ホーンテッド・キャンパス 白い椿と落ちにけり
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
ゴールデンウィークも開けた講義室。
学生たちは休み呆けを引きずっていた。
八神森司もこよみとのデートの記憶を反芻していた。
思い出すだけで顔がニヤついてしまう。
ゼミの友人に注意され顔を引き締めるが、数分で思考は記憶と妄想の再生を始めてしまう。
終業のチャイムがなり、結局ノートを取ることは出来なかったなと反省した。
学食に向かう足をとめ考える。
きっと学食で食事をしているあいだもニヤついてしまうだろう。
彼はローソンか売店でなにか買って一人で食べようとそちらに向かった。
コーヒーとサンドイッチを購入し、中庭のベンチに腰を下ろす。
サンドイッチを口に含むと、ドライブの時にこよみが作って来てくれたサンドイッチを思い出す。
森司の妄想を鈴木の声が断ち切った。
彼とこの前のデートの事を話していると、こよみの姿が目に入った。
彼女は二人を見つけると、駆け寄ってくる。
森司は逃げ出していた。
彼を追って鈴木もかけてきた。
なにをやってるんですかと問う鈴木に森司は、
「なあ俺って今まで、灘とどうやってしゃべってたっけ」と問い返した。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第十一弾。
各話のあらすじや感想など
悪魔のいる風景
あらすじ
エクソシスト系の映画を見ると、血が沸騰するような気がする。
仮入部希望の蟹江曜平はそう言った。
そんなに好きなのかと森司が問うと、見たのは二回で見た時間もほんの僅かだった。
怖いのが苦手なだけではないのかと言うと、スプラッター映画は平気だと答えた。
黒沼部長は曜平の反応はホラー映画が苦手なひとが、スプラッターを見た時になる状態で、エクソシスト系でなるのは珍しいと語った。
蟹江の様子を見るために、夜は悪魔祓いを扱った映画を見ることになった。
ホラーが苦手な森司は逃げ出そうとしたが、部長が許してくれるはずもなかった。
夜になり藍も含め、オカルト研究会のメンバーが全員あっまった所で、上映会は始まった。
森司は鈴木の助けで最後尾に座ることが出来た。
ノートパソコンにエクソシストが映し出される。
森司は画面をあまり見ないようにしていた。
こよみの横顔が目に入る、こんな綺麗な子がなんで俺とのドライブに付き合ってくれたのだろうか。
そんなことを考えながら視線を外すと曜平の様子がおかしい。
顔は白く、体は小刻みに震えている。
固く握られた拳は血の気を失っていた。
泉水も気づいたようで、やばそうなら合図をすると小声で伝えてきた。
映画はカラス神父が少女に、悪魔祓いの儀式をおこなう場面を映し出している。
少女は卑猥な言葉を叫んでいる。
ポルターガイスト現象が起こり、扉が砕けた時、曜平が悲鳴をあげてパイプ椅子のうえでのけぞった。
白目をむいて痙攣している。
顔をかきむしろうとする曜平の腕を泉水が掴んだ。
森司も彼の体を抑えようと背後から飛びついた。
曜平はその間何かを叫び続けていた。
森司は大半は聞き取れなったが、いくつか拾えた言葉もあった。
鈴木が我に返って、抑え込もうとした時、彼の息をのむ音が聞こえた。
森司が見ると、本棚の本が宙に浮いている。
泉水が曜平から手を放し部長を床に引き倒した。
頭上を本が飛んでいく。
森司はこよみの姿を探すと、藍と共に部室の隅でかがみこんでいた。
ほっとしたが、今度は空になった本棚と長机が動き出そうとしていた。
森司は咄嗟に頭を庇おうとして動きを止めた。
子供の泣き声が聞こえる。
この世のものではない、助けを求める泣き声だ。
森司は泉水に、曜平を気絶させるようたのんだ。
泉水は、素早く曜平の首に手をまわし気絶させた。
本棚の動きは止まっていた。
部長が泉水に曜平の服を緩めるよう頼んでいる。
泉水は曜平のベルトをゆるめ、シャツの胸元をあけた。
