ロスト・ラッド・ロンドン 1 ビームコミックス
著:シマ・シンヤ
出版社:KADOKAWA
クリスマスも近づいた冬のある日、地下鉄で現職のロンドン市長が殺害されます。
それから二日後、平凡な大学生アル・アドリ―はハンガーに掛けていた自分のジャケットのポケットに、血の付いたナイフが入っているのに気付きました。
その直後、事件を捜査している黒人刑事エリスがアルの下を訪ねてきて……。
登場人物
アル・アドリー
大学生
浅黒い肌の南アジア系の特徴を持つ青年。
養子であるが義母との関係は良好な様だ。
しかし、祖父母とは余り良くないようで、実家に帰る事を渋っている。
同居人のカラムの課題を手伝い、対価として報酬を得ている。
カラム
アルの大学の友人で同居人
金髪で童顔の青年。
裕福な家の出らしく、余りお金に頓着しないようだ。
レニー・エリス
ロンドン市警の刑事
大柄な黒人男性。
事件を担当する前に自転車に撥ねられ左足を折り首も負傷。
その後、怪我が原因で転倒、額と左腕も負傷する。
過去に冤罪かもしれない事件に関わった事で、アルを第一容疑者とせず、彼と協力し犯人を捜す。
ユキ・ハワード
エリスの同僚
黒髪を後ろで纏めたパンツスーツの女性刑事。
日系人。
エリスとは古い付き合い。
キング
ロンドン市長
地下鉄内で何者かに刃物の様な物で殺害され、死亡していた所を鉄道員に発見される。
アルの母
金髪の白人女性
養子であるアルに本当の子供の様に気さくに接する。
アヴァニ・バトラ
アルの実母
南アジア系の女性
過去に市長と接点があった模様。
彼女の妹の話では大学では主席を取り、かなり優秀だったようだ。
二年前にがんの再発によりこの世を去る。
あらすじ
同居人のカラムは実家に帰り、一人部屋に残りジャケットからナイフを見つけてしまったアル。
そんなアルの下へ一人の刑事が訪ねて来る。
黒人で髯のその刑事は松葉杖をついており、左手と左足はギブスによって固められ、首も負傷している様だった。
アルは立っているのが辛いらしいその刑事を、部屋に招き入れソファーに座らせた。
刑事はアルに似た者が市長のそばにいたという証言から、彼に話を聞きに来たようだ。
アルは正直に市長が同じ電車に乗っていた事も後で知ったぐらいと話し、事件との関与は否定した。
そんなアルに刑事は何か思い出したらここにと、名刺を取り出そうした。
しかし、彼の左手はギブスでガチガチだった。
恐縮しながらアルに名刺を取ってくれないかと言った刑事の言葉にしたがい、彼のジャケットから名刺を一枚取り出す。
そのエリスという刑事は、ほんの些細な点でもいい、思いがけない糸口が転がっているかもしれないからと、情報の提供を頼んだ。
アルは名刺を眺め、おもむろにナイフの事を切り出した。
そのナイフはサイズと形状は現在市警が捜索している物と一致する。
アルの立場はかなり微妙な物となった。
容疑者って事ですか?
そう確認したアルは、ナイフは自分の物ではないし、さっき言ったとおりでどうしていいのかわからない、俺じゃないと顔を押さえ呟く。
その姿がかつて扱った事件の容疑者と重なる。
エリスは何故、正直にナイフの事を話したのかと問う。
アルはそうするのが正しいような気がしたとエリスに答えた。
その答えを聞いたエリスはアルを連行する事はせず、彼と共に真犯人を突き止める道を選んだ。
どうして?
そう尋ねたアルに「俺もそうするのが正しい様な気がしてるんだ」と答えた。
感想
容疑者の青年アルとベテラン刑事エリスの二人が、アルに罪を着せようとした犯人を追うクライム・サスペンス。
主人公アルは南アジア系のイギリス人であり、表面上、人種差別はないといっても容疑者とされれば白人よりはかなり不利な状況になるようです。
また、黒人刑事のエリスも白人以外への根底的な差別がある事を身を以って知っている様でした。
作品は市長殺害という警察のメンツのかかった事件を主に、アルを陥れようとする者と事件解決を急ぐ警察からの追及を躱しながら、真相に辿り着こうと行動する二人の様子が描かれています。
見た目は強面ですが、どこか愛嬌のあるエリス。
繊細そうに見えて、意外と図太いアル。
そんな二人のやり取りが読んでいて楽しいです。
まとめ
有色人種の二人の凸凹バディ物といった作品です。
アクション性は薄く、イラストレーションの様な絵で物語は淡々と進んで行きます。
極上の海外サスペンスを観ている様なそんな作品でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この作品はComicWalkerにて、一部無料で閲覧可能です。