小説 小説短編

ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁

投稿日:2018年11月10日 更新日:

浴衣ホーンテッド・キャンパス 死者の花嫁
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫

雪越大学オカルト研究会では藍の一声で夏合宿をすることになった。

車を出すという小山内に自分は自由になる車も金もないと落ち込んでしまう。
何はともあれ、藍の言葉で今年の夏は「海」そして「合宿」と決まった。

大学を舞台にしたオカルトミステリー第四弾。

各話のあらすじや感想など 

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さいなむ記憶

あらすじ
無事に夏合宿に参加するため、森司は大学の図書館で試験勉強に励んでいた。
一日のノルマまであと少しだ。
森司は自分自身にノルマを課さないと、勉強できないことに浪人が決定した直後に気付いた。

しかし経費削減のため電気の消された薄暗い図書館での勉強は、なかなかはかどらない。
ノートにペンを走らせていたが、心はこよみとの妄想を描いていた。

気持ちを切り替えるため、小休止もかねてコーヒーでも飲もうと席を立った森司は、一人の男子学生に目を止めた。
―あいつなにか憑いている。
一分ほど迷った末、森司は彼に声をかけた。

「困っている事があるなら話を聞くよ。」

オカ研の部室に案内した男子学生は、教育学部二年の中溝と名乗った。
黒沼部長に話を促された中溝は、おずおずと話し始めた。

彼は人殺しの現場を見たと語った。
詳しく聞くと、まるで中世の黒ミサのような儀式のさなか、名前も知っている学生が殺されるのを見たという。

しかし、儀式を見た次の日、自分が知っていたはずの学生は、存在自体なかったように消えていた。
中溝は学生の名前も学籍番号も知っているのに、ほかの誰もその学生の存在をしらないのだという。

中溝は混乱しているようだった。

感想
中溝くんの思いが引き起こした事件でした。
文章のみで展開される、小説ならではの手法だと思います。

追想へつづく川のほとり

あらすじ
節電対策で部室棟のブレーカーは落とされたままだった。
エアコンはおろか、扇風機も使えない部室は明けない梅雨で蒸し暑い。
部室には部長の黒沼、彼の従弟の泉水、そして森司の男三人がいた。

黒沼部長はお客も来ないし暇だとぼやいている。
森司はなぜそんなに厄介ごとに首を突っ込むのが好きなのかと尋ねた。

部長は自分の知識が人の役に立ち、サークル活動にも結び付くなら一石二鳥、いや個人的趣味と他人の実益さらにサークル活動なら一石三鳥だねと語った。

その後、オカ研の形に落ち着くまでの彼の過去が語られた。

それは夏のある日、部長の黒沼麟太郎が小学校六年生、泉が小学校五年生の夏休みのことだった。
そのころすでに泉水は身長百七十センチを超え、どう見ても高校生ぐらいにしか見えない体格だった。

かたや麟太郎は百四十センチと小柄で顔立ちも童顔であったため、年齢より下に見られることが多かった。
知らない人がみれば、泉水が兄で麟太郎が弟だと、ほぼ確実に思うだろう。

その日も彼らはある空き家に向かっていた。
北町の幽霊屋敷と呼ばれる家だ。

一族の家がある場所で遊んでいると、どんな噂を立てられるか分かった物ではないので、少し離れたその空き家にわざわざ出向いているのだ。

色々なうわさ話が飛び交っていたが、泉水はその家にはなにも感じなかった。
彼らの目的地は家自体ではなく、庭にある池だった。

その池にはザリガニが沢山生息しており、それを釣り上げるのだ。
駄菓子のさきいかを糸で結んで、池に入れれば面白いように釣れた。
つれたザリガニはバケツにいれて、ある程度の数になったら池に返す。

所謂、キャッチアンドリリースだ。

一時間程遊んで、麟太郎が喉が渇いたと訴えた。
二人は空き家から百メートルぐらいにある駄菓子屋に向かった。
駄菓子屋までの道の途中に川が見えた。

泉水には空き家よりも、その川の方が嫌なものを感じた。
麟太郎にあの川には近づくなよと声をかける。

彼も毎度の事なので「うん」と素直に返事をした。

感想
部長の黒沼麟太郎と従弟の泉水の過去を語ったお話でした。
一般庶民である私にはピンとこないのですが、旧家の本家分家の絶対的な上下関係などは、田舎ではいまだに根強く残っているのでしょうか?

ファイアワークス

あらすじ
その日、森司は同学部の男五人で居酒屋に来ていた。
中の一人が彼女に着信拒否されたらしく、あまりにも嘆くので慰めるために集まったのだ。

しかし、彼が送ったメールを見て集まった面子は、同情の余地なしと金を置き居酒屋を去った。
森司もメールが届いたことをきっかけにして、金をテーブルに置き居酒屋を後にした。

メールは黒沼部長からだった。
またオカ研に相談が持ち込まれたようだ。

相談に訪れたのはイベントサークルを仕切っている、石黒という教育学部四年の男と、そのサークルの幹部兼石黒の恋人の女性の二人だった。

彼らの話では、自然発火現象にみまわれたらしい。
詳しく話を聞くと、発火現象は二回起こっており、一度目はサークルが主催するイベント中、石黒がスピーチを始めた所、スピーチ開始後一、二分で彼の右足から炎があがったという。

その時は店員が消火器ですぐ消してくれたため、大事にならずに済んだようだ。

二度目はイベントの反省会も兼ねた慰労会で起こった。
身内だけのこじんまりともので、スピーチも乾杯も終わり、みんなの輪に混ざって飲み始めたところ、また発火したのだという。

