東の海神 西の滄海
著:小野不由美
画:山田章博
出版社: 新潮社 新潮文庫
十二国記の第三作目、五百年の治世を誇る国、雁国。
その雁国で尚隆(しょうりゅう)登極初期に起こった、内乱を綴った物語。
冒頭部分 あらすじ
内乱で貧困のあまり親に捨てられた少年がいた。
一人は蓬莱で、もう一人は雁国で。
どちらも飢え、その命が終わろうとしている時、妖に救われる。
片方を救ったのは、麒麟を探していた女怪だった。
もう片方を救ったのは、鋭いくちばしを持った妖魔だった。
二人の少年はその後、時を経て出会うことになる。
折山、王の宮殿のある凌雲山(りょううんざん)さえ折れようかという荒廃。
先の王であった梟王(きょうおう)は長く善政を布いたが、いつの間にか心に魔を宿すようになった。
やがて民を虐げ、悲鳴を聞いて喜ぶようになった。
王を心ある州候は王によって、ことごとく誅殺された。
王を止められる者はなく、やがて麒麟が病の床についた。
梟王は天命は尽きたと、巨大な陵墓を作らせた。
役夫を集め、苦役を布き、女子供を死後に侍らせるため殺させた。
その数は十三万に上った。
梟王は陵墓完成の直前に斃れた。
それを聞いた国民の歓喜の声は国外まで届いたという。
その後、次の麒麟が王を探し出せず斃れた。
王がいない国は天災に襲われ、疲弊を続けた。
荒れ果てた荒土を丘の上から眺める人影がある。
一人は金の髪を長く伸ばした子供だ。
もう一人は背の高い青年だ。
子供は雁国の麒麟。名前は六太。
六太は傍らに立つ男を王に選んだ。
六太は彼に国が欲しいかと聞いた。
国土は荒れ果て、民も数えるほどしかいない国でもと。
男は欲しいと言った。
まさかこれ程とは思っていなかっただろう。
彼を見上げる。
「これだけ何もなければ、かえってやりやすいことだろう。」
そう言って男は笑う。
六太は俯いた。今まで背負ってきたものが消えた気がした。
男は六太の肩に手を乗せ言った。
「蓬山とやらに行こうか。大任をもぎ取りに。」
六太は肩を叩いて離れていく男に頼むと小さく言う。
男は笑って任せておけと返した。
感想
延王、小松三郎尚隆(こまつ さぶろう なおたか 雁国においては「尚隆:しょうりゅう」と呼ばれる)と雁国の麒麟、六太(ろくた)のお話です。
登極から二十年、荒廃した国土に緑が戻り始め、復興が少し形を見せ始めたころ、雁の西、元州で謀反の動きが囁かれます。
六太は十八年前に知り合った、自分が名付けた少年更夜(こうや)に攫われ、元州(げんしゅう)へ連れ去られます。
元州の令尹(れいいん)、斡由と出会い彼の話にも理があると思い始めるのですが…。
物語は、尚隆と六太の出会いを挟みながら展開していきます。
尚隆が国を欲する訳や、民に対する思いが心に染み入ります。
陽子が何も分からず、旅の中で成長していったのと違い、尚隆は元々民を持つ支配階級として育ちました。
猪突、酔狂、無謀と字された三人と、尚隆、六太のやり取りが笑いをさそいます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。