カイニスの金の鳥 1
著:秦和生
出版社:イーストプレス
牧師の娘リアは幼い頃から物語を愛し、自分でも創作を続けてきました。
しかし、19世紀初頭のイギリスでは女性が物語を書く事自体がそもそも常識の埒外であり、彼女の作品は女性というだけで誰からも認めてもらえませんでした。
憤りを感じたリアはアラン・ウェッジウッドという架空の男性を作り出し、彼の代理として原稿をロンドンの出版社へ送ります。
登場人物
リア・ボイド
イギリス、グロスタシャーに住む19才の牧師の娘
幼い頃から物語を愛し、創作を続ける。
作品の良し悪しで無く性別で判断され、スタートラインに立つ事さえ出来ない事に憤りを抱いている。
アラン・ウェッジウッド
リアが作り上げた架空の男性。
設定的には同い年のリアの従兄弟。
ケイティ
リアの親友
彼女は当時の女性の扱いに一切の疑問を抱いておらず、ごく一般的な女性の幸せを望んでいる。
パティ
ボイド家の使用人の老女
リアにとって全てを話せる理解者であり協力者。
母親のいないリアにとって彼女は母親代わりだったようだ。
余り字が読めないので、リアの物語を読む事は難しい模様。
ベンジー・キャンベル
コレット出版の編集者
黒髪糸目の男性。
リアがアランの名で送った原稿を読み、本の出版を打診する。
マイルズ・キーツ
小説家
金髪で眼鏡の青年。
出版契約の為、アランに扮していたリアと出会い意気投合する。
契約後、故郷に戻ったアラン(リア)にロンドンに出て来いと手紙を送る。
本人は明るく振舞っているが、彼の作品は暗い物が多い。
カール・ダンヒル
売れっ子小説家
騒ぎを避ける為、親しい人間にはDと呼ばせている。
取材に重きを置き、自らテーマである場所に飛び込んで得た経験から作品を執筆している。
あらすじ
牧師の娘リアは幼い頃から物語を愛し自らも創作を続けて来た。
しかし世間はリアが女性というだけで、読みもせず彼女作品を駄目だと決めつける。
その事に憤りを感じていたリアは自らが創り出した架空の男性、アラン・ウェッジウッドの代理だと名乗り出版社へ原稿を送りつける。
彼女の作品は評価され出版社はアランとの契約を望んでいた。
リアはアランの仲介役として契約を結び、晴れて彼女の作品は本として出版される運びとなった。
しばらくして出版された本が彼女の下に届く。
自分の作品が本になった喜びと同時にリアの中に暗い感情が渦を巻く。
リアの物語は恐らく彼女の名前では本にはならなかった。
アランという男性だったからこそ、本は世に出る事になったのだ。
内容は同じでも性別によって差別される。
幼少の頃からその事に憤りを感じていたリアはある計画を思いつく。
アランとして人気作家となった後、正体を世間に公表するのだ。
その計画の第一歩として、リアは髪を切りアラン・ウェッジウッドとして出版社のあるロンドンへ旅立った。
感想
現代では女流作家は珍しくなく、素晴らしい作品を多く世に送り出しています。
しかし、二百年程前のイギリスでは女性が書いた物は読む価値が無いとされていた様でした。
現在の状況を知っているとそれが凄く残念でなりません。
恐らく素晴らしい作品が発表される事無く、誰かの頭の中だけで消えていったのでは無いでしょうか。
物語を作った人物がどんな人であっても、素晴らしい物は素晴らしいしそうで無い物はどんな名士が書いても駄作だと思います。
まぁ、作品は合う合わないがあるだけで駄作なんてこの世には存在しないとも思うのですが……。
ともかく、あらゆる創作物は人種、性別、地位、経歴に関わらず作品のみで評価されるべきだと感じます。
実際に読み、見て、触れて感じた物だけが、その作品の評価なんだと思うのです。
まとめ
物語は男装しアランとなったリアがロンドンで小説家として活動していく様子が描かれます。
友人のマイルズとの関係も含め、色々楽しみな作品です。
この作品はイーストプレス公式サイトMatogrossoにて一部無料でお読みいただけます。
作者の秦和生さんのアカウントはこちら。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。