小説 小説短編

さすらいエマノン 各話冒頭部分あらすじ・感想

投稿日:2018年10月25日 更新日:

象
さすらいエマノン

著:梶尾真治
画:鶴田謙二
出版社: 徳間書店

長い髪に、印象的な瞳とそばかす。ジーンズをはき、E・Nとイニシャルを縫い込まれたナップザックを抱えた少女  彼女の名前はエマノン。

四十億年分の記憶とともに生き続ける少女、エマノンの物語。

この短編集には表題作を含め、五作品が収録されています。

各話のあらすじや感想

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さすらいビヒモス

あらすじ
地球が火山活動による灰で覆われ、太陽の光が遮られえた時期。
雪が舞う中、デリタリウムと呼ばれるネズミに似た小動物が虫を食べている。

ティラノザウルスの黒は飢えに苦しみ、彷徨っていた。
夢中で餌を食べているデリタリウムを見つけた黒は、彼らを捕食しようと襲い掛かる。

ティラノザウルスに気付いたデリタリウムたちは地面に空いた穴に逃げ込もうとする。
いつもの穴に逃げ込もうとした彼らに、何かが語り掛ける。

「ちがう!いつもの穴に逃げ込んではだめだ!!」
「私はビヒモス、ティラノザウルスなど、どうでもいいもっと大きな危機から身を守って……。」

声に導かれて四角い穴に逃げ込み、数日後地上に戻ったデリタリウム達が見た物は黒の死体だった。
宇宙線シャワーにより、地表の動物の多くが死に絶えたのだ。

それから五千万年、ビヒモスが語り掛け来ることはなかった。

十八歳の由紀彦は世界最後の象に父を殺された。
人と接することが苦手で友人もいない彼は、唯一の身内である父を愛していた。

復讐のため自宅に有ったショットガンと日本刀を持ち、父の車で逃げたした象を追った。

感想
五千万年前、哺乳類の起源である生命を救ったビヒモス。
作中では命の定義、生きることの意味がビヒモスを通して語られます。

ビヒモスの気高さに涙が溢れます。

まじろぎクリーチャー

あらすじ
アメリカ、メイン州。
カール・ウィリアムズは買い出しの帰り、行きつけのジョンのバーにより、ビールとバーボンで暑気払いをしていた。

酔いを醒まし帰途に着いた彼は、自分が禁忌区と呼ばれる場所に近づいてしまったことに気が付いた。

バーで聞いた話では最近、禁忌区に怪物が現れるらしい。
そんな話を聞いたのに、何で禁忌区に隣接する近道を選んでしまったのか。
カールは自分のうかつさを呪った。

おりしも禁忌区との境界線である、鉄条網の横で彼の乗ったトラックが突然止まった。
ファンベルトが切れてしまったらしい。

予備のファンベルトに交換し、一息ついたカールは鉄条網の中に異様な影を見る。
牛よりも大きな体躯に短い体毛が斑に生えている。
全体にただれた乳赤色の皮膚。

カールはエンジンキーを回し、ようやくかかった時には神に感謝した。

二日後、ジョンのバーに一人の女が訪ねて来た。
女はエルムヘッドに行くという。
エルムヘッド、現在、地元の人間からは禁忌区と呼ばれている土地だ。

バーにいた人々は全員で女を止めたが、彼女は約束だからとバーを立ち去った。

感想
自然に生まれたものではなく、人が生み出したものは自然界の中で分解されることなく、何十年、何百年も残り続けるものがあります。

作品に登場した化学兵器以外にも、洗顔料に含まれているスクラブ等も分解されず、海に流れ魚の体内に蓄積され、それを人間が食べ最終的に人の体に影響を及ぼす事になります。

