、それが人を自己責任論へ導くのかなと読んでいて感じました。
まとめ
今回のラストでは森司君の発言を切っ掛けにオカ研のメンバーが、森司君とこよみちゃんの仲を進展させようと色々言葉を投げかけていました。
個人的にはYOU達、もう付き合っちゃいなよと早い段階から思っていたので、部員たちも同じ気持ちだったんだなと何だかホッコリしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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