小説長編

十二国記 風の万里 黎明の空 下 冒頭部分あらすじ・感想

投稿日:2018年12月18日 更新日:

熊
風の万里 黎明の空 下

著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫

十二国記の第四作目、固継(こけい)で遠甫(えんほ)から学ぶ陽子、堯天にむかう途中、拓峰(たくほう)で清秀(せいしゅう)を失った鈴、恭国を出奔し楽俊と旅を続ける祥瓊。

三人の物語はやがて、慶国の内乱へとつながっていく。

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冒頭部分 あらすじ

拓峰から戻った陽子は蘭玉(らんぎょく)に子供が華軒(くるま)に轢かれたことを話した。
蘭玉は昇紘(しょうこう)ねと、当然のように答えた。

止水(しすい)では昇紘という郷長が、民を虐げているという。
和州の税が七割と聞いた陽子は、憤り遠甫に怒りをぶつけてしまう。

遠甫は王権を使い、昇紘を捕らえようとする陽子を諭した。
勅命をもってすれば、昇紘を捕らえる事は出来るだろう。
しかしそれを行えば法が意義をうしなう。それは酷吏を放置するより罪が重い。

遠甫の言葉に陽子は唇を噛んだ。

部屋に戻り轢かれた子の事を考える。
鈴が泣くから死にたくないとその子は言った。
鈴、妙な名だ。おおよそ此方の名前ではない。

陽子は子供を引き渡した女性の出自を聞かなったことを悔やんだ。

止水に行って、彼女を探そうか。しかし会って何が言えるだろう。
昇紘を放置している自分が。
彼女が海客だとしても、慶には海客を隔てる法がある。
それを撤廃出来ない自分が、何を言えるというのか。

陽子は自分の不甲斐なさを情けなく感じた。

鈴は泣いていた。清秀は以前、涙には二通りあると言っていた。
自分が可哀そうで泣くのと、ただもう悲しいのと。
その意味が分かった。

拓峰の街の外、墓地に寂しい冢堂(どう)が建っている。
鈴は墓士(はかもり)に埋めるのはかわいそうだと懇願した。
自分でも意味のない願いだと分かっていた。

棺に縋り付く鈴からもぎ取るように棺は運ばれた。
墓穴に甕によく似た丸い棺が下ろされ、土がかけられていく。

墓が出来、墓士が去った後も鈴は呆然としていた。
何故清秀がこんな死に方をしなければいけないのか。
早く医者に見せていればと、女王を頼った自分を責めた。

彼女に声をかけた者がいる。十四歳ぐらいの黒髪の少年だ。
街に戻ろうという少年に、鈴は放っておいて声を荒げる。
誰も自分の気持ちなど分からない。そう叫ぶ鈴に少年は告げる。

自分を哀れんで泣いているのは、死んだ子に失礼だと。

彼に促され街に戻った鈴は、彼と話しをしている間に幾らか落ち着きを取り戻した。
少年は夕暉(せっき)と名乗った。
彼の話では、清秀を轢いた華軒に乗っていたのは、昇紘という止水の郷長らしい。

夕暉は昇紘を恨んではいけないという。
どうしてと声を荒げる鈴に、夕暉は教えるんじゃなかったと小さく呟いた。

祥瓊は楽俊と共に雁国に入った。
柳と雁、国境の郭壁(かくへき)を挟んでその様子は一変した。
四、五階建ての、高い石造りの建物が建ち並び、多くの人々が行きかっている。
どの建物にも窓に玻璃が入れられ、街は活気にあふれていた。

楽俊に雁には大きな鉱山があるのかと聞いてみた。
楽俊は何もないと答える。ただ小麦を作り、家畜を育てるだけだと彼は言った。
祥瓊があまりに違うと話すと、楽俊は主上の格の違いだと答えた。

雁国は五百年揺らいだことがない。それはとても大きい事なのだと楽俊は言う。
王が玉座に居れば天災が少ない。天災、戦災が無ければ人が増える。
増えた人々は農地を開墾し収穫が増え、それを国が管理して値崩れを防ぐ。
国の整備方針も一つの方針が貫かれ、治水などが行われる。

十年、二十年では辺境までそれは行き届かない。
長い時間をかけて、少しづつ歩んできたのだ。
楽俊は王が短命な国は可哀そうだと祥瓊に言った。
店を大きくしたり、土地を開墾しても災害一つでそれは失われてしまう。

楽俊は峯王は民に厳しいので有名だったと話した。
王に虐げられ、王亡き後は天災に襲われる、芳の民は不幸だと楽俊は言う。

祥瓊は無軌道な民には罰も必要だと父を擁護したが、楽俊は行き過ぎだから、王は斃れたのだと祥瓊を諭した。
王は斃れたのではなく、弑逆(しいぎゃく)されたのだと祥瓊は言った。

それを受けて、楽俊は弑逆は大罪だ。恵州候がそれをしたのなら、王が国をどうしようもなく傾けてしまう前に、弑逆したほうがましだったと考えたのだろうと語った。

祥瓊は父が憎まれていた理由、誰もが月渓(げっけい)を褒めていた理由が分かった気がした。

感想

上巻と同じく陽子、鈴、祥瓊の三人の物語が、並行して進んでいきます。

お話は和州の止水郷で起きる反乱へと繋がっていきます。
昇紘はあらすじにも書いたように、民を虐げ重税を課しています。

和州の税は七割ですが、七割完全に取っているのは止水のみです。七割も税を取れば、生活は立ちゆきません。
人は死にそれを埋めるために難民を受け入れ、彼らに税を課すことでそれを可能にしているのです。

陽子は市井でこの国がどんな状態なのか、現実を知ります。

鈴は清秀が殺された恨みを抱え、昇紘を放置している景王に悪意を抱きます。

祥瓊は和州の州都、明郭で行われていた磔に思わず石を投げ、兵士に追われた所を、桓魋(かんたい)と名乗る男に救われます。

多くの犠牲を払いながら、三人がたどり着いた結論とは…。
終章の初勅のシーンは、何度読んでも心が震えます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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