小説 小説短編

これはこの世のことならず

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入道雲これはこの世のことならず
著:堀川アサコ
カバー挿画:こより
出版社: 新潮社 新潮文庫

盲目の娘、千歳は津軽で巫女(イタコ)を生業としている。
彼女は亡くなった夫に会いたい一心で、地元では大家として名の通った実家、大柳家の反対を押し切りイタコになった。
しかし、未だ愛した夫とは会えず仕舞いだった。

姉の娘、安子を連れて弘前を訪れた幸代は、千歳と知り合い彼女の勧めで、安子共々千歳の家に住むことになる。
二人は持ち込まれる依頼に潜む、歪んだ真実を解き明かしていく。

イタコの千歳と幽霊の声を聞いてしまう幸代の二人が事件に挑むオカルトミステリー第二弾

各話のあらすじや感想など

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悪所

冒頭 あらすじ
彼岸も過ぎたころ、千歳は母松江からの依頼を受けて、七尾家を訪れていた。
七尾家は林檎問屋として名を成している財産家だ。

千歳は驚きを隠せなかった。
霊との語らいは、それが死者であれ、生者であれ、梓弓をならし、木魚を叩き、経文を唱え相手の反応を待つ。
しかし、現れた老人はすぐさま口を開いた。

「イタコや面倒だばって、どうか頼みますじゃ。」
老人はそう言って話し始めた。
それは、薫物御前という女についての昔話だった。

薫物御前はいつも高い香の香りをさせていたという。
街道沿いの森の中のあばら家に住み、男をたぶらかし連れ込んでは殺し金銭を奪っていた。
ある時、引き込んだ少年の首を落とした拍子に、懐から仏画が落ちた。
信心のかけらもない、御前は小馬鹿にしながら絵を覗き込む。
その仏画には地獄の様子が描かれ、沼に落とされ、鬼に胸を割かれている女は薫物御前自身だった。

御前は少年の首を抱き、己の行いを悔いて泣いた。
血の匂いを消すため、清水の湧く泉でみそぎを続けた。
それが家の尾沼の清水だと老人は言った。
薫物御前はその後、一切の悪行を止め一人静かに死んだ。

しかし、御前がみそぎを行った泉水の水は、洗い流したものが溶け込み、真っ黒に変わった。
尾沼には悪いものが溜まっている、近づいては駄目だ。
老人はそう言って消えた、最後に孫を頼むと声を残して。

感想
母の松江から持ち込まれた依頼は、七尾家の長男、庄太郎への嫁入りを目論んでの事でした。
評判の良い長男、悪評の立つ次男と三男。
どのような場合でも、長男が家を継ぐというしきたりと、薫物御前という女の落とした、澱が溜まった泉。
様々なものが絡まって起きた事件でした。

これはこの世のことならず

冒頭部分 あらすじ
溝江サク子は花嫁人形を座敷に置いた。
五十代の恰幅の良い姿に、黒留袖に丸帯を着て顔には厚い化粧を施している。
しかし、その顔はうつろで暗い。
西日が差しこむ座敷には、婚礼の席の様に蒔絵の膳と、赤い角樽が置かれている。

そこに人はサク子しかいなかった。
他には、花嫁の席置かれた人形と、花婿の席に置かれた位牌だけだった。
これは八年前の関東大震災で亡くなった、息子のための祝言だ。
彼女の一人息子は大正十二年の震災で被災した。

仕事で上京し、戻ってきたのは一緒に行った、腹違いの弟だけだった。サク子は長持唄を歌う。
彼女は所謂、妾であった。
男を助け彼の事業を影から支え続けた。
男から与えられた小さな家にはいつしか不思議なものが出入りするようになった。

サク子の歌声にあわせ、誰もいない座敷に手拍子と、畳をこする足袋の音が響いた。

感想
過去を思い続ける人の思いが起こした事件でした。
このお話で登場する人物は皆、過去を悔いています。
誰にも、変えたい過去はあると思います。
しかし、過ぎ去ったものは変えることは出来ません。

終盤、彼らは過去を見ることを止め、未来と向き合います。
まるで薄暗い場所から、青空の下に出たような気持になりました。

白い虫

冒頭部分 あらすじ
大柳家の女中、シエは大柳家に出入りする、駄賃付けの寛七に嫁に欲しいと言われた。
寛七の事を憎からず思っているシエは、舞い上がるが、彼の行いを思うと喜んでばかりもいられない。

寛七は農耕馬の仲買いが本職の博労だ。
馬市の無い時期は自分で馬を引いて、荷運びをしている。
真面目によく働くが、稼ぎは遊びに使ってしまう。
色街に出入りし、酒を飲み喧嘩をする。
若い寛七はそれを誇ったりもした。

素行の良くない寛七と一緒になることを、実家の父親や、大柳の奥様、松江が許す訳がない。
好きな人と一緒になれるおまじないがあればいいのに。
シエがそんなことを考えていると、松江から声をかけられた。
シエに会いたいと、懐かしい人が訪ねてきたという。

指示された部屋に向かい、声をかけ中に入る
訪ねてきた人物をシエは初め誰か分からなかった。
「花枝ちゃん。」
そう言ったシエに彼女は優しく笑って。
花枝ちゃんは亡くなったでしょう。私はあなたと一番仲が良かった栄子よと言った。

感想
大柳家の女中、シエのお話でした。
女性が好む恋のまじないは多くあるでしょうが、作中のものほど気味の悪いものは初めてです。

馬市にて

冒頭部分 あらすじ
千歳は弘前の北東にある石村という農家を訪れていた。
石村家は自作農で十二人が余裕をもって暮らせるほどには裕福だった。
この地方の旧家にはオシラ様という神が祀られていた。
石村家は旧家というほどのものではないが、主婦のむつ子の見栄で一昨年からこの神を祀っていた。

オシラ様を祀るにはいくつかの決まりごとがある。
鳥獣の肉を食さぬこと、年に一度、イタコを呼んで祭礼をすること。
千歳は去年よばれたが、今年は声がかからないことを気にかけていた。
そこに件の石村家から電報が届いた。
オシラ様が消えたらしい。

話を聞くと、オシラ様は馬と姫で一対、桑の木でつくられる。
その馬の神の方が消えたらしい。
今年は一年おかしな事ばかり起きた、あれは祟りだったのかとむつ子は言う。
家の物が消え、自分の顔が馬面になったとむつ子は言ったが、目の見えぬ千歳にはそれが解るはずもない。

新しく馬の神を作れば良いのかと問うむつ子に、千歳は雌雄の桑の木が枝を交わらせたもので作らねば意味がないと諭した。
むつ子は千歳にこの家を受け持ったイタコなら、なんとかしてくれと訴えた。

感想
オシラ様は東北地方で信仰されている神様です。
作中でも語られていますが、悲しいお話です。
愛する馬と一緒に天に昇った姫と違い、一人になったスミがとても切なく感じました。

まとめ

千歳の夫は彼女の前にはっきりと姿を現すことはありません。
しかし、ずっと優しく彼女を見守っています。
物語冒頭とエピローグで彼の不器用な優しさを感じます。

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