不意にその手がとまる。
不思議に思った藍がのぞき込み息をのむ。
藍に促され曜平の胸をみると、そこにはミミズ腫れでタスケテと書かれていた。
感想
悪魔付き、日本では狐憑きでしょうか。
現代では医学の発展により、精神の病として認識されているような場合も、昔は悪魔付きとして一括りにされていたのでしょう。
過度なストレスにより精神を病むことは、珍しいことではありません。
踏ん張って頑張ることは、日本では美徳とされていますが、それで心が壊れてしまっては、意味がありません。
嫌な場所や出来事から逃げることも、自分を守るためには必要だと感じます。
夜ごとの影
あらすじ
「幽霊の誤解を解くにはどうしたらいいでしょう」
入江順太は黒沼部長にそう問いかけた。
彼は経済学部の二年生。
現在は伯父が住んでいた家に一人暮らしだ。
寮を出てアパートを探そうとしていた息子に、彼の父が生前贈与したのだ。
家は元は曽祖父が建てたもので、その後、祖父が住み、それを父の兄である伯父が引き継いで暮らしていた。
順太はその日、影絵に使う人形を製作していた。
彼はボランティアで影絵芝居を子供たちに見せているのだ。
はじめはゼミの単位稼ぎだったが、喜んでくれる子供たちをみると楽しくなって、今では進んで人形を作るまでになっていた。
懐中電灯と一緒に持ってきたウィスキーソーダを飲みながら、テストで壁に影を映し、演目であるかちかち山を語っていく。
そのうち映っている影が二重にみえだした。
酔ったかな。飲んでいたハイボールの缶を見る。
アルコール度数は9パーセント、確かにビールよりは強いが酔っぱらうほどではない。
重なった影が抜け出す、子供だ。
起こっている事が信じられず順太は固まった。
影の口が動いている。
読み取ろうとしていると、唐突にくもぐった声が聞こえた。
「出て行ってよ」
その後も声は順太の事を知らないおじさんと言い。
出て行ってとすすり泣きながら訴えた。
感想
今回のお話は、あらすじに書いた順太の依頼と、もう一つ千歳という藍の後輩からの依頼の二つが同時進行していきます。
二つの依頼は、同じように幽霊に家から出て行くよう言われることから始まっています。
しかし、二つは全く別の真実にたどり着きます。
白椿の咲く里
あらすじ
珠青は夢をみていた。
白い光、それは白い花の群生だった。
何処までも続く無限の花帯、それに彼女は恐ろしさを感じた。
目を覚ますと、いつもは夢の内容をはっきりと覚えているのに、その日は白い花畑にいた事しか思い出せなかった。
最近夢見が悪い。
原因を研究室と家の往復しかしていない、単調さに求めたが、違うとすぐに打ち消す。
本当なら人生で最良の時だったはずだ。
その考えを首を振って打ち消し、ベッドからでた。
大学に行こうと、アパートの新聞受けから朝刊を取り出す。
ふと違和感を感じ、目をやると靴箱の上の花瓶の花が落ちている。
薔薇の花頭が切ったのでも千切ったのでもなく落ちていた。
薔薇の散り方ではない、これはまるで。
気分が悪くなった彼女は、新鮮な空気を吸うためベランダへむかった。
ベランダに出て深呼吸をする。
気分を落ち着けた彼女は、ベランダを見て息をのんだ。
ベランダのプランターに植えられていた花が、薔薇と同じように一つ残らず落ちていた。
感想
美しさというのは、男女問わずその人の武器でしょう。
しかし美しいだけでは、人気も長続きしません。
ホストやホステスもその店のNo.1が、その店で一番の美形かというと、そうでない場合が多いです。
外見以上に、内面を磨くことが重要な気がします。
まとめ
冒頭では、こよみちゃんとうまく話すことが、出来なくなっていた森司君ですが、終盤では周りの助けもあり、何とか以前のように会話できるようになっていました。
しかし、こよみちゃんには何か悩みがあるようで…。
彼女の悩みについては次巻に持ち越しです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。