その時は消火器は間に合わず、みんなの着ていた服で炎を叩き消したが、石黒は火傷を負い、救急車を呼ぶ騒ぎになったそうだ。

実は来週にもイベントを控えており、そのイベントはかなり大規模なため、延期も中止も難しいらしい。
彼は何とか原因を突き止めたいと、オカ研に相談しにきたと語った。

感想
作中にも語られていますが、人体発火現象は過去にも事例があるようです。
火の手のない所から突然燃え出し、高温で人一人が一瞬で消し炭になってしまう、そんな例もあるようです。

うつろな来訪者

あらすじ
無事に試験を終えた森司は、オカルト研究会の五人の他、以前相談を受けた、五十嵐結花、片貝璃子と小山内を加えた計八人で、黒沼家の別宅である海近くの屋敷を目指していた。

海はあるが、荒れる日本海といった様相で、ビーチなどなく岩場で砕ける波頭が見える。
女性陣の水着を期待していたが、これでは泳ぐことなど出来そうもない。

屋敷のある場所は海も近いが山や雑木林も近い所だった。

着いた屋敷は木造平屋建ての日本家屋だった。
土塀に囲まれた庭には石灯篭が立ち、竹筒から流れる水が手水鉢にそそがれている。
庭に車を止め、家に入ると居間には囲炉裏があった。

男女に分かれて部屋割りをし、それぞれの部屋に荷物をおいて、一同は居間に集まった。
藍が黒沼部長に肝試しについて聞いている。

黒沼部長は窓の外にある山を差し、あの山の麓に墓があり、そこを肝試しの場所にすると語った。
森司は折角海に来たのに、なぜ一日目から肝試し等するのかと抵抗を試みたが、結花と璃子がやりたいと言ったことで、あえなく失敗に終わった。

泉水にも、墓には意外といないと知っているだろうと諭され、しぶしぶ頷いた。
肝試しを行う事が決まったあと、藍が四人とも浴衣を持ってきたと言い出した。
こよみも浴衣を着ると聞いた小山内が興奮している。

黒沼部長に八神君は留守番してる?と問いかけられた森司は即座に「行かせていただきます」と答えるのだった。

日も落ち、肝試しを行うことになった森司たちは、墓地に近い山の麓で女性陣を待っていた。
彼女たちは紺地、もしくは白地に古典柄の浴衣を着て、帯を背中で文庫に締めていた。

森司は浴衣をきたこよみを見て、何を言うべきか迷っているうちに、小山内がこよみをほめていた。
彼の呼気にアルコールを感じた森司は「こいつ緊張を誤魔化すために飲んできたな」と気付いた。

しかし、それを抜け駆けとは思わず、なにも言えない自分に、ふがいなさを感じるのであった。

肝試しは二人一組をくじで決め、スタートした。
一番手はこよみと小山内ペアだった。
彼らは問題なく順路をまわり五分ほどで戻ってきた。
彼らのタイムは四分四十七秒。

より短時間で戻って来たものが勝者ということらしい。
二番手は森司と璃子のペアだった。

彼らは深い闇の中を進んだ。
途中璃子が声を上げる。
闇の奥に人影を見たというのだ。

森司が懐中電灯のあかりを指さす方向に向けると、そこにはどんよりとした目をした男がいた。
森司は相手が生きている人間だと確認するために、恐怖を抑えて声をかけた。

「なにをしているんですか」
「探しているんです。」
「なにを…」

「僕の墓を」

感想
合宿で起こったお話でした。

霊というのは助けてくれそうな優しい人に寄ってくると聞いたことがあります。
道端で轢かれた動物に対して可哀そうと思ったりすると、連れてきてしまうとか。

何も思わない人は平気で、気にかけた人の方が取り憑かれるというのは皮肉な話です。

死者の花嫁

あらすじ
夏合宿も後半に入り、結花と璃子、小山内はそれぞれの用事で帰っていった。
こよみの実家からの電話で、両親が旅行に行くからその間、家で飼っている猫を預かってほしいと連絡してきたのだ。

結局、泉水の車で迎えに行くことになったのだが、こよみはAT限定免許しか持っていない。
泉水の提案で森司が運転しこよみと一緒に彼女の実家に向かうことになった。

泉水が気を使ってくれたおかけで、こよみとドライブが出来ることになった森司はペーパードライバーであるが、張り切ってハンドルを握った。
安全運転を心掛け、何事もなく彼女の家にたどり着くことが出来た。

出迎えてくれたのはこよみの母親だった。
彼女は森司の想像と違い、コロッと太った陽気でおおらかそうな女性だった。
家に上がりこよみが猫をケージに入れるまで、お茶をふるまわれ彼女と話すことになった。

話していると部屋の奥から鈴の音と線香の香りを感じた。
隣の部屋で仏壇に手を合わせていたこよみの父が、森司に目礼しすっと去っていった。

森司の目は仏壇に置いてある遺影に釘付けになった。
祖父母の位牌の下に置かれた遺影に映っている人物はこよみに瓜二つだった。

感想
こよみちゃんが、取り憑かれやすくなった原因が語られたお話でした。
今回の話で森司くんは、こよみちゃんのお母さんにとても気に入られたようです。

まとめ

今回、オカルト研究会に持ち込まれる相談は、人の悪意や憎悪で起こっていることが多かったように思いました。
そんな中での森司君の優しさはとてもほっと出来ます。

こよみちゃんの両親とも会い、今後どうなっていくのかが楽しみです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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