小説 小説短編

おもいでエマノン 各話冒頭部分あらすじ・感想

投稿日:2018年10月18日 更新日:

航跡
おもいでエマノン

著:梶尾真治
画:鶴田謙二
出版社: 徳間書店

異国風の彫りの深い顔立ち。すんなりと伸びきった肢体。ジーンズにナップ・ザック。ながい髪、おおきな瞳、そしてわずかなそばかす。  彼女はエマノン。

地球上に生命が発生してからの、すべての記憶を受け継いでいる少女、エマノンの物語。

この短編集には表題作を含め、八作品が収録されています。

各話のあらすじや感想

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おもいでエマノン

あらすじ
SF好きのぼくは、人生で何度目になるか解らない失恋をして、それを癒すために、バイト代も入ったことから感傷旅行に出た。

その旅行の最中、北九州に向かうフェリーの中、エマノンと名乗る不思議な少女と出会う。
彼女は地球に生命が誕生してから、現在までの全てを覚えていると言う。

彼女は太古から親の記憶を、引き継ぎながら存在し続けているらしい。
ぼくは彼女の話に聞き入った。

感想
生命の起源から記憶を引き継ぎ、放浪の旅を続ける美少女。
初めて読んだ時、なにか常識を揺さぶられる様な感覚を受けました。

さかしまエングラム

あらすじ
交通事故で入院した少年、晶一は医師の田口からうつ病の治療を受けていた。

田口はダイアネティックスに耽溺していた。
ダイアネティックスとは生前に受けた胎児あるいはそれ以前の存在であったころの細胞の記憶が精神に影響を及ぼすという考え方だ。

田口は己の知的好奇心を満たすため、晶一に催眠術による記憶の遡りを実行させた。

感想
事故による怪我で血を失っていた晶一に、エマノンは輸血を行います。
彼女の血により、一命をとりとめた晶一ですが、彼は自分の記憶とは別の膨大な記憶の存在に苦しみます。

エマノンの血の中に蓄えられた記憶、それを与えられた少年が遡り変質していく。ちょっと怖い話でした。

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ゆきずりアムネジア

あらすじ
老人は良三に、その女性との出会いについて話してくれるよう懇願した。

良三は老人の願いを聞き入れ、その女性「荏麻」との出会いを語り始めた。

感想
エマノンがどのように記憶を継承していくのかが語られた作品です。

彼女は良三の話の冒頭、記憶を失っています。
彼と生活しながら、夢で見る見知らぬ記憶に怯える荏麻を、良三は支えいつしか彼女を深く愛していることに気付きます。
やがて二人は結婚し、娘を授かるのですが……。

エマノンの物語は全てそうなのですが、時間の枠から離れたことによる悲しさのようなものを感じます。

とまどいマクトゥーブ

あらすじ
神崎潮一郎はエマノンの前に立ちいった。
「きみがエマノンか。ぼくはきみと結婚することになる男さ。」

神崎の話では彼には全てが分かるらしい。
さらに彼の体は異常な再生能力を持っていた。
彼はエマノンの目の前で手にナイフを突き立てた。
彼の傷はあっという間にふさがった。

「ぼくは選ばれた人類なんだ。新たな進化段階に入ったモデルケースだ。君は常に進化の先端にいた。だから君は僕と結ばれるべきなんだ。」

神崎は熱く語った。

感想
神崎は能力を使い、アメリカで複合企業の総裁になります。
彼がどんなに成功しても、エマノンは彼に嫌悪感しか感じません。その理由とは。

人類という種の存続のため、神崎という異質な能力を持つ存在が生まれたのでしょうか。終盤、本心を語った神崎の言葉は涙をさそいます。

うらぎりガレオン

あらすじ
アリゾナの砂漠でサンディとトミーの親子二人は、行き倒れていた少女エマノンに出会う。

エマノンを拾った二人は砂漠用滑空車(デザート・スピナー)の燃料も残り少ないため、最初の予定通りサンディの父のいる研究所「ガリオン」に向かうことにした。

「ガリオン」に着いた彼らを出迎えたのは、彼女の父親ではなく自らを生命体と主張する有機培養された細胞の集合体だった。

感想
二〇〇一年宇宙の旅のような、コンピューターによる反乱を思わせるお話です。

ガレオンは遥か昔、宇宙を旅していた生命体で、事故により地球に不時着しました。
自身では宇宙に戻ることが出来ないため、現地生物を進化させ宇宙船の製造を行わせる事を目標としていました。

