小説 小説短編

瑕死物件 209号室のアオイ

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マンション瑕死物件 209号室のアオイ
著:櫛木理宇
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫

川沿いに立つ瀟洒な高層マンション「サンクレール」
誰もが羨むこの物件にはアオイという男の子が棲んでいる。

二〇九号室から始まる、サスペンスホラー。

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第一話 コドモの王国

冒頭部分 あらすじ
サンクレール四〇七号室に住む飯村菜緒は、夫の健也、三歳になる息子の雄斗と暮らしている。
健也は育児を菜緒に任せっぱなしで、雄斗の事を甘やかす事しかしない。
菜緒は雄斗をしつけようと、厳しく接し、それを夫が甘やかす。
嫌われるのは菜緒ばかりだ。

さらに義母からは口うるさく注意され、お宮参り、初節句等行事ごとを敢行する。
第一次反抗期を雄斗が迎えた時には、菜緒は疲労困憊だった。
「マァマ―!見いてええぇぇ!」雄斗の絶叫が部屋に響く。
遮音性の高い高級マンションとはいえ、騒音問題は深刻だ。
ご近所トラブルで追い出されるわけにはいかない。

蒸し暑い初夏のある日、雄斗が一人の少年をつれて家に戻って来た。
公園で友達になったらしい。
名前を尋ねるとその少年は、二〇九号室に住む葵と答えた。

感想
言うことを聞いてくれない息子、その息子を甘やかすだけの夫。
口うるさい義母、それらに疲れた菜緒の前に葵が現れ、状況はさらに悪化していきます。
葵が家に出入りするようになると、家では夫の健也までが子供のように遊ぶ事しかしなくなります。
雄斗、葵、夫の健也、三人の子供を抱えた菜緒は…。

普通の日常なのですが、どこかおかしい。
そんなお話でした。

第二話 スープが冷める

冒頭部分 あらすじ
石井亜沙子は義母の芳枝と二人暮らしだ。
夫の俊輔は金融会社に勤めており、今はアメリカに単身赴任中だ。
サンクレールの二二〇七号室を、亜沙子が購入したのは四年前、三十九歳の時だった。

大学を卒業しアパレルメーカーに就職、その後ずっと働きづめで出会いなどなく、一生独身だろうと思い、ローンを組んだ半年後、彼に出会ったのだ。
その後、結婚し義父が亡くなったことをきっかけに、義母の芳枝をこのマンションに呼んで同居を始めた。

義母はまるで少女のような人で、キャリアウーマンとして働いてきた亜沙子とは正反対の人物だった。
彼女はしきりに子供の事を亜沙子に聞き、孫はまだかとせっついた。
亜沙子自身は子供を望んではいなかった。
年齢と仕事のことで子供を持つ気にはなれなかったのだ。

義母が部屋から出てこない、そのことに気付き亜沙子は彼女の部屋に向かった。
さみしがり屋の義母が、二日もリビングに顔を出さないことなど考えられなかったからだ。
ドアを開くとそこには、義母と見知らぬ二、三歳の男の子がいた。

感想
精神的に成熟していない義母を抱え、ひとり奔走する亜沙子。
徐々に怪異が日常に入り込んでくるというか、物語が進むにつれ普通ではないことが起こり始めました。

第三話 父帰る

冒頭部分 あらすじ
島崎千晶は夫の市郎を部屋に迎え入れた。
彼は再婚で十七歳の息子がいる。
市郎とは会社の上司と部下という関係だった。

彼の奥さんが癌で入院し、その悩みを聞くだけの関係だった。
彼を部下として支え、その後、彼が妻を亡くした三か月後に結婚を前提に付き合って欲しいと告白されそれを受けたのだ。

周囲の反対や不倫の疑惑を持たれながら、二人は結婚した。
そしてサンクレールの一六〇四号室での生活が始まった。
しかし、彼の息子航希にはそれが許せなかったようで、ぎこちない関係が続いていた。

千晶は夢を見ていた。
過去の夢、養父母の家で義母から厳しく叱責される。
彼女は幼い頃に母や弟たちと引き離され、母の実兄である兄夫婦に預けられた。
泣き声が聞こえる、弟が泣いている、泣き止ませなくちゃと気が焦る。
泣かないで。

目が覚めるとキッチンでうたた寝してしまったらしい。
蝉の声にかくれて、子供の泣き声が聞こえる。
千晶が玄関を開けると、小学生らしき男の子の肩に手を置いた航希が立っていた。
階段で座り込んでいたらしい。
家を尋ねると「二〇九号室」と男の子は答えた。

感想
三話目になると葵が何を望んでいるのか、うっすらと見えてきます。
二〇九号室を中心にマンション全体に広がる葵の手を感じます。

四話目 あまくてにがい

冒頭部分 あらすじ
秋山和葉はその日も妹の奈々香からの電話で、彼女の話を聞き流していた。
彼女から電話がかかってくると、なかなか切ってくれない、平気で二、三時間は付き合わされてしまう。
電話に受け答えしながら、和葉はあの時の事を思い出していた。

きっかけはやはり奈々香からの電話だった。
彼女の話では、つまみ食いした男の彼女からしつこく電話がかかってきているらしい。
事情は分かったが一体何なのか、私は明日も仕事だ。
そう言うと奈々香は察しが悪いふりはしないでわかるでしょと言った。

和葉は電話を叩き切りたい衝動に駆られる、しかし和葉の脳裏にからんだ小指が浮かび上がる。
ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本飲ぉましょ。ゆびきった。
歌と共によみがえる、チョコレートの味。

仕方なく、何をすればいいのか聞く。
どうも自分の代わりに、その女に会ってくれないかという事だった。
その女性はどうしても直接あって話したいらしい。
和葉はため息をついて待ち合わせ場所を聞いた。

感想
和葉は二〇九号室に住んでいます。
彼女はチョコレート中毒だったのですが、その様子が少しずつ変わっていきます。
その変化は凄まじく、一番色濃く葵の影響を受けたのは彼女だったのでしょう。

第五話 209号室のアオイ

冒頭部分 あらすじ
波佐野羽美は一〇九号室に住んでいる。
先代のオーナーだった父が事故で亡くなり、サンクレールのほか七件の不動産物件を相続することになったのだ。

その日も二〇九号室の秋山を訪ねインターフォンを鳴らし呼び続けていたが、彼女からの返事はなかった。
この部屋を彼女に紹介したのは羽美だった。
羽美は年明け早々に起こった事件を思い出していた。
四階の主婦が息子に締め出され、ベランダで凍死したのだ。

和葉とは何か月も前に連絡が取れなくなっていた。
エントランスやエレベーターで顔を合わすことがなくなった。
知り合った切っ掛けの「癒しの会」にも出席しなくなり、チャイムを鳴らしても返答することは無かった。

その後。馴染みのガソリンスタンドで、秋山が灯油を全く注文していないことを知った。
雪国のこの街で灯油なしに冬は越せない。
毎日のように彼女の部屋のチャイムを鳴らしたが、秋山が応じることは無かった。

感想
羽美の過去、アオイの正体等、今までに起こったことが全て収束し結末へ向かいます。
お話の中盤、羽美自身も少しずつ、おかしくなっていく様子が恐ろしく感じました。

まとめ

第一話から第五話にかけて、少しずつ怪異の規模が大きくなっていきます。
一話では人の行動が変化し、少しおかしくなる程度だったものが、四話、五話では完全に飲み込まれ狂わされていきます。

アオイはとても整った顔立ちの少年として描かれますが、終盤その理由が判明すると、うすら寒くなります。

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