ホーンテッド・キャンパス 君と惑いと菜の花と
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
八神森司は鏡を見ながら何故自分はブラッド・ピットに生まれなかったのだろうと考えていた。
鏡に映った薄っぺらい体では、どんな服をきてもしっくりこない。
鍛え上げられた肉体があれば、Tシャツとハーフパンツでも決まるというのに。
ファイトクラブを流しながら、そんなことを思っていると携帯が鳴った。
高校時代の同級生、板垣果那からだ。
電話に出ると果那がこよみに何か言ったでしょうと問い詰めて来る。
こよみが果那にメイクの仕方を聞いたらしいのだ。
森司は何も言ってない、言う訳ないだろうと弁明したが果那は引き下がらない。
森司はドライブに誘っただけだと話すと果那は納得した。
小山内には言うなと釘をさすと、言う訳ないでしょと電話を切られた。
相変わらず一方的な奴だなとテレビを見ると、主人公がタイラーに語っていた。
森司は映画を止め腕立て伏せから始めようかなとつぶやいた。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第十弾。
各話のあらすじや感想など
目かくし鬼
あらすじ
三崎架子は身重な姉の手伝いの為、彼女の夫が相続した豪華な洋館を訪れていた。
元々は姉の亜子の夫、賢真の祖父が設計したてた物を、彼の父が受け継ぎ、さらに息子の賢真が相続したらしい。
アンティークな内装は素敵ではあるが、生活するにはいろいろと不便な点も多い。
賢真はアウトドアが趣味ということもあって、ウッドデッキや燻製小屋を自作していた。
ゆくゆくは客間も子供部屋に作り替え、大理石の暖炉も薪ストーブに変えたいらしい。
シーツを干しながら、姉と話していると彼女の愛娘、瑠璃が駆け寄ってくる。
庭で遊んでいたら虫がいたらしい。
捕まえて抱き上げるとやだぁと言いながら嬉しそうに笑った。
架子ちゃん遊ぼ、という瑠璃に架子はママのお手伝いがあるからもう少し一人で遊んでねと言った。
瑠璃は虫がいるから嫌と架子に鬼ごっこをせがんだ。
広い庭があるなら、走り回る鬼ごっこも楽しそうねと自分が鬼になることを提案すると、違うと言う。
瑠璃がしたいのは、目かくし鬼のようだ。
瑠璃は架子の手から抜けて庭にかけていく。
そしてママと亜子を呼んだ。
しばらく相手をしないとおさまらないと、亜子は瑠璃の相手をすることにして、架子に二階のベランダに布団を干してと頼んだ。
架子は了承し、姉にお腹が大きいんだから瑠璃に付き合ってあまり走り回るなと言った。
二階の寝室に入ると、アンティークなベッドとシャンデリアが吊られている。
地震が起きたら落ちてきそうだし、掃除も大変そうだ。
私には住めないなと架子は思いながら、ベッドから布団をはがしベランダに向かった。
ベランダからは広い庭が一望出来た。
先ほど干したシーツが風に揺れている。
庭では瑠璃が手を叩いて鬼さんこちらと言っていた。
それを追って目をつぶった亜子が歩いている。
架子はお姉ちゃん転んだらどうするのと怒鳴った。
亜子は慣れてるから平気と取り合わない。
架子は瑠璃の相手は私がすると階段を駆け下りた。
玄関を開けると庭に干されたシーツが一番に目に入った。
シーツの下から手を叩く瑠璃の足と、それを追う姉の足がのぞいている。
その後ろの足は誰のものだ。裸足なのに汚れた様子は全くない。
シーツにはお腹の大きな姉の影がうつっている。
姉の後ろを追う足はシーツに影がうつっていない。
足はもう姉に追いつきそうだ。
架子は飛び出しシーツごと姉を抱きしめた。
亜子と瑠璃は驚いて架子をみている。
どうしたのと問う姉の声を聞きながら、架子は周りを見回した。
そこには誰の姿もなかった。
感想
洋館というのはそれだけで事件の匂いがします。
映画や小説の影響が大きいのでしょうが、古い屋敷等を見ると過去にここで何があったんだろうと、想像を膨らましてしまいます。
よけいもの、ひとつ
あらすじ
土曜の昼、パン工場のバイト帰りだという、鈴木から森司は質問を投げかけられた。