便利なものや快適な生活の影には、気付いていないことも沢山あるのかもしれません。

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あやかしホルネリア

あらすじ
雄司は父の死によって引き継いだ養殖漁業を独学で行っていた。
現在は入り江にて海洋牧場「マリン・コーラル」と名付けた生簀で鯛の幼魚を飼育している。

その日はやけに鳥の騒がしい日だった。
研究所の小屋に向かった雄司は、そこでエマノンと名乗る少女と出会う。

彼女は小屋を勝手に使った謝罪と、この海で何かが起こるのを確かめに来たと語った。

少女のことが気になった雄司は、小屋を使って構わない事と自分の仕事について話した。
彼は稚魚に低周波を聞かせ、餌を与えることで低周波イコール餌と覚えこませ、その稚魚を放流し外海で育った成魚を、低周波で集め収穫する方法を試していた。

その後二人はここ数年問題となっている、赤潮を確認するためボートに乗って入り江を出た。

感想
死滅しているはずのプランクトンが、魚や人を取り込み意志を持った生き物のように、海流をこえて陸に向かう。

ホラー映画のようなお話でした。

まほろばジュルパリ

あらすじ
ブラジルのベレンでフーリオは、観光客向けのツアーで川辺に住むアマゾン・インディオの役を演じていた。
バウパナ族の集落を飛び出し、ベレンに出て四年、彼は自分が何をやっているのか分からなくなる時がある。

その日も部族の呪術師の役を演じていた彼は、密林の木に一匹のナマケモノがぶら下がっているのを見た。
ナマケモノは兄の顔をしていた。

フーリオは幼い頃から部族の呪術師であった父より術を仕込まれた。
しかし、父は兄には様々な術を熱心に教えたが、フーリオには召喚術を一つ教えただけだった。

自分が兄のスペアとして扱われていることに、嫌気がさしたフーリオは、集落を出て街で暮らすことを選んだのだ。

その兄がナマケモノに乗り移って自分を呼んでいる。
フーリオがナマケモノを見ていると、それは木から落下した。
ショーが終わったフーリオは、ナマケモノが落ちたであろう場所に向かった。

しかしそこには何もなく、出てきたのは一匹のイグアナだった。
イグアナは村に還れとフーリオに語った。

反発を感じたフーリオだったが、言いようのない衝動に突き動かされ、仕事を辞め故郷に向かう船に乗った。

感想
テレビ番組等で特集されていますが、アマゾンの熱帯雨林も年々開発により姿を消しています。

一見豊かに見える密林も、絶妙なバランスで生態系を循環させることによって成り立っています。
無計画な伐採や開発で、森が失われれば薄い土壌は流され、植物の育成に適さない赤土層が顔を出します。

熱帯雨林は酸素を生み出し、地球上の命を支えています。
この物語はフィクションですが、現実につながっていると感じました。

いくたびザナハラード

あらすじ
杜倉倫子は父が亡くなってからずっと一人で生きてきた。
結婚はしなかった。
どこか彼女には人を信用出来ない部分が有ったのだ。

誰かが彼女に近づいても、一定以上の関係になれない。
相手もそれが解ると離れて行ってしまうのだ。

ある時、彼女は中学時代に存在した。唯一友人と呼べる少女「エマちゃん」の事を思い出す。
そして彼女が話したザナハラードという言葉が心に浮かんだ。

言葉の意味はわからないが、倫子にはとても気になる言葉だった。

感想
倫子に語り掛けて来るザナハラードと名乗る存在は何者か?
チャネリングや超意識等、多分にオカルト的要素が入ったお話でした。

この物語でも環境問題が取り上げられ、それを起こしている人類は地球に必要なのかと問いかけられます。
世界には多くの人々が暮らし、その全てが悪であるとは決して言えない筈です。

どぶ川を甦らそうとしている、老人のような人が少しでも増えればと思いました。

まとめ

今回収録されているお話は、すべて人間が作り出した技術によって引き起こされたものがテーマになっています。
物語を読んでいくと、実際に起こっている環境問題は、ゆくゆくは人間自分自身の首を絞めることになると考えます。

現実世界にある、地球を守ろうとか、地球環境のために等、小奇麗に飾られた言葉はあまり好きではありません。
もっと素直に、自分自身が生きていくために、と開き直ればいいのにと感じます。

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