死刑にいたる病
著:櫛木理宇
出版社: 早川書房 ハヤカワ文庫
筧井雅也は私立大学に通う大学三年生だ。
かつての彼は家族の期待に応えた優等生だった。
しかし、高校に進学するとついて行けず、精神を病んだ。
全寮制だったことも災いし、三度の休学を経て退学の道を辿る。
その後、彼は実家に帰ることは無く、叔母の家で週二度のカウンセリングを受けながら、高卒認定試験に合格。
大学を受験するも、受かったのは偏差値四十を切る私立大学だけだった。
優等生だった雅也は過去を振り切る事ができず、同じ大学の学生たちを見下しながら生活していた。
ある時、雅也のもとに一通の手紙が届く。
それは、連続殺人鬼、榛村大和からのものだった。
ホーンテッドキャンパスの著者が綴る、シリアルキラーを巡る物語。
冒頭部分あらすじ
榛村大和、五年前、二十四件の殺人容疑で逮捕された連続殺人鬼。
雅也は彼を逮捕前から見知っていた。
足蹴く通っていたパン屋の店主、それが雅也が知る榛村だ。
パン屋としての彼は、客受けもよく、顧客の要望に応えデザート系のパンや、糖尿病の人向けの低糖質のパンを作ったり、値札にアレルギー表記をしてサービスの向上に努めた。
事件が発覚した時、客の誰もがまさか榛村がと信じられない思いだった。
彼の自宅は農村のはずれにあり、店の商品用にと敷地に燻製小屋を建てていた。
農村の住民とも交流しており、献身的な彼の行動は本来、排他的な農村の人々にも受け入れていった。
住民は、燻製小屋で何が焼かれているのか、鶏のエサが何なのか、業務用の冷凍庫に何が入れられているのか、庭に植えられている木々の下に何が埋まっているのか気にする者はいなかった。
雅也は拘置所で榛村大和と対面した。
整ったルックス、ネットで調べた経歴では四十二歳のはずだが、とてもそうは見えなかった。
榛村は雅也をみて「久しぶりだね、まあくん」と微笑みを浮かべた。
榛村は雅也に自分が起こした事件をどこまで知っているのか尋ねた。
雅也は榛村に自分が知る事件の概要を語った。
ハイティーンの少年少女を殺害したこと、二十四件のうち九件で立件されたこと、先月死刑判決を受けたこと。
それだと榛村は言った。
彼は九件の殺人のうち、一件だけは自分が起こしたものではないと言った。
その一件は被害者の女性は二十三歳のOLだった。
絞殺され山中に遺棄されている。
榛村は自分のターゲット層からは外れるし、拉致後にすぐ絞殺する手口も自分の趣向に合わないと語った。
彼はその一件が冤罪だと認められても、死刑は覆らないが、やっていないことで裁かれるのは納得できないと雅也に話した。
雅也は拘置所に来る前に調べた、事件の被害者について思い出していた。
彼らは何日も暴行を受けた後、庭に埋められている。
彼女だけが浮いていた。
刑務官が面会時間の終わりを告げる。
榛村は手紙を書くからと言い残して、面会室を後にした。
感想
殺人鬼である榛村は人当たりが良く、雅也は彼に傾倒していきます。
雅也の思考が徐々に変化していく様子は、読んでいて恐ろしく感じました。
明正堂の増山さんが書かれた、帯の「浸食」という言葉がまさに的を得ていると思います。
彼に関係した人全てが、彼に浸食されていく、そんな感じの物語です。
まとめ
羊たちの沈黙のレクター博士、ジョジョの吉良、金田一少年の高遠等、シリアルキラーは敵役でありながら、魅力的に描かれています。
無論、フィクションの中のことであり、現実世界では恐ろしい犯罪者なのですが、物語、特にミステリーには欠かせない存在だと思います。