平面いぬ。
乙一
集英社文庫
日常に入り込む怪異と不思議を描いたファンタジー・ホラー短編集この短編集には4作が収録されています。
各話のあらすじや感想など
石ノ目
石ノ目、あるいは石ノ女と呼ばれる者に関する物語だ。
それは石ノ目の「目」を見ると石なってしまうというものだった。
主人公の美術教師Sと同僚のNは、山歩きの途中でがけ崩れに遭い、遭難してしまう。
Sは足を痛めたNを背負い彷徨ううちに、一本の砂利道を見つけた。
Sは砂利道の先に人家らしき光を見つけるが疲労により意識をうしなってしまう。
意識を取り戻したSは古い日本家屋で目を覚ます。
そこで暮らす老女に助けられたらしい。
彼女は決して自分の顔を見てはいけないとSに約束させる。
さらに老女はNの足が治るまでここに逗留するようSに勧める。
Sは戸惑いながらも承諾した。
SはNと話し、老女が物語の石ノ目ではないかと話すが、Nはそんなことがある訳が無いと一笑に附した。
家を出て周囲を探索したSは驚く、家の周囲には無数の石像が林立していたからだ。
石像はとても精工で彫刻で作られたものとは思えない。
老女は石ノ目なのだろうか。
感想
老女はとても丁寧に話すのですが、Sを家から逃がすまいとする意志を感じた時、丁寧な口調が逆に恐怖を煽りました。
はじめ
あらすじ
耕平は友人の木園淳男と飼育係当番をしていた。
不注意でひよこを殺してしまった耕平は、死体をノートにくるみ排水溝に流した。
翌日、ひよこが発見されクラスは犯人捜しで盛り上がる。
容疑者は当番だった耕平と淳男に絞られた。
普段から真面目で大人しいと思われていた耕平は、容疑者から外される。
淳男が犯人だと担任に追求された時、淳男がいきなり別の人物の名前を告げる。
告げられた名は「はじめ」別の学校に通う同い年の女の子だという。
もちろんそんな人物は実在しないが、担任もクラスメイトも淳男の言葉を信じ、はじめが犯人で事件は決着した。
その後も何か事件が起こるとそれは、はじめが引き起こしたことにされた。
子供たちが悪戯の追及を逃れるため、都合の悪いことは全てはじめがやったことにしたことが原因だ。
そのうちおかしな事が起こる。
存在しないはずのはじめを見たという者が現れたのだ。
耕平と淳男は、苦し紛れに淳男がついた嘘から生まれたはじめが、独り歩きし始めたことが楽しくなり、はじめの容姿や家庭環境などを考えることに夢中になった。
感想
はじめという空想の産物が、徐々に実態を帯び現実に影響を及ぼしていくのですが、彼女はあくまで幻想で触れることは出来ません。
それでも確かに存在し、精一杯生きたのだと思います。
BLUE
あらすじ
ぬいぐるみ作家のケリーは骨董屋で不思議な手触りの生地を手に入れる。
彼女は手に入れた生地で三体の人形を作り上げる。
王子、王女、騎士、の三体だ。
出来上がった人形を部屋に飾りケリーは眠りに落ちた。
最初、人形が動くのを見た時ケリーはそれがアルコールによるものだと思い込んだ。
そこで自立できる馬を作り、立たせてみると馬はトコトコと歩き出した。
他の三体にも靴を作り履かせると、三体も歩き出した。
幻覚に付き合ってもしようがない、余った生地をどうしようかと考えを残った端切れでもう一体制作することにした。
青い生地をベースに作られた不格好な人形にブルーと名付け五体を部屋に飾った。
ダン・カーロスは娘のプレゼントを探し、骨董屋を訪れた。
店主が勧めてきたのは人形だった。
人形は五体あり、四体は丁寧な作りだった。
ダンは四体を買うことにした。
青い人形は不格好でダンは必要ないと思ったが、店主がタダで良いというので持ち帰ることした。
ダンは家に帰ると娘のウェンディに人形を渡した。
ウェンディはとても喜び人形を部屋に飾った。
四体は机に並べられたが、ブルーだけは部屋の隅に放置されたままだった。
感想
不思議な生地で作られた動く人形の物語です。
ブルーはウェンディに好かれようと懸命に努力しますが、全てが空振りに終わります。
そのうち、ウェンディは乱暴者の弟テッドにブルーを渡してしまいます。
彼らは骨董屋の店主から決して動かないよう固く言われていましたが、テッドが犬に襲われた時、ブルーは言いつけを破りテッドを守ろうと犬と戦います。
ブルーのひたむきな優しさがとても心に響きます。
平面いぬ。
あらすじ
主人公は腕に犬を飼っている。
三センチの青い毛並みの犬だ。
名前はポッキー、友人の山田の家は彫師をしていて、そこで出会った中国人の女性に彫ってもらったものだ。
主人公の家系は代々癌の家系で、癌で亡くなる人がとても多い。
母のミサエから父のシゲオが癌であることを告げられた主人公はその後、母ミサエも弟のカオルも癌で余命半年であることを知る。
家族は自分以外が癌で半年で亡くなることになる。
彼らは自分が癌に侵されていることは知らず、主人公以外の二人が癌でそれぞれが、残されるのは自分と主人公だけであると思っているのだ。
全てを知る主人公は、ある時家族に真実をつげてしまう。
感想
主人公である私は出来のいい弟と比べられ、家族の愛が全て弟にそそがれていると思っています。
一人残される主人公が家族と話し悲しさを訴える場面は胸に来るものがあります。
まとめ
乙一さんの書く物語は、どれも悲しさや切なさを含んでいるように思います。
どうにも出来ない事でとても悲しいのに、何故か暖かい光のようなものを感じるのが不思議です。
今回の四篇の中ではBLUEがとても好きで、読むたびに泣いてしまいます。