チ。 ―地球の運動について― 第一集 ビッグコミックス
作・画:魚豊
出版社:小学館
聖書の教えを第一とし、異端思想が弾圧されていた中世ヨーロッパ。
天才児ラファウは合理性を重視し、周囲の状況に迎合する事でそつなく安全で成功出来る道を歩んでいました。
そんな彼が異端者として裁かれたフベルトという男と出会う所から物語はスタートします。
登場人物
ラファウ
頭脳明晰な少年
神父である義父ポトツキに引き取られ、自分の考えを殺し社会に迎合する事で合理的に生きようとしている。
大学に入り天文学を学びたかったが、ポトツキに神学一本に絞る様言われた事で表面上はあっさりと天文を捨てた。
ポトツキ
ラファウの養い親
神の教えを信奉する敬虔な神父。
子供達に学問を教えている。
フベルト
異端者として裁かれた男
拷問により癒えぬ傷を負った大柄な男性。
神が説いた地球を中心に星々が回っているという天動説を否定し、地動説を唱えた。
彼は神を愛しており、その神が作った世界の美しさを信じた。
ノヴァク
異端審問官
拷問により異端者に改心を促す。
眉一つ動かさず人を苦しめる。
元傭兵らしい。
あらすじ
才能はあるものの周囲を馬鹿にし、世界チョロいと思っていた少年ラファウ。
彼はそんな本心を隠し他者が求める清廉、聡明、謙虚、有力という人物像を演じる事で楽に人生を歩もうとしていた。
大学への入学も決り、興味のあった天文から義父の言葉で距離を置く事となったが、それも合理性を重視するその時の彼には大した問題ではなかった。
そんなある日、ラファウは義父のポトツキから、異端者であるフベルトという人物の引き取りを命じられる。
改心した異端者を受け入れる事は敬虔な信徒しての証になる。
異端者と関わる事に戸惑いを覚えたラファウにポトツキはそう語った。
そんな義父の言葉に従い、ラファウはフベルトを引き取りに向かった。
だが引き取った、顔に拷問により傷を負ったその男は改心などしていなかった。
彼は腰にアストロラーベ(天体観測器具)を吊るしたラファウが天文専攻だと気付くと、彼を脅迫、無理矢理自分の為に天文をやれとラファウ迫った。
傷だらけとはいえ巨漢のフベルトに逆らえず、ラファウはすぐに彼の言葉に従った。
その後、解放されたラファウはすぐにでもフベルトを異端者だと告発しようと考えた。
しかし、彼が口にしたもっといい観測地という言葉に魅かれ、フベルトと共に星空の下に向かってしまった。
そこは確かにラファウがこれまで観測していたよりも、素晴らしい場所だった。
その星空の下で、フベルトは天動説で形作られた星の動きは美しいか問うた。
地球を中心と考えた星の動きは複雑すぎて、ラファウには合理的では無いと感じていた。
ラファウはフベルトに促され、最終的にはあまり美しくないと答えていた。
続けて美しく無いのは残念だが、宇宙全体を表せる秩序なんてある訳が無い。
だからそんな事を問題にしてもしょうがないと答えた。
その答えを受けてフベルトは、私は美しくない宇宙に生きたくないと返す。
美しくなくても理屈ではそうなっている。
星が動き太陽が昇る限り、あの理屈は成立する。
そう言ったラファウにフベルトは言う。
太陽も星も止まっているとしたら?
流石にそれじゃ成立しない。
成立する。
じゃあ今、空を動いているのは何なんです?
地球だ。
世界の中心を地球としていた中世で、フベルトは動いているのは地球の方なのだと驚きで目を見開いたラファウに語った。
感想
地球は静止し、その周囲を太陽を含めた星々は回っている。
中世ヨーロッパではそう考えられ、その絶対的な基準に基づき計算された星の動きは複雑で矛盾を孕んだ物でした。
この作品はそんな不合理な宇宙に疑問を抱いた人々が、異端者として裁かれながらも真実に触れる感動を求め、地動説を証明しようとする物語です。
あらゆる物事、例えば人が作り出した品物でも機能美に優れた物は、それまでの形を覆す物であっても美しい気がします。
一番無駄の無い形、世界は自然とそう言った物になっていくのでは無いでしょうか。
逆に何かに執着し、それが正しいのだと後付けの理屈を加える程、物事は歪み複雑さを増して醜くなっていく気がします。
作品を読んでいてそんな事を感じました。
まとめ
作品はラファウの物語という訳では無く、彼がフベルトから受け継いだ物を次の人が継承する事で続いていきます。
この作品の主役は個人では無く、地動説に関わった人々という形で描かれていく様です。
こちらの作品はビッグコミックBROS.NETにて第1、2話が無料で閲覧いただけます。
作者の魚豊さんのTwitterはこちら。
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(転売嫌い)