月の影 影の海 上
著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫
十二国記の第一作目、女子高生の中嶋陽子が王として、人として踏み出すまでを描いた物語。
冒頭部分 あらすじ
中嶋陽子は女子校に通う高校生だ。
彼女は親や教師、同級生の目に怯え、周囲の期待を裏切らないよう自分の意志を押し殺して生きてきた。
彼女はこの一か月、同じ夢を見続けていた。
闇の中、紅蓮の明かりを背後に、巨大な獣が駆けてくる。
遠かった獣の姿も、日を追うごとに近くなりあと二日もすれば八つ裂きにされるだろう。
初めは闇の中に水滴の音が聞こえるだけだった。
しかし三日目の紅蓮の明かりが現れ、それからその光の中、シミのように影が見えた。
何日かたって、それが異形の獣だと分かった。
悪夢にうなされ、寝不足が続いていた陽子は、授業中にうたた寝をしてしまう。
眠りの中であの夢をみる。起きなければと焦る陽子を引き戻したのは、英語教師の叱責の声だった。
教師は陽子の生来の色素の薄い、赤い髪を染めているのでないかと疑い、彼女を攻め立てた。
放課後、担任に呼び出され、居眠りの件と髪の事を注意される。
もう帰って良いという担任に頭を下げた時、背後から声をかけられた。
「……見つけた」
声をかけてきたのは奇妙な風体の男だった。
年の頃は二十代後半、裾の長い着物の様な服を着ている。
淡い金髪は腰のあたりまで伸びていた。
担任の誰だという問いには答えず、男は陽子を急かした。
間近で声が響いた。
何処からするか分からない声は、タイホ、追手が。と話した。
その声を聞き、男が陽子の手首をつかんだ。
ここは危険です。敵が来ます。と彼は陽子に言う。
陽子が敵?と問い返した時。
来ましたと声が告げる。
見廻したがやはり姿は見えない、教師たちがなにか言いかけた時、裏庭側の窓ガラスが割れた。
男は窓ガラスから陽子を庇ってくれたようだった。
危険ですと言い、腕をつかみどこかへ連れて行こうとする。
担任の制止を退け、男は陽子を引っ張った。
嫌だという陽子に、男は顔をしかめ、頑迷なと吐き捨てるように言ってから、膝をついた。
陽子の足を掴み早口で言う。
「ゴゼンヲハナレズチュウセイヲチカウトセイヤクスル」
その後許すと言えと、語気を荒げて迫る。
男の勢いに押され、陽子は許すと頷いていた。
男は頭を垂れ、陽子の足の甲に額を当てた。
立ちくらみがして、何かが陽子の中を駆け抜けた。
感想
陽子はケイキに誘われ、海に映る月の影を抜けて、異界にわたります。
そこでケイキたちとはぐれ、様々な人からの迫害や裏切りにあい、妖魔と呼ばれる怪物に襲われ、心を惑わす蒼い猿に付きまとわれます。
剣が見せる、家族や友人たちが語る優等生だった自分。
有りとあらゆるものが、陽子に絶望を突き付けます。
この上巻だけを読んで読むのを止めた方は、ぜひ下巻をお読みいただきたいです。
この巻で心に溜まったモノが全て吹き飛ぶと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。