六道先生の原稿は順調に遅れています 3
著:峰守ひろかず
画:榊空也
出版社:KDOKAWA/富士見L文庫
若手作家、踊場漂吉(おどりば ひょうきち)に六道の正体がバレた事で、六道自身が口にした対談企画が実現し長編の刊行ももう間近という頃、詠見(えみ)は漂吉との打ち合わせで次の小説のアイデアを彼からもらいます。
それは謎に包まれた六道の自伝的小説はどうかという物でした。
登場人物
大洲治香(おおす はるか)
女性編集者
時代小説をメインに手掛ける栄侑社(えいゆうしゃ)の名物編集者。
昔気質で自他共に厳しい事で有名。
詠見も過去に編集者としての心構えを説かれた事がある。
朱堂瑠狸子(すどう るりこ)
歴史小説の大家
戦時中から六十年代にかけて活躍した。
自伝を執筆し始めた直後に失踪。
栄侑社を長年支えた人気作家。
冒頭あらすじ
踊場からのアイデアで六道が小説家になった経緯や過去が気になった詠見は、自分の好奇心も後押しする形で六道に経歴をモチーフにした作品の執筆を打診する。
断られる事を覚悟していたが、六道は以外にもあっさり依頼を承諾した。
六道は物ノ気の想いを喰らい、その中で受け取った物が消える事が忍びなくてそれを作品として綴っていた。
その作品郡を六道は自身の内から出た物では無く、物ノ気を為した人々から得たモノだと考えていた。
自分は唯、食べた物を吐き出すだけで創作はしていないと。
だが彼らの想いをくみ取り結末を変えたのは六道であり、その部分は完全に創作だ。
そう詠見に指摘された事で彼も変わり始めていたのだ。
自分の過去なら執筆に物ノ気を喰う必要は無い。
ただ、自分の人生がそんなに面白いとは思えないと六道は語る。
そんな彼に詠見は、妖怪が東京で四十年作家を続けている事自体が面白いと太鼓判を押した。
感想
今回は二人魂魄、消えずの行灯、腕を貸す、猫踊り、帯坂の五編が収録されています。
今回は六道琮馬という作家のルーツ、そして編集者という仕事への詠見の想いがテーマだった様に思います。
編集という仕事は、作家のサポートであり自身が何か生み出しているのでは無いと詠見は感じていました。
確かに物語を生み出したのは作家であり、相手がベテラン作家ともなれば作品については校正を行い矛盾点等の誤りを指摘するに止める場合もあると思います。
しかし物語は何も無い所から生まれるのではなく、作家自身が体験した事や感じた事が昇華され生まれてくる様に思います。
その中には編集者との打ち合わせや取材、つまり人との触れ合いも多分に含まれていると読んでいて感じました。
アーティストが良く降りて来るといいますが、あれも自分の中にあるものが何かの切っ掛けで融合している様に思います。
結局、無から有は生まれない、そんな気がします。
まとめ
作品は取り合えずこれで一旦区切りがついた感じです。
ですが、怪異譚が題材であるならモチーフはまだまだありそうです。
六道先生の海外取材とかも面白そうだなと思いました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
作者の峰守ひろかずさんのアカウントはこちら。