ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
幽霊が「視えてしまう」草食系大学生、八神森司。
こよみに片思い中の彼は、彼女を守るため心霊関係が苦手にもかかわらずオカルト研究会に所属しています。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第二弾。
各話のあらすじや感想など
シネマジェニック
あらすじ
冬の気配がまじかに迫った十一月。
八神森司は大学構内で二人の男に声を掛けられている、藍とこよみを見かける。
藍の機転で男たちは去っていった。
後から話を聞くと、彼らは映画研究会の部員だったようだ。
雪大映画研究会といえば何代か前までは、名の通ったサークルだったようだが、最近は大学の目ぼしい女性に声をかけて、海やプール、温泉などに連れ出し脱がす事しか考えていないそうだ。
話を聞いて森司は頭に血が上った。
彼もこよみの水着姿など、一度も見たことがないのにふざけるな。
怒りに震えていると藍から、「こよみちゃんはきみが守るのよ」と声を掛けられた。
藍の言葉に森司は深く肯定した。
その日オカ研に相談に訪れたのは、先ほど話題になった映研のメンバーだった。
以前相談を受けた桑山保からの紹介ということで、無碍にも出来ず話を聞くことになった。
映研部長の斎田の話では、コンペに出そうと撮った作品におかしなものが映っているという。
詳しく話を聞くと、ブレアウィッチ・プロジェクトのパクリのような作品を撮ろうとしていたようだが、そこに本来いるはずのない女性が映りこんでいるという。
しかも編集や確認のため、映像を見返すたびに女性の位置が変わり、段々と主演女優に近づいているそうだ。
映像を見せてもらおうと、カメラ担当の大島という太った男に斎田が声をかけると様子がおかしい。
泉水が素早く大島からカメラの入ったバッグを奪うと、ファスナーが少し開いてカメラのレンズが覗いていた。
どうやらこよみを盗撮していたようだ。
大島はこれが初めてではなく常習犯のようだった。
大島を追い出し、カメラはオカ研で預かることにして話を続けた。
斎田の話では、主演を務めたサークルの女性部員にも影響が出ているという。
彼女は前回、そして今回と二回連続で主役を務めた。
それをやっかんだ他の女性部員から嫌がらせを受けていたようだ。
斎田は彼女がサークルを休み始めたことは、それによるものだと考えていたが、大学も休学すると聞き見舞いに行った彼らは、げっそりとやつれた彼女を見てこれは仮病などではないと悟った。
彼女に話を聞くと体に力が入らず、頭がぼうっとして何もできないらしい。
黒沼部長は彼らの話をきいて、撮影場所の大学の裏山に向かうことにした。
感想
写真や映像に映りこんだ、そこに居なかった人物。
それが見るたびに少しずつ動いている。
怪談ではよくあるパターンのお話ですが、今回は場所ではなく取りついていたのはカメラでした。
こよみちゃんが件のカメラで盗撮されたことで、彼女にも被害が及ぶ可能性が出てきました。
森司君はこよみちゃんが危険にさらされる状況になると、行動力が増すようです。
いつもそれぐらいの勢いがあれば、彼らの仲も進展するのになあと読みながら思ってしまいました。
彼女の彼
あらすじ
森司は怠い体を引きずって大学に来ていた。
どうやら質の悪い風邪を引いたようで、市販の薬は飲んでいたが一向に熱が引かない。
部室を訪れた森司は、こよみが風邪をひいて休んでいると藍から聞かされる。
彼女に会うために、休まず大学に顔出したことが裏目に出て、こよみにうつしてしまったようだ。
自分の行いを後悔していると、部長から二時にアポがあり相談者がくるとの旨を告げられた。
熱でぼうっとする頭を抱え、森司は部室に来た綿貫となのる男の話を聞いた。
彼は中々にハンサムで、取り巻きの女性を三人連れて部室を訪れた。
彼の話では、昔から知っている岸本美織という女性の幻を見るらしい。
彼女は二年前、高校三年の冬に失踪していた。
綿貫は失踪の原因はわからず、悩みがあるなら自分に相談しない訳がないという。
正式に付き合っている訳ではなかったが、取り巻きの女性たちも二人はお似合いのカップルだったと語った。
森司は彼らの話を聞きながら、どこか違和感を感じたが、熱のせいでそれが何か気付くことは出来なかった。
感想
普段被っている煌びやかな仮面の下には、どろどろとした悪意が渦巻いている。
そんなことを感じるお話でした。
幽霊の多い居酒屋
あらすじ
「カンパーイ、メリークリスマス!」
森司の住む1Kのアパートでクリスマスを祝う声が響いた。
