風の万里 黎明の空 上
著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫
十二国記の第四作目、慶国(けいこく)にて登極間もない陽子、芳国(ほうこく)で国王であった父を殺された祥瓊(しょうけい)、蓬莱から流され才国(さいこく)で下女として働く鈴(すず)。
三人の物語はやがて慶国の内乱でつながっていく。
冒頭部分 あらすじ
大木鈴(おおき すず)は東京に年季奉公に出されることになった。
家は小作農で土地を借りて米を作っている。
上りのほとんどは小作料として、地主に持っていかれる。
さらに今年は凶作だった。
五人兄弟の中で、数えで十四の鈴が売られることになった。
人買いの男に連れられ歩く山道で、にわか雨に振られた。
雨宿りをしようと大楠の下に駆け込んだ鈴は、根に足を取られそのまま崖下の川に飲み込まれた。
気が付いた場所は小舟の上だった。
鈴を数人の男たちが除きこんでいる。
声をかけられたが、彼らが何を言っているのか、鈴には理解できなかった。
それから長い時が過ぎた。
芳国は峯王仲韃(ちゅうたつ)の御世だった。
仲韃は法治国家である柳(りゅう)を手本に、法を布いた。
しかし、清廉な国を目指すあまり、法は苛酷に罰は苛烈になっていった。
税が少しでも足らなければ死罪、病で夫役を休んだら死罪、飢えのあまり餅を盗んだ子供も死罪。
その圧政に耐えかねた州候、州師が蜂起した。
芳国の宮城である鷹隼宮(ようしゅんきゅう)には十万の兵が押し寄せた。
仲韃の娘であった公主祥瓊は、蜂起の中心人物であった恵州候月渓(げっけい)に父仲韃と母佳花(かか)を殺された。
月渓は二代にわたって、暗君を選んだ芳麟の首も刎ねた。
その後、祥瓊は仙籍をはく奪され、里家に預けられた。
その三年後、慶国の空に瑞雲が伸びた。
先王が斃れ、その後新たな王が立ったが、天災は止まなかった。
そのうち立った王は偽王だと噂され、戦がおこった。
戦の顛末など、王都から離れて暮らす者には知るすべはなかった。
民は瑞雲を見上げ、新王に幸せを与えてくれるよう、願うだけだった。
慶国の首都、堯天(ぎょうてん)、その堯天にある山、凌雲山(りょううんざん)に王の宮城、金波宮(きんぱきゅう)がある。
その金波宮に蓬山から巨大な亀が着いた。
玄武と呼ばれるその亀から王が降り立つ。
冢宰に迎え入れられる、その姿を盗み見た幾人かがため息を漏らす。
女王。慶国はここ三代女王が続いていた。
その全てが短命で、討たれた偽王も女だった。
懐達(かいたつ)という言葉が慶にはある。
昔いた達王という賢帝がいた。その時代が懐かしいという意味だ。
その言葉の裏には、短命な女王はもういいという意味が込められていた。
感想
陽子、祥瓊、鈴の三人の物語が並行して進んでいきます。
彼女らはそれぞれ、苦しみの渦中にあります。
陽子は、女王として登極したものの、常識や国の仕組みを知らず、官に侮られています。
祥瓊は父である仲韃の行いを恨まれ、里家の閭胥(ちょうろう)に責められ続けます。
里家で正体がばれた祥瓊は、住民に殺されそうになりますが、月渓に救われ、供王に預けられます。
鈴は翠微君(すいびくん)とよばれる仙女の下女として拾われますが、そこで九十年近く翠微君に虐められています。
陽子は王宮を抜け市井に降り、祥瓊は恭国を、鈴は才国をそれぞれ抜けて、慶を目指します。
三人は陽子は遠甫(えんほ)という老人、祥瓊は楽俊、鈴は清秀(せいしゅう)という少年に出会い、少しずつ変わっていきます。
上巻は辛く苦しい場面が多いですが、ぜひ読み終えて下巻を手にして欲しいです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。