現在の人類は自分が手を加えたことにより、発生したのだから自分は人類にとって神であると語り、エマノンたちに協力を強要します。

自分の主張だけを言い続けるガレオンに、どこか虚しさを感じるお話です。

たそがれコンタクト

あらすじ
ヒデノブは友人のヨシフミと二人、空港で一人の女性を探していた。
ヒデノブは特殊な力を持っていた。
これから先の未来に起こることを、記憶として持っているのだ。

彼は自分自身の存在に悩み、能力により知った過去から現在までの記憶を持つエマノンという女性にあう事を望んでいた。

彼女と会えば自分自身の存在意義について、何かわかるかもしれないと期待したからだ。

彼は偶然知り合った、人の心が読める青年ヨシフミの力を借りエマノンとの接触を試みる。

感想
この物語の中でヒデノブは未来に起こることが、全て自分のなかにある記憶通りになることを認識し、人生は全て決まっていて何をしようが変わることがないなら、行動の全てが無意味ではないか、と無力感に苛まれます。

物語の終盤、ヒデノブは人生の意義、存在の意味よりも大事なことがあると気付きます。

人は一日一日を精一杯生きれば、それでいいのかもしれません。

しおかぜエボリューション

あらすじ
ローカル局のアナウンサー鉈地英子は、番組で七十秒のコーナの企画を任される。
どのような物にするか悩む英子に、文化部の猪部が母親の住む町に変なものが生えだしていると情報をくれた。

取材するか悩んでいた英子は、ある日一人の老人と出会う。
丹下と名乗ったその老人は、昔放送局にいたと言い、番組が終わるのもいたちごっこだと語った。

充電して、充電して、充電して、一瞬、完全放電させればいい。
彼の言葉が心に引っかかった英子は、局に戻り彼の資料を探す。

老人が書いた膨大な企画書と生き方に、何かを感じた英子は三連休を利用して、町の取材を行うことを決めた。

感想
英子は取材を通してエマノンと、彼女と似た存在であるアイオンに出会います。
その出会いによって英子は悩みを吹っ切ります。

アイオンの終盤の語りがとても好きな作品です。

あしびきデイドリーム

あらすじ
布川輝良(ぬのかわあきら)は大学生三年生の春、睴里(ひかり)と名乗る女性と知り合う、彼女とは半年ほど同居したが突然消えてしまった。

睴里のことが忘れられない輝良は、六年後、大学生の時暮らしていた街を訪ねる。
街の住人は輝良のことは覚えていても、睴里を覚えている人は一人もいなかった。

自分の妄想が生み出した存在だったのか。
諦めきれない輝良はかつて睴里が口にした、暮らしていたという場所、小崩(こくえ)を訪ねることにした。

感想
睴里という存在が一体なんなのか、物語の進行と共に明らかになっていきます。

エマノンも睴里も、時の流れの外にいる存在という事が、愛する人と長い時を過ごせない結果を生んでいます。

最後は大好きな場所で眠りたいというのは、悲しいけれどほっとしたような気持にさせられます。

まとめ

エマノンシリーズは全ての作品が、どこか切なくそれでいて温かい気持ちにさせてくれます。

私はこのシリーズを初めて読んだ時、今までの自分の価値観が崩れた事で、少しおかしくなってしまいました。
しかし、ショックが薄れると、生きていくことが楽になっている自分にも気づきました。

私にとって、とても大事な作品です。

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