黄昏の岸 暁の天
著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫
十二国記の第八作目、行方不明の泰王、そして泰麒(タイキ)を救うため、戴国瑞州師(たいこくずいしゅうし)の将軍、李斎(りさい)は妖魔が出没する海を越えて慶国に向かった。
冒頭部分 あらすじ
春といえど極北に位置する戴国(たいこく)では雪も除け切らず、草木の芽もまだ雪の下だ。
その戴国の首都、鴻基(こうき)の白圭宮(はっけいきゅう)で幼い麒麟、泰麒は主の身を案じていた。
泰王驍宗(ぎょうそう)は乱の鎮圧に文州(ぶんしゅう)へと旅立った。
しかし旅立った直後から、不穏なうわさが宮中に広がっていた。
文州の乱は王を弑逆するための罠だったというものだ。
文州は瑞州(ずいしゅう)の北、両州の間には山脈がそびえ、山腹を細い山道が這っている。
その道の先、文州へ抜ける場所に逆賊たちは待ち伏せをしているとささやかれていた。
そして昨日、驍宗が伏兵に襲われ苦戦していると報せが入った。
祈る事しか出来ない自分を、泰麒は情けなく、そして腹立たしく思った。
驍宗の無事を知るべく、嫌がる使令を説得して彼らを文州に送った。
泰麒は使令を汕子(さんし)と傲濫(ごうらん)の二者しか持っていない。
長く蓬莱で過ごした泰麒は、麒麟の力を上手く扱う事が出来ず、女怪の汕子の他には饕餮(とうてつ)の傲濫しか折伏(しゃくぶく)することが出来なかったのだ。
何度目かの驍宗の無事を祈った時、泰麒の後ろに立つものがあった。
驍宗の苦戦を知らせてくれた者だった。
泰麒はその者に使令を文州に向かわせたことを告げた。
するとその者は頷き、腰の剣を抜いた。
怪訝に思いどうしたのと尋ねる。驍宗は死んだとその者は語った。
嘘と思わず口にして相手を仰ぎ見る。
相手は驍宗を選んだ貴方が悪いと振りかぶった剣を、泰麒に振り下ろした。
咄嗟に身をよじった泰麒の角を、剣は深く抉った。
痛み、裏切り、主の喪失、叫びをあげた泰麒はその場で溶解した。
時を同じくして、文州に向かっていた汕子も衝撃を受けていた。
泰麒の元に戻ろうと、土に潜る。
地脈を進み、竜穴から飛び出し風脈に乗る。
金の明かりに向かい突き進む。
泰麒の影に入ろうとした時、したたかに拒絶された。
泰麒がこの世界からもぎ取られようとしている。
消え去りそうな泰麒の影に汕子は滑り込んだ。
小さな畑の間に古い建物が建ち並んでいる。
道はアスファルトで覆われ、四月の日差しはその表面に小さく陽炎を生んでいた。
陽炎が大きく揺らぎ膨れ上がり、大人の背丈ほどになる。
そこから子供が吐き出される。
泰麒は虚海(きょかい)を超えていた。
感想
戴国でクーデターが起こり、泰麒は蓬莱へ、驍宗は行方不明という事態が起こってしまいます。
瑞州師の将軍、李斎は慶国に新たに起った王が胎果と聞き、同じ胎果の生まれである泰麒を救ってもらおうと、虚海を超えて慶国を訪れます。
今作では風の万里迷宮の岸で、ほぼ名前しか出ていなかった元麦州候浩瀚(こうかん)の為人や、慶国の宮中の様子が描かれています。
また氾王、氾麟も登場し、物語に登場していないのは、柳と舜の王と麒麟だけになりました。
物語の中で戴国の反乱の首魁は、禁軍右将軍の阿選(あせん)らしいのですが、戴の中枢の状況が全く分からないので、はっきりしません。
この度、待ちに待った新作の状況(2018年12月)が報告され、このモヤモヤが、ようやく解消されそうです。