ホーンテッド・キャンパス 夏と花火と百物語
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
森司は思わず飛び起きた。
原因は中学時代の部活の夢だ。
森司は所属していた陸上部のコーチに目の敵にされていた。
コーチは一年程で別の学校へ引き抜かれて行ったが、厳しく叱責されたことは、いまだにトラウマだ。
枕の下から雑誌がはみ出している。
これの所為かと雑誌を丁寧に枕の下に戻した。
雑誌には今月のベストカップルとして、森司とこよみの写真が掲載されていた。
以前、受けた取材は「街のおしゃれさん」だったはずだが、なぜかベストカップルの記事として掲載されたのだ。
枕を直した森司は、体を横たえ目をつぶる。
もう悪夢は見なかった。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第十四弾。
各話のあらすじや感想など
夏と花火と百物語
冒頭部分 あらすじ
マンションの十一階、スカイラウンジホールにオカルト研究会を含め多くの人が集まっていた。
今日は一年に一回の花火大会だ。
部長の黒沼がワインとシャンパンのを持ってきたと瓶を掲げる。
従弟の泉水は缶ビールのケースを抱えている。
スカイラウンジにはソファーがコの字の形で置かれ、真ん中にガラス製のテーブルが集められている。
泉水がすでに集まっていた人たちに、力仕事は俺に任せろよと声をかけている。
声をかけられた人物、八神森司が自分と小山内、鈴木で余裕でしたと手を上げながら答える。
部長と泉水に気付いた女性二人が、はしゃぎながら出迎える。
片貝璃子と五十嵐結花の二人だ。
彼女たちはこのマンションでルームシェアをしている。
スカイラウンジが使えたのは彼女たちのお蔭だ。
部長が二人に連れを紹介している。
工学部の古賀と弟の透哉、そして一年の内藤だ。
藍が場を仕切って、みんなを座らせる。
そして、それぞれに紙コップが配られる。
藍が森司に声をかけ、こよみの横にすわるように促した。
彼はどぎまぎしながら、こよみの横に腰かける。
全員に飲み物がいきわたり、部長が乾杯の音頭をとった。
かんぱーいと全員が唱和した。
照明が消され、テーブルに置かれたキャンドルスタンドの灯りがラウンジを照らす。
階下から拡声器の花火大会の開催を告げる声が聞こえてきた。
ドーンという音と共に、室内が花火の光で照らされる。
部長がそろそろ始めようと言った。
そして百物語は始まった。
感想
これまでに登場した依頼者が多く登場し、百物語を語る。
まさにお祭りのようなお話でした。
百物語は、百本の蝋燭を用意し、参加者が一話語るごとに一本吹き消していき、最後の一本を消した時、何か怪異が起こるという物です。
九十九話で止めて、そのまま朝を待つというのが、通常のスタイルですが、百話まで行い、何かが起こったという話もあるようです。
ウィッチハント
冒頭部分 あらすじ
「中世の魔女狩りに、興味はありますか。」
文学部四年の真下陶子はそう問いかけた。
部長の黒沼が嬉しそうにそれに食いつく。
差し入れのバニラチョコムースを片手に、部長は魔女狩りについての思いを語った。
気圧される陶子に部長がスイーツを進める。
彼女はゼリーとアイスコーヒーを受け取り、口運んだ。
部長はみんなが甘味を味わっている間、うんちくを披露した。
異端審問は元はローマ・カトリック教会に従わない、異端派を屈服させるための物だったようだ。
しかしそれがいつしか、異端派と悪魔崇拝者を混同するようになり、エスカレートしていった。
最終的には、手足を縛り川に投げ込み、水に浮かんだら魔女等、滅茶苦茶な判定方法もあったようだ。
約三十万人の被害者を出した魔女狩りは、十八世紀の初頭に出された禁止令で終焉を迎えた。
部長のうんちくに圧倒されていた陶子だが、気を取り直して今回の依頼について語った。
彼女は大学とは関係のないミニチュア工作サークルに所属しており、そこでの作品を検証して欲しいと語った。
作品はフランスのアド・ル・リード城のミニチュアで、ドールハウス展に出品するらしい。
城内は忠実に再現したが、地下は架空のものを想像で制作したようだ。
地下には異端審問官の拷問部屋が配置され、美しい地上の生活の下では、恐ろしい事が起こっているというギャップが制作意図らしい。
彼女は拷問部屋や道具についての監修を、フランス中世史の教授にお願いしたが、オカルト研究会の黒沼の方が詳しいと、部長にお鉢が回ってきたようだ。
部長が作品について尋ねると、かなり大きいらしく作業場から動かすことは難しいようだ。
部長は泉水が戻ってから、作業場に向かおうと言った。
感想
中世の魔女狩りについては、諸説あり犠牲者も魔女と言われていますが、男性も数多くいたようです。
少し人と違ったことをする者や、集団の意志から外れた者を、やり玉に上げ排除する。
こういったことは現代でも、少なからず行われているように思います。
金泥の瞳
冒頭部分 あらすじ
平屋建ての木造一軒家、築五十五年の古い日本家屋だ。
植戸一道、蓮次、三澄の三兄弟がこの家に越してくるまでは紆余曲折があった。
三人の両親が亡くなったのは十年前、一道が十八、蓮次は十六、三澄は八歳だった。
一道は進学せず就職し、蓮次も出稼ぎのため離れて暮らしていた。
半年前、蓮次が戻り、1LDKの部屋で三人暮らすようになった。
三澄が大学生になった時、一通の知らせが来た。
父の次兄である植戸清治郎がなくなったのだ。
清治郎に家族はおらず、家や貯金などの財産は三兄弟が相続することになった。
彼らは詐欺の可能性も考え、送り主である弁護士を調べたが、実在する人物であった。
彼らは話し合いの末、伯父の家であるこの家に越すことを決めた。
荷物も運び終え、それぞれの部屋も決まった。
自分の部屋に決まった座敷に入った一道は長押に飾られた竹額に入った能面が気になった。
女面、般若、翁の面が一つの竹額に納められ飾られている。
その中の翁の面が一道は特に気になった。
蓮次に言って、押し入れに箱が無いか探してもらう。
三枚とも桐箱に納め、庭の物置に仕舞った。
夜中、寝付けずネットをみていた三澄は、友人が上げている焼き肉の画像を見て空腹を覚えた。
引っ越ししたばかりで、この家に食料と呼べるものは無い。
コンビニでも行くかと思っていると短い悲鳴が聞こえた。
悲鳴は座敷の方から聞こえた。声は一道で間違いないだろう。
三澄は布団から出て座敷に急いだ。
途中、蓮次と合流する。彼も悲鳴を聞いたらしい。
廊下を曲がると一道が、廊下にはい出し喘いでいる。
泥棒かと座敷を覗き込むが、そこには誰もいなかった。
中を見渡す、壺や掛け軸など、室内は変化が無いように思えた一点を除いて。
長押には、確かに昼間片付けたはずの能面が、三つ並んでこちらを見下ろしていた。
感想
このお話を読んで能面についても少し調べました。
般若より生成の方が怖く感じるのは私だけでしょうか。
橋姫の面も恐ろしいですが、小面や孫次郎の面にも不気味さを感じます。
まとめ
森司君は中学時代のコーチとの再会で、自分が本当に必死になれるものが何かに気付きます。
彼がいつ決意するのかは分かりませんが、それはそう遠くないように感じました。
次の巻は文化祭の時期のお話になるのでしょうか。
読むのが楽しみです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。