小説 小説短編

十二国記 丕緒の鳥

投稿日:2018年12月19日 更新日:

鵲丕緒の鳥
著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫

十二国記の第五作目、王や麒麟のような国の中枢ではなく、自分の職務を果たそうと奔走する人々を描いた短編集。

各話 あらすじと感想

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丕緒の鳥

冒頭部分 あらすじ
丕緒(ひしょ)は四代前の景王、悧王(りおう)の時代から羅氏(らし)を務めている。
羅氏は大射(たいしゃ)と呼ばれる儀式において、的である陶器の鳥を作る者だ。
悧王在位の折には、陶鵲(とうしゃく)が射られる音で曲を奏で王に褒められた事もある。

しかし悧王が仁道を外れ、ともに大射を務めた射鳥氏(せきちょうし)である祖賢(そけん)が捕縛、処刑されその後、悧王も斃れた。
更に女王が二代続いて短命だった事で、彼は三代目の予王になんとか民の事を考えてもらおうと、陶鵲を民に見立て射られた時、惨く悲しく散るよう工夫を凝らした。

しかし予王は大射をみて惨いというだけで、そこに民の苦しみを見る事はなかった。
その後、予王は景麒に執着し慶国から女を一掃しようとする。

羅人だった蕭蘭(しょうらん)に逃げるよう丕緒は促したが、彼女はまさか王が下官の自分のことなど知るはずもないと慶国を出る事はしなかった。

だが予王の命は王宮内にも及び、蕭蘭は姿を消しその後の行方は杳として知れなかった。

それから時は流れ、丕緒に新任の射鳥氏が大射の儀があると言ってきた。
偽王が斃され新しい王が起ったのだ言う。
新たな王は女王らしい。

しかし四人の王に仕え、その終わりを見た丕緒は新たな陶鵲を作る気持ちを失っていた。

感想
丕緒は百年以上、慶国に仕えて羅氏として働いています。
政治に参画できるわけでもない彼が出来る事は陶鵲に自分の思いを乗せる事だけでした。

陶鵲に喘ぐ民の姿を重ねて、王の力は人々を幸福にも不幸にもするのだという事を訴えます。
予王は彼の作った陶鵲を惨いと嫌いました。

物語終盤、蕭蘭のアイデアを取り入れた大射のシーンは、とても美しく心を打つものでした。

落照の獄

冒頭部分 あらすじ
瑛庚(えいこう)は幼い娘、李理(りり)に父様は人殺しになるの?と問われた。
娘にはそんなことは無いと否定したが彼は悩んでいた。

狩獺(しゅだつ)。
八歳の駿良(しゅんりょう)という男の子をわずか十二銭を奪うために殺した男。
その後、捕らえられた罪の他、全部で十六件、狩獺は計二十三人を殺害していた。
この男の処置について秋官司刑(しけい)である瑛庚は思いあぐねていた。

民は殺刑を望んでいる。
しかし、主上の大辟(たいへき:死刑)を用いずとの言葉もあり、殺刑を用いるべきではないと彼は考えていた。

更に柳では百年以上殺刑は行われておらず、また殺刑を一度行えば次からは容易くこれを行う事となり、殺刑をの濫用を招くおそれがあった。

主上は司法に任せると言ったきりその後の道を示してくれない。
長い話し合いの末、瑛庚は狩獺にあう事を決めるのだった。

感想
狩獺は現実社会でいうところのシリアルキラーです。
司刑(しけい:裁判官)である瑛庚は、典刑(てんけい:検察官)である如翕(じょきゅう)、司刺(しし:弁護人)率由(そつゆう)と話し合いながら彼の罪と罰を考えます。

法治国家として名高い柳の斜陽がうかがえる物語でした。

青条の蘭

冒頭部分 あらすじ
標仲(ひょうちゅう)は雪の中ただ先を急いでいた。
背負った筺の中には大鋸屑(おがくず)が敷かれ、その中心に丸太が据えられている。

丸太の瘤からは細い蘭に似た葉が一握りほど密生していた。
まだ枯れていない。これが希望だ。

故郷の山の山毛欅(ぶな)に変色した物を見つけたのは十年以上も前の事だった。
標仲は継州の北の寒村で育った。
そして運よく国官になった。
野木から生じる新しい草木や鳥獣を集める官、地官迹人(ちかんへきじん)だ。

国官といっても最下層の小役人だったが。

新年に郷里に帰った時、級友の包荒(ほうこう)と共に山毛欅の枝先が白く変色しているのを見つけたのだ。
包荒は節下郷の山師(さんし)だった。
彼は幼い頃から山が好きで、それが高じて山野を保全する官、山師となった。

変色しているものは、まるで石の様だった。

その時は里の人たちと合流し山毛欅の話になったため、変色の件は捨て置かれた。
その後、二年後の正月里帰りした際、標仲は包荒と二年ぶりにあった。

彼は変色した山毛欅が数を増していると語った。

感想
山毛欅は土を支え山が崩れるのを防いでいます。
また体内に大量の水を貯えることで、土壌に水が貯まることも押さえていました。

その山毛欅に白化する病が広がり、このままいけば山が崩れ里が滅ぶことになると標仲たちは危惧します。

解決策を見つけ王に届けようとするのですが、王は登極したばかりで官の腐敗を取り除けてはいませんでした。
標仲は最後の手段として自ら王宮に出向くことにしました。

標仲の思いが人々を繋いでいく場面が心に残りました。

風信

冒頭部分 あらすじ
蓮花(れんか)が十五の春だった。
突然現れた空行師(くうこうし)によって故郷の街は破壊された。
家族を失い、麦州(ばくしゅう)を目指す蓮花は、ともに助かった幼馴染の明珠(めいしゅ)も失った。

明珠は失意のあまり川に入ったのだろう。

街が焼かれたのは王の「女を全て国外に追放せよ」という命に従わず、男装させることで街に留め置いたことが原因だった。
その後、旅の途中で命を下した女王が死んだことを知った。

蓮花は何もない故郷に帰る気にもならず、摂養(せつよう)の街に留まった。
蓮花は街の人に世話してもらい下働きを探している家で雇ってもらえることになった。

街外れの園林にあるその家で、嘉慶(かけい)という五十代半ばの男と蓮花は出会った。

感想
嘉慶は季節の様々な変化を観測し、暦をつくることを仕事にしてる保章氏(ほしょうし)と呼ばれる役人です
周囲に何が起きても暦の事を優先する嘉慶たちに、蓮花は憤りを覚えます。

終盤、燕の巣を見て未来を語る嘉慶の部下一人、支僑(しきょう)の言葉が明るい未来を感じさせます。

まとめ

大きな力に翻弄されながら、自分の職務を懸命にこなす人たちを描いた物語でした。

十二年、新作を読んでいなかったこともあり、丕緒の鳥の陽子のセリフだけで涙が出ました。

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