ホーンテッド・キャンパス 待ちにし主は来ませり
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
大学を舞台にしたオカルトミステリー第十八弾。
もうすぐ冬休み、出会ってから約五年を掛けて森司(しんじ)君はこよみちゃんをクリスマスのデートに誘い、OKをもらいます。
その事で浮足立つ彼に関係無く、オカルト研究会には相談が持ち込まれ……。
各話のあらすじや感想など
有罪無罪原罪
冒頭部分 あらすじ
年の瀬から遡る事二か月、十月中旬。
オカルト研究会の部室をテンションの高い男子学生が訪れる。
工学部二年の藁科貴大(わらしな たかひろ)と名乗ったその青年は、基本、紹介制であるオカルト絡みの相談を何の伝手も無くオカ研へと依頼してきた。
その勢いと奇妙な物が映ったという動画データの入ったUSBに興味を示した部長の言葉で、一同は彼の持ち込んだデータを確認する事となる。
そのデータを見る前に、彼に話を聞いてみると彼は動画配信サイトに投稿しているいわゆる迷惑系投稿者の様だった。
動画はクリスマスイブに投稿予定の企画のロケハンとして取られたモノらしい。
規格の場所は有名な心霊スポットで「粟崎山隧道(あわさきやまずいどう)」と呼ばれる廃トンネル。
そこは四年前、ホストをしていた大学生が、彼にハマった女性会社員に包丁で刺し殺されたとしてニュースになった場所だった。
感想
曰く付きの場所に配信者が肝試しに出かける。
動画投稿サイトで検索すればその手の動画は山ほどヒットします。
お話はそんな動画投稿者の一人、藁科貴大の訪れから始まり二転三転していきます。
歪んだ思いは巡り巡って当人に返る。
そんな事を感じるお話でした。
黒いサンタクロース
冒頭部分 あらすじ
十二月二十四日のその日、バイトを終えた鈴木は偶然バイト先で居合わせた先輩の泉水に誘われショットバー「Laguna」へと向かった。
どうやらその店から見える道には霊がいた様で、オカルト研究会でも霊感のある二人はそれを鋭敏に感じ取った。
その霊について話していた二人は、客として来ていた女性のカクテルに、言い寄っていた男がクスリを入れた事に気付く。
二人は女性がカクテルを口にする前にその事をバーテンダーに告げた。
どうやら男はクスリで女性を前後不覚にし、介抱するふりをして彼女をホテルに連れ込み乱暴するつもりだったようだ。
バーテンダーが男に注意し揉め始めた時、和泉が男が入れたクスリの事を指摘、警察に通報する事をチラつかせると捨て台詞を吐いて男は店から立ち去った。
その後、彼女は二人に礼を言いつつ、彼らが見た霊は七、八歳の女の子ではないかと尋ねた。
どうしてそう思うのか。
そう尋ね返した泉水に、彼女はもしそうなら私が連れてきた幽霊だとおもうからと答えた。
感想
泉水と鈴木がバーで出会った女性、白土澪子(しらと みおこ)。
彼女が語る過去を泉水と鈴木が紐解いていく。
苦学生である二人がコンビを組んだのは初めてだと思うので、何だか読んでいて新鮮でした。
待ちにし主は来ませり
冒頭部分 あらすじ
今から一年前、森司とこよみが二年生だった頃。
オカルト研究会に泉水の先輩である金沢桐吾(かなざわ とうご)が相談を持ち込む。
それは遠縁の陣内邦彦教授から受け継いだ、ある人形の事についてだという。
その人形は教授の亡くなった娘を模して作られていた。
教授の娘への想いは凄まじかったのか、人形は髪や歯に娘本人の物が使われ作られた不気味な物だった。
毎日その人形の髪を櫛梳り、服を着替えさせ、果物を供える事を条件に教授の財産を譲り渡す。
そう言い残し亡くなった教授の遺言を知った金沢の弟は、金目的で引き受けた。
そしてその内、面倒になったのか世話を怠る様になった。
それから金沢の弟はおかしくなったのだという。
感想
三話目は紙面の約半分を使う大作でした。
不気味な人形、世話を怠りおかしくなった弟、人形を守り世話する事に執着していた教授、そして娘を殺したのは教授だと葬儀の日に彼を責めたという教授の妻。
ドロッとした愛情や期待が腐敗しグチャグチャになった物を見せられたような、そんなお話でした。
全体の感想
今回のテーマは親、親族の歪んだ感情といった物の様に感じられました。
どのお話も身勝手な人々の引き起こした事であり、そんな人々に関わった人達の受けた苦痛が描かれていた様に思います。
また、作中、時間は前後しますが全ての終着点が十二月二十四日に関連していった構成も見事だと感じました。
なんというか、読んでいて子供に親は選べませんが、それを捨てる決断は子供にも出来るとかそんな事を思いました。
まとめ
今回のラストのお話は完結はしていましたが、続編を匂わせる形で終わっていました。
あの人物が今後、どういった形で森司達、オカルト研究会へ絡むのか、次も楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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