土曜日だし昼でも一緒にどうと、部長の黒沼に声をかけられたのだが、部室に集まったのは森司、藍、鈴木の三人だった。
声をかけた部長は研究室でなにかあったようで、まだ姿をみせていない。
鈴木の質問は、森司が霊を見ることができるということを、いつ部員に言ったのかということであった。
森司は最初は隠していたと鈴木に話した。
なんで入部の理由は聞かないんだと言う森司に、鈴木はそれは聞かなくても分かってるんでと流された。
藍もこよみ目当てだとバレバレだったもんねぇと話す。
いつ頃ばれたのかを尋ねる鈴木に、藍がすぐばれたと言った。
その一件で女目当てかと思ったら、意外といい奴という評価に変わり、森司は晴れて正式にオカルト研究会に所属することになったのだ。
部長が来るまで、まだかかりそうだということで、森司の評価が変わるきっかけとなった事件について、彼自身が語ることになった。
感想
森司くんがオカルト研究会に入った頃、起こった事件の話でした。
バイロケーションやドッペルゲンガー等は、一人の人間が同じ時間に別の場所に存在する現象です。
自分自身に会いたいとは思いませんが、自分がもう一人いればと考えた事は何度かあります。
忙しくて動けない時など、自分にしか出来ない用事を、分身に任せたいと考えてしまいます。
いちめんの菜の花
あらすじ
教育学部四年の折口実來は子供たちの間ではやっているチェーンメールについて相談があるという。
彼女は去年、教育実習で訪れた中学校で受け持った。
年が近いということもあり、子供たちも懐いて相談を受けたりするほどだったという。
彼女はその生徒たちと、塾講師のアルバイトで再会したらしい。
バイトを始めた当初は問題なかったが、しばらくして塾を休む生徒が増え、その八割が女子だった。
中学校でも欠席者が増えていると講師たちは噂を話した。
実來は気になり、欠席している生徒にメールを送った。
返信してくれた生徒は全員が、耳鳴り、頭痛、めまい、発熱、手足のしびれがの症状が治らないと言ってきた。
気になったのは実來にいちばん懐いていた、凛花という生徒が返信してこなかったことだ。
実來は塾に内緒で凛花の見舞いに行ったが、本人には会えず、母親から熱が下がらず、悪い夢をみるらしいと聞かされた。
お大事にと彼女の家を後にした。
その後塾で一人の女子生徒に呼び止められた。
彼女は凛花と同じグループに所属している子だ。
彼女の話では、学校でおかしなチェーンメールがはやっているらしい。
チェーンメールには現在、恋をしているなら、メールの存在を大人には告げず、磐山の奥屋敷に行って、そこから何か一つ取ってくることと、恋をしている友人五人に同じ内容のメールを送ることが書かれていた。
メールを送らなかったり、大人に告げればその恋は永遠に成就することはないとも書かれてあったそうだ。
女子生徒の話では凛花の他にも実行した子は何人もいて、もれなく体調を崩しているようだ。
その中でも凛花は特にひどいらしい。
実來は奥屋敷について調べたらしく、有名な心霊スポットらしい。
中学校にも連絡を入れ、チェーンメールを禁止してもらったが、一度広まったものを消すことはなかなか難しいようだ。
黒沼部長も磐山の奥屋敷については名前は知っているが、あまり心に引っ掛からなかったと語った。
一行はチェーンメールについてひとしきり話した。
部長はメールを読んだものではなく、奥屋敷に行ったものが被害に遭っていると言い。
実際に奥屋敷に向かうため、藍に車を出してくれるよう頼むのだった。
感想
チェーンメールから始まった事件でした。
作中でも語られていますが、このような手紙の起源は古く、昔から徐々に形を変えつつ存在し続けています。
今後も媒体は変わっても、こういうものは消えないのでしょうね。
まとめ
今回、森司君はこよみちゃんとドライブに出かけます。
ドライブ先でのある出来事のため、森司君はこよみちゃんを実家に連れて行くことになるのですが…。
二人の関係が少しずつ進んでいるようで、読んでいると暖かい気持ちになります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。