片喰と黄金 5 ヤングジャンプコミックス・ウルトラ
著:北野詠一
出版社:集英社
モラレスの農場から逃げ出した黒人奴隷ロス。
彼に見つかり連れ去られてしまったアメリアは、ロスと共に月明かりの下、森の中を州境を目指し歩き続けていました。
登場人物
エリ・ブルームフィールド
黒髪の元教師の男性
黄金を求めカリフォルニアを目指している。
かなりまともな人物で、まともでは無いアメリアとイザヤに巻き込まれる形で仲間に引き込まれる。
セルマ
エリの妹
黒髪の気の強い女性。
夢に挫折し教師を辞め、その言い訳で黄金を求めた兄のエリを連れ戻そうとしている。
ハイラム
エリの幼馴染
赤髪で目端の利く青年。
セルマに付き添い、エリを探しに来た。
あらすじ
森の中を歩きながらアメリアは、殴られ折れた奥歯の痛みと疲れを紛らわそうとロスに話し続けた。
ロスは返事をすべきか一瞬悩むが、年下の白人の女と何を話せばと、生来の人見知りも加味され、アメリアと話すと言う選択肢を早々に放棄した。
そんな事はお構いなしにアメリアは一方的に話を続ける。
話が食事の話になり、非常食である猫のトサが話題に上り、火が使えないから生、と呟いたアメリアにロスは思わず「止めろ、食い物の話なのに食欲が失せる」と返してしまう。
それを切っ掛けに、アメリアとロスは話しながら森を進んだ。
食物の話から畑の話に変わり、やがて話題は綿花へと移る。
そして、話はロスの体験した奴隷の生活へと流れていく。
過酷な生活、主人による暴力、奴隷同士の裏切り、家族はバラバラになり主人が金が必要になれば売られる事もしばしば。
好きな事、やりたい事を持つ必要もなく、目の前の今日を如何にやり過ごすか。
奴隷に生まれて、奴隷に育つ。
ここ南部では麦や煙草や綿花。
そして奴隷が良く育つ。
最後はそう心の中で語り、アメリアにロスは向き直る。
ロスの話を聞いたアメリアは怒りで顔を歪め「おぞましい」と一言呟いた。
感想
今回は冒頭、アメリアを連れ農場を逃げ出した黒人奴隷ロスのお話から始まり、怪我と疲労でダウンしたアメリアとイザヤ、そして二人が出会った元教師のエリの様子等が描かれました。
今回はその中でも冒頭のロスの話がやはり心に残りました。
奴隷とは人を物として扱う事であり、そう扱われている人達も段々と他者を物としか感じなくなっている様に読んでいて思いました。
作中描かれた様子では、自分以外の他人は自分が今日を生き延びる為の駒でしかなく、自分も他者にとって同様の存在に過ぎない。
自由を奪う事、奪われる事は心を殺す事であり、命があってもそれは死んでいるに等しい。
アメリアと話し、彼女の怒りと憤りに触れた事でロスは自分の求めていた物が何か気付いた様でした。
エピソードの終盤、アメリアはロスを庇い、コナーが放った銃弾が耳をかすめ倒れてもロスに「走れ!!!」と叫びます。
作中、終始、アメリアはロスに対等な人間として接していた様に思います。
その言動や行動が、彼に自分は奴隷という物では無く、感情を持った生き物なのだと思い出させ、奴隷という生き方が染みついていたロスを変えたのだと、人間に戻したのだと感じました。
まとめ
ボロボロでも空元気を振り絞り、迷いながらも立ち上がって前を向き進み続けるアメリア。
彼女の姿を見ていると自分もこうありたいと強く思います。
もう、ほんとカッコいい。
この作品はコミックDAYSにて一部無料でお読み頂けます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。