小説 小説短編

たましくる

投稿日:2018年11月30日 更新日:

雪景色たましくる
著:堀川アサコ
カバー挿画:こより
出版社: 新潮社 新潮文庫

島田幸代は生まれて初めて東京を出た。
昭和六年の節分、幸代は姪の安子をつれて青森県の弘前をめざしていた。

上野の駅を出て十六時間、車窓から見える風景は色彩を無くし、目に入る色は白と黒、モノトーンのグラデーションに変化した。

彼女はこれから姪を捨てに行くのだ。

イタコの千歳と、幽霊の声を聞いてしまう幸代の二人が、事件に挑むオカルトミステリー

各話のあらすじや感想など

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魂来る

冒頭 あらすじ
幸代の双子の姉の雪子が亡くなったのは先月の事だった。
同居していた男を刺し殺し、首を吊ったのだ。
男の血を使い、襖紙に流行歌の文句を書いて彼女は死んだ。

姉の雪子は甲斐性の無い男にばかり惚れる女だった。
殺された酒田も様々な事業に手を出し、借金だけが嵩んでいた。
雪子が心中騒ぎを起こしたのは、これが最初ではない。
一度目は大学で文学を学ぶ青年だった。

彼と共に暮らすうち、雪子は子を宿した。
男はそれを知り、ひどく狼狽した。
彼は実家からの仕送りを使い果たし、貧困を紛らわすため恋愛に興じていたにすぎなかったのだ。

男の実家は田舎の名士で、学業を疎かにした挙句、娼妓上がりの女を孕ませたと知れれば、勘当されることは疑いない。

彼は、貧困に怯えたが、女をすてる決断も出来ず、別の道を選択した。
夕刻、両国橋の真ん中から二人で川に身を投げたのだ。

二人は死ななかった。
夕陽見物の屋形船に、溺れる間もなく拾われたからだ。
男は精神を病み、実家に連れ戻された。

一人残された雪子は、東京で女の子を生んだ。
それが安子だ。

二度目の心中が新聞で報道されたことで、安子の父親、大柳新志の実家である大柳家の耳にも入った。
嘗て幸代も雪子と同じく娼妓をしていた。

このままでは、血のつながりのある孫も同じ道を辿ることになる。
それは我慢ならないと、新志の母、松江は安子を引き取ると知らせてきたのだ。

列車の中で男が幸代に声をかけて来る。
好色な目を向けて来る男に、幸代は冷たい視線を返した。
幸代は今の安子と同じ年ごろ、六歳前後で遊郭に売られた。

十四歳で初めて客を取らされ、それから男というものに嫌悪感しか覚えなかった。
さらに誘いをかける男に大柳の名を出すと、笑顔が消え足早に立ち去った。

安子が張り子の狛犬で遊んでいる。
聞けば田浦にもらったという。
田浦重樹は酒田の舎弟のようなことをしていた。
器用貧乏でお人好しの青年だ。安子のことも可愛がっていた。

重樹は優しい男で、幸代に惚れているようだった。
出会った時も幸代の機嫌を損ねたことを悔やみ、下宿の外で雨の中頭を下げ続けた。結果、肺炎になり死にかけた。

自分の機嫌を取るために、体を張る男がいるということが、幸代には不思議だった。

姉の葬儀のあと、重樹は安子を養子にして一緒に暮らしませんかと幸代に言った。
幸代は答えられなかった。

なぜ返答できなかったのか考えていると、列車はトンネルに入った。

列車の揺れに誘われ、うつらうつらしていると、歌が聞こえた。
細くて優しい女の声だった。
光を感じる、トンネルから出たようだ。

ああ、綺麗。
窓の外に雪に覆われた真っ白い平原が広がっていた。
白い平原と青い空の真ん中に、三角の山が見えた。

「岩木山が見えますべ」

市松人形のように、真っすぐに黒髪を垂らした美しい女が前に座っていた。

感想
イタコの千歳と霊の声を聞く幸代の出会いの物語。
目の不自由な千歳は幸代に、手伝いをしながら一緒に暮らさないかと誘います。

幸代は重樹の言葉と、千歳の誘いに悩みながら、姉の事件の不自然さに気付いていきます。

昭和初期、人の売り買いが当たり前にあった時代だからこそ、起こった事件だと感じました。

ウブメ

冒頭部分 あらすじ
幸代は昭和六年三月、弘前市に隣接する清水村桔梗野にある、千歳の住む家に赴いていた。
彼女はこの家で、千歳の世話をしながら、安子の親代わりとして生活を始めた。

