チ。 ―地球の運動について― 第三集 ビッグコミックス
作・画:魚豊
出版社:小学館
異端審問官、ノヴァクの手を逃れ箱に辿り着いた傭兵のグラスとオグジー。
その道中でグラスは死亡し、箱を託されたオグジーはグラスから聞いた修道士バデーニの下を訪れます。
登場人物他
ヨレンタ
ピャスト伯の屋敷で天文の研究に携わる少女
栗色の髪の非常に優秀な少女。
優秀ではあるが女性という事で研究会には参加出来ず、回される仕事は雑用ばかり。
その事に不満を抱いていても、立場上何も言えないでいる。
だがコッソリと研究会の内容は盗み聞きしている。
コルベ
ヨレンタが助手についた青年
赤いくせ毛のイケメン。
ヨレンタの論文を自分の名前で提出した。
ピャスト伯
私財を投じ師である教授と呼ばれた人物の説を完成させようとしている。
禿頭で白髭の老人。
天文を志した事で実家を勘当され、親戚である貴族、教授を頼った。
その後、その才能を認められ教授から財産と研究を引き継いだ。
バデーニ
修道士
隻眼で顔に傷跡を持つ男。
真実を追求した事で田舎の教会に左遷された。
数学、天文学に非凡な才を見せる。
あらすじ
ラファウがフベルトから引き継いだ地動説の研究を収めた箱。
その箱は処刑された異端者から傭兵のオグジーを経由し、聖職者であり研究者でもあるバデーニへと引き継がれた。
バデーニは箱の中身をよく出来ているとは認めながらも、発表出来るレベルには至っていないと研究の引継ぎをオグジーに約束した。
彼は研究を進める上で三つの条件をオグジーに提示した。
一つ、後進は作らない。彼が研究を完成させる事が出来なければ資料は全て破棄する。
二つ、目の良いオグジーが観測手と研究に参加する事。その代わり食事と寝床は教会から提供する。
三つ、この研究を発表して利益が発生した場合、分け前は9:1。勿論バデーニが9でオグジーが1だ。
それを聞いたオグジーは三つ目だけには異を唱えた。
彼が受け取った手紙には利益が生じた場合、その一割をラファウの養父であったポトツキに渡す様、記されていたのだ。
オグジーはなので自分達の分け前は九割を分けると言いかけで言葉を失う。
バデーニは条件が書かれたその手紙を、躊躇なく燃やしてしまったからだ。
唖然とするオグジーにこれでもう書いていないと話し、村へ戻るぞと彼を促した。
風に吹かれ燃え上がり灰となる手紙。
それを見たオグジーの脳裏に、自分に箱を託し死んだ同僚のグラスの姿が浮かぶ。
その事でオグジーは思わずバデーニに声を掛ける。
彼は手紙に書かれた言いつけを守ろうとバデーニに提案した。
もう燃えたと返すバデーニにオグジーは懸命に食い下がる。
手紙を書いた人物は箱を開けた読むだろう者を信じた。
今ここにいない人の心を無視したら、何かが決定的に失われる気がする。
そう言ったオグジーにバデーニには何かとは? と問う。
オグジーは狼狽え冷や汗を流しながら「歴史とかいうか」と首に手を回しながら答えた。
感想
今回は主要研究者を修道士のバデーニに変え、新たな女性研究者ヨレンタ、そして膨大な資料を持つピャスト伯とバデーニ、オグジーのやり取りの様子が描かれました。
その中でもピャスト伯と師である教授のエピソードが印象に残りました。
彼らは聖書に書かれた事を前提に、宇宙の真の姿を探し求めました。
しかし、この作品の冒頭で描かれた様に、天動説では星の動きは複雑をを極めどのような解釈をしても真実に辿り着く事は出来ません。
終盤、師と自分が生涯を賭けて追い求めた物が間違いだったと理解した時のピャスト伯の涙も分かる気がします。
ずっと信じていた物の根幹が否定され、人生自体が無意味になる。
それは彼にとって計り知れない衝撃だったのでしょう。
ただ、読んでいて感じたのは、何かを妄信する事への危険さでした。
信じる事は尊い事だとは思います。
しかし無条件で全肯定する事は、やはり何処か忌避感というか嫌悪感を感じます。
それは多分、作中に登場する人々が自身で考える事を否定し神の言葉(聖書)を無条件で受け入れている所にある気がします。
何かを鵜呑みにせず自分で調べ考える事、それを止めてはいけないなと今回のエピソードを読んでいて改めて感じました。
まとめ
今回、バデーニ達はピャスト伯の膨大な資料を手にする事に成功しました。
成功はしたのですが……次回、どんな展開になるのか今から読むのが楽しみです。
こちらの作品はビッグコミックBROS.NETにて第1、2話が無料で閲覧いただけます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。