小説短編

十二国記 華胥の幽夢 各話あらすじ・感想

投稿日:2018年12月21日 更新日:

桃
華胥の幽夢

著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫

十二国記の第七作目、理想の国を夢見、それを成し得なかった才国の姿を描いた表題作ともなった、華胥(かしょ)をはじめ、王と麒麟の姿を描いた短編集。

各話 あらすじと感想

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冬栄

冒頭部分 あらすじ
冬のある日、雲海の下の雲が晴れ、白く染まった大地からの照り返しで宮城は明るく照らされていた。
白陽、そう泰麒に教えてくれたのは傅相(ふしょう)の正頼(せいらい)だった。

雲海の下を見ようと泰麒は正頼と共に王宮を急いだ。
しかし彼が雲海の下を見る事は叶わなかった。
途中、驍宗(ぎょうそう)達に見つかってしまったのだ。

驍宗と一緒にいた李斎(りさい)に雲海の下を見ようとしたと話すと、照り返しで何も見えないと教えられる。

正頼を見ると笑みを噛み殺してあらぬ方を向いている。
泰麒はよくこうして正頼に揶揄われる。
李斎に下の様子を見たいと願うと驍宗が連れて行っていこうと言ってくれた。

泰麒はうれしいと同時に申し訳ないと思った。

禁門から見た景色はとても美しかった。
山々や街は雪に覆われ陽光をあびて白銀に輝いている。
澄み切った空の青と大地の白の対比が鮮やかだった。
景色に見とれると同時に寒さが泰麒を襲う。

震える泰麒に、驍宗は暖かい所へ行ってみたくはないかと尋ねた。

感想
極北の国、戴国から南の漣国へ泰麒は訪れます。
漣での出会いが悩む泰麒の心を救います。

暖かい事と食べ物が豊富だからでしょうか。
現実世界でも南の島に行った際に感じた人々の、のんびりと生きている様子は忙しない日本の生活を忘れさせてくれる気がしました。

乗月

冒頭部分 あらすじ
峯王仲韃(ちゅうたつ)を弑逆した月渓(げっけい)は弑逆から四年、朝の混乱も収まったことを期に後の事を冢宰の小庸(しょうよう)に任せ恵州に戻ろうとしていた。

彼は州候にすぎない自分が国政にこれ以上口出しするのは天道を踏みにじる行為だと小庸に語った。

小庸は月渓に仮王として官を束ねて欲しいと懇願するが月渓は無言だった。
俯く彼の元に下官が知らせを持ってくる。
慶国の王から親書が届いているという。

芳と慶に国交はなく、しかもいまは王が不在だ。
王から王への親書なら納得もできるが一体どういうことだ。

月渓は困惑した思いで使者を迎えた。

感想
このお話では風の万里黎明の空では描かれなかった峯王仲韃の為人や彼を弑逆した月渓の気持ちが書かれています。

どんなに清廉な人物でも他人の言葉を聞かず方向を誤れば道を外してしまうということでしょうか。

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書簡

冒頭部分 あらすじ
雁国の大学に通う楽俊(らくしゅん)のもとに一羽の鳥が舞い降りる。
鳥が部屋の窓を突いているのに気付いた彼は鳥を室内に入れ頭を撫でた。

鳥は友人の声で語りだす。
友人の名は陽子、現在は慶の王として金波宮で暮らしている。
鳥は彼女の近況を語った。

胎果(たいか)である彼女はこちらの仕組みが分からず苦労しているようだ。
景麒には口うるさく注意されるとぼやいていたが、仲良くやっているようで何よりだ。

功の様子も伝えてくれた。
塙王が亡くなったことによる災害などはまだ目に見える程ではないらしい。

母にも会ってパンをご馳走になったという。
新しい年号は楽俊の名から一字取って赤楽としたようだ。

その後、景麒が呼びに来たことを話し鳥はしゃべり終えた。
楽俊は「元気そうだなぁ。ちょっとは王様らしくなった感じだよ。」と呟いた。

感想
声を伝える鳥を介した楽俊と陽子のやり取りのお話です。
ふたりはそれぞれ問題を抱えていますがお互いそのことを話したりはしません。

二人の間の強い信頼を感じる物語でした。

華胥

冒頭部分 あらすじ
華胥華朶(かしょかだ)、宝玉で出来た桃の枝。
才州国の宝重だ。枕辺に挿して眠れば国のあるべき姿を夢に見せてくれるという。

砥尚(ししょう)は采麟にそれを見せてくれると言ったが、約束は果たされる事無く采麟は病の床についた。

砥尚は傑物として知られていた。
異例の速さで大学にすすみ僅か二年で終了の允許(いんきょ)を得た。
大学を出た者は国府に入るのが常だが先王を嫌った砥尚は野に下った。

その後、国は腐敗していき砥尚は同士を集め王を糾弾した。

国の理不尽と戦い、王が斃れたあとは昇山し采麟に選ばれ王となった。
共に戦った同士を国の要職につけ才は良くなると誰もが信じた。

しかし登極から二十余年、采麟は病に斃れ王朝は沈もうとしていた。

感想
政治の実情を知らず、理想のみを追い続けた砥尚は道を失い周囲は混迷します。

終盤、黄姑(こうこ)が語る「人を責める事は何かを成している事ではない」という言葉が心に残りました。

帰山

冒頭部分 あらすじ

利広(りこう)は柳で昔馴染みの男、風漢(ふうかん)に出会う。
柳が傾いている。そんな噂を聞き利広は柳を訪れた。
よもや風漢と出会うとは噂は本当らしい。

彼と出会ったのは遠い昔だ。
初めて出会った時は再会することは無いだろうと思っていた。

だが六十年程たって再び出会った。
その時お互い姿が変わっていなかったから、彼自身が言うような風来坊ではないと思っていた。

それから何度も会ううちになんとなく何者かは分かった。
彼と会う時はいつもこんな場所だった。
揺らいでいる国。
利広は風漢に良くないと話した。何がと問う風漢に利広は説明する。

国が傾いているのに住民たちの様子が明るい。

長年の経験からそれが国が危険な状態にあることを利広は知っていた。
その後風漢に誘われ彼の取った宿に向かった。

感想
宗王の息子、利広のお話でした。

奏国は王の一家が合議で方針を決めています。
これは彼らが宿を営んでいた頃から変わらず、変化したのは合議に宗麟が加わったことだけの様です。

彼らのまるで普通の家庭のような会話の中で、国の施策が決まっていく様と、利広と風漢のやり取りが友人同士が揶揄いあっているようで楽しく読むことが出来ました。

まとめ

王と麒麟、その周辺の人々に焦点を当てた短編集でした。
雁や、また漣などの王がどこか緩やかな空気を持っているのに比べて、峯王や才王は張り詰めたものを感じます。

真面目なのが悪いわけではないのですが、揺らぎのないものは受け流すことが出来ず折れてしまう気がします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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