はじめは慣れなかった家政婦と母親の二役も、安子が学校に通いだすころには如何にか格好がつくようになってきた。

幸代は読み書きを千歳の従兄の大柳高雄から教わっていた。
高雄は小学校の教員をしている。
話の中で蝶子という名前が出てきた。

幸代はその蝶子ににているという話だった。

新聞を千歳のために読む、東京では連続暴行犯である西川譲吉という男が捕まったらしい。
その他の話題では、青森出身のソプラノ歌手、宮田須々子の音楽会が開かれると書かれていた。

須々子は千歳とは親友だったらしく、小学校の同級生だったそうだ。

感想
田舎の寒村、それが小作の家であれば、間引きは珍しい事ではなかったのでしょう。

貧しさゆえ仕方ない事だったのでしょうが、生まれて間もない命が、消えていくのはやり切れない気持ちになります。

インソムニア

冒頭部分 あらすじ
弘前の桜は天長節の頃に盛りを迎える。
観桜会と言って、今は公園として開かれた弘前城に近隣の町村から人々が詰めかける。

次男が元娼妓に生ませた娘、安子の事は大柳の本家では、誰が引き取るのか大きな騒動となった。
千歳が安子の面倒を見ることになって、二か月あまり本家とは連絡を絶っていた。

千歳はそのうち母が連絡を寄越すと楽観的に言った。

後日、千歳の言う通り彼女の母、松江から観桜会に着せる安子の着物を用意したから、幸代に取りに来いと連絡が入ったのだ。
千歳は全面勝利だとはしゃいでいた。

従兄の高雄が幸代にあう事を楽しみにしていると千歳は言った。
幸代はそれを聞いても素直に喜べなかった。

遊郭で育った彼女は男は銭と思えと教えられていた。
遊郭の名前何だっけ…。
幸代はそんなことを思いながら、まどろんでいた。

日曜の夕方、ラジオが昔話を語りだした。
それは海に戻りたいと願った人魚の物語だった。

感想
幸代はまるで白昼夢のように、思い出に入り込んでしまいます。
夢うつつの中で聞く物語の様な、そんなお話でした。

紅蓮

冒頭部分 あらすじ
富樫蝶子は大正十年の夏、家を飛び出した。
七月二十日、満月の夜の事だった。
殴られ額から血を流しながら、蝶子はある家を目指していた。

北風外記という剣道の教師の家だ。
外記は七十に近い老人だが、姉と慕っていた女性を後家に向かえていた。
その弥生という女性は、蝶子のよき理解者で、彼女の境遇を慰めてくれていた。

その日も話を聞いて貰おうと、外記の家に向かった蝶子だが、家では道場で宴席が行われていた。
宴席はランプの灯りと、煙草の紫煙で霞んでいる。
主人である外記の姿も、弥生の姿も見えない。

いや客たちの傍らで綱をもって立っている。
何かがおかしい、弥生はどこだ。蝶子は再度、道場を見渡した。
弥生はいたのだ。

天井から半裸で吊られていたのが弥生だった。

蝶子は衝撃で後退り、しりもちをついた。
にわか雨でぬかるむ地面の上で、彼女は気を失った。

感想
幸代にそっくりだという、新志のかつての恋人、蝶子のお話でした。
蝶子が失踪してから十年がすぎ、彼女に瓜二つの幸代が弘前を訪れたことで、物語は真実へ歩き始めます。

時代的な物もあるのでしょうが、女を道具のように扱った男のエゴが事件の発端のような気がします。

まとめ

イタコでありながら、一つ一つの事柄を積み重ねて、真相にたどり着いていく千歳と、霊を感じて真実を知る幸代。
二人は協力して真実に迫っていきます。

謎は解明されても、その人はもういない。
そのことに、もの悲しさを感じます。

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