消去法によりクリスマスパーティーの場所が、森司のアパートになったのだ。
サークルのメンバーに加え、以前相談を受けた桑山保と彼の友人の山岸という、別の大学、光桐学院に通う男もパーティーに加わった。
山岸は鼈甲の眼鏡をかけた気の弱そうな男だった。
保は彼が光桐でテニスサークルに所属しており、そのサークルの飲み会で幽霊を見たと話し始めた。
その居酒屋は幽霊居酒屋と呼ばれており、光桐では有名だそうだ。
サークルは飲みサーとなっておりチャラいメンバーが多く所属していた。
その日も幽霊居酒屋で飲み会となり、他の部員が騒ぐ中、山岸は観葉植物の脇に立つ男の姿を見つけた。
男はどこか気まずそうな顔で壁に背を付け立ち尽くしていた。
山岸は部員たちに幽霊を見たと伝えたが、彼らは「そりゃいるよ」とそのまま飲み続けたそうだ。
あんなものがいるのに、何故彼らは平然と笑っていられるのか。
彼は会費を払い、早々に店を立ち去った。
「なにもかもが解らないんです。」
山岸は部員も店員もなぜ平気なのか、何故いままで幽霊など見たこともないのに、あんなにはっきり見えたのか。
理由が分からないと語った。
泉水はたまたま波長が合っただけだと言った。
明日、その店に行ってみようと黒沼部長が言い出し、彼らはクリスマス当日その幽霊居酒屋に向かうことにした。
感想
山岸君は大学デビューを果たそうとして、肌の合わないサークルに所属してしまいました。
波長の合わない面子と付き合う事は、エネルギーを消耗するし、彼にとっても良い結果は生まないでしょう。
自分の居心地のよい場所を探すことは、とても大事になことだと感じました。
鏡の中の
あらすじ
新藤は悪夢にうなされ飛び起きた。
最近はしょっちゅう悪夢を見る。
内容は覚えていないが、そのせいで睡眠不足が続き、体もだるく頭もはっきりしない。
ふと鏡をみた。
古道具屋で一目ぼれして買った鏡だ。
そこに男が映っていた。
自分ではない。
男の顔を見て夢の内容をはっきりと思い出した。
この男がいつも夢に出てきて自分は殺される。
新藤はその場に膝をつき部屋の中を這って逃げた。
部屋の壁に頭が付きこれ以上逃げられない。
彼は部屋の隅で胎児のように丸まった。
しばらくたっても何も起きないので、新藤は再び鏡を覗き込んだ。
そこには何も映ってはいなかった。
部屋の様子は映っている、しかし本来映し出されるべき彼の顔は映らず、肌色の輪郭のぼやけた靄が映し出されるだけだった。
感想
鏡にまつわる怪談も数多く存在します。
合わせ鏡や紫の鏡など、鏡は古くから祭器として扱われたり、なにか神秘的なものを人に感じさせるのでしょう。
人形花嫁
あらすじ
二月の上旬、バレンタインを控え独特な雰囲気が漂う中、森司は部室で藍と話していた。
話題はもちろん、バレンタインについてだ。
他愛無い会話を続けながら、森司はこよみからチョコがもらえるのか気が気ではなかった。
そんな中、藍から先輩の女性が相談したいことがあるという話を持ち出した。
藍の話ではどうやら人形に関わる話らしい。
松原鞠香という女性が今回相談を持ち込んだ人物だ。
彼女が言うには義母が家に持ち込んだ人形が、彼女の夫に恋をしているとのこと。
人形は所謂、活人形というもので、とても精巧に人の姿を模しており、手には青い血管の筋まで再現されているという。
最初に気付いた時は、寝ている時かすかな物音で目を覚ました鞠香は廊下に白い女の顔を見たそうだ。
彼女は驚き、寝室のドアを閉め這うようにベッドに戻り、朝目覚めた時は、夢でも見たんだと結論付けた。
しかし怪異はつづき、違和感で目覚めた彼女が見たのは夫に添い寝する人形の姿だった。
夫や義母にも話したが、彼女が悪戯していると決めつけられ取り合ってもらえない。
義母に至っては、人形を口実に同居を辞めたいだけだろうと言われる始末。
黒沼部長は一度人形を実際に見たいと言って、鞠香に都合のよい日時を聞くのだった。
感想
日本人形にまつわるお話でした。
稲川淳二さんの生き人形の話など人形にまつわる怪談も多く存在します。
人の形をしたものには魂が宿るなどと言いますが、私も藍ちゃんと同様人形が苦手です。
まとめ
今回収録された物語は、男女の愛憎に関わるものが多かったように思います。
人の想いで強い感情を持つものは、愛に関するものが多いからでしょうか。
森司くんとこよみちゃんの仲も、ほんの少しずつですが進展しているようです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ホーンテッド・キャンパス 幽霊たちとチョコレート (角川ホラー文庫)[Kindle版]