ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
オカルト研究会の一行は藍が卒業するということで、卒業旅行の名目で温泉旅館に向かっていた。
しかし、様々なトラブルで出発が遅れた事と、事故による渋滞、さらに吹雪に見舞われ立ち往生してしまう。
宿に連絡は入れたものの、このまま車で過ごすのも無理がある。
一行がどうするべきか考えあぐねていた矢先、車の窓に掌が浮かび上がる。
地元の男性が立ち往生する車を見て、様子を見に来てくれたようだ。
このまま車にいてもどうにもならないので、一行は彼の案内に従い車をおいて進むことにした。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第八弾。
今回はシリーズ初の長編です。
あらすじ1
吹雪の中を進むと男が指を上げた「あっこ渡れば、村だ」
指さす先には葛で出来たつり橋があった。
他のメンバーはもうすぐ休めるということも重なって、葛橋にテンションが上がっているようだったが、森司はそれどころではなかった。
彼は極度の高所恐怖症なのだ。
動けない森司を、こよみと藍が手を取って引いてもらい、何とか渡り切った時には、全身が冷や汗で濡れていた。
全員が橋を渡り切ると、男が声をかけてきた。
宿で女将さんが待っているという。
女将さん?という黒沼部長の問いには答えず、男は行けばわかるとばかりに肩をゆすった。
小型除雪車が作った、脇に雪の壁が作られた細い道を一行は進む。
途中森司は猛吹雪の中、粗末な筒袖の着物一枚で立っている人影を見た。
箱のように四角く縫った白い布袋を被ったそれは、背丈からして子供用だ。
泉水が無視しろと森司に言った。森司は頷き素直に従った。
あれはあまりよくないものだ。
男があっこだと指し示す先、雪煙の向こうに薄黄色い灯りが見える。
看板灯篭のようで、ここのえと文字が浮かび上がっていた。
まるで武家屋敷のような外観だ。
屋根付きの通路があり、通路のまわりはきれいに雪かきされている。
出迎えてくれたのは、紬の着物をきた女将だった。
年若く、まだ三十前だろう。
黒沼部長がなぜ迎えを寄越してくれたのか尋ねると、宿泊予定だった「井筒屋」から連絡をもらったそうだ。
熱いお茶をもらって一息ついていると、井筒屋とも連絡がついたようで、天候のこともあるのでキャンセル料はいらない、これに懲りずまたご利用くださいとのことだった。
女将は一行に宿泊を勧め、彼らは喜んでそれを受け入れた。
あらすじ2
案内されたのは離れの一室だった。
十畳と十二畳の二間で専用の露天風呂もついている。
女将との話で男女別で部屋を分けてもらい、まかないの海鮮丼を出してもらった。
夕食を頂き、人心地ついた藍が女将に尋ねる。
「門構えをみて古い旅館かと思ったら、中は新築なんですね」
女将は最近は秘湯の宿が人気らしく、インターネットの予約等でかなり賑わっているようだ。
まわりに何もないが、逆にそれが受けて繁盛しているらしい。
翌朝、森司は羽毛布団の中で目覚めた。
一瞬ここはどこか混乱したが、旅館に泊まったことを思い出した。
嵐は収まり、雪も止んだようだ。
ふと襖に目をやる。
昨日は大浴場に入った後は、疲れもありすぐ寝てしまった。
あの向こうで藍とこよみが寝ている。
「何してんの、八神くん」
黒沼部長に声をかけられ反射的に振り返る。
その後、部長と泉水に襖が透けないかとか、考えていたんだろうとひとしきりからかわれた。
豪華な朝食が並べられ、仲居から食事が終わったころにはラウンジでお待ちですと告げられた。
急遽泊ることになった宿で約束もなにもない。
どういうことだと訝る森司に泉水が推論を述べた。
宿帳に書いた黒沼の名前が原因だろうということだ。
部長の黒沼はこの地方では名高い旧家で、影響力をもっている。
部長は多分違うと希望的なことを言っていたが、ラウンジにいくと初老の男性から丁寧にあいさつをされた。
部長の希望ははずれ、やはり黒沼家の総領が、きたということが原因だったようだ。
あらすじ3
男性は村で助役をやっている鶴橋と名乗った。
彼はこの村は黒沼家と深いゆかりがあると言い、ぜひ村史資料館によって欲しいと語った。
部長は何とか逃れようと、車を取りにいかないといけないからと鶴橋に言ったが、彼はそちらはキーを渡していただければ、こちらで人をやりますのでと、逃す気はないようだ。
部長はあきらめ、一行は鶴橋のエスティマで村史資料館に向かうことになった。
除雪された細い道を走ると、雪景色の中、集落の屋根がみえる。
瓦葺の屋根にまじって、いくつか茅葺の屋根も見える。
家屋は全て現役のようだ。
三叉路に立つ古い平屋建ての建物が、村史資料館のようだ。
三叉路の右手には白木の鳥居が建っている。
鳥居の向こうでは数人の男たちが働いていた。
部長が祭事ですかと鶴橋に尋ねると、彼は春にある祭りの準備だと答えた。
鳥居の前には石造りの幟立てがあり、そこには瓜子神社と書かれていた。
「瓜子神社」森司のつぶやきに部長が反応した。
瓜子姫伝説となにか関係するのかと言っていると、鶴橋がお社に寄ることを提案してくる。
村の歴史よりそちらに興味があると言った部長に、鶴橋は気を悪くした様子もなく、一行を拝殿に案内した。
あらすじ4
拝殿には絵物語が描かれた額が飾られていた。
鶴橋の説明で順に絵を見ていく。
一枚目はむら雲に覆われた赤い牛鬼のような絵が描かれている。
描かれているのは神様で、何年かに一度村を訪れ、福を授けてくれるらしい。
二枚目には、山奥の貧しい寒村で数年に一度の福では満足できなくなった村人が御役目を立てて神の子孫を授かろうとした場面が描かれていた。
しかし生まれた子は蛭子で、その子は川に流され下流の村で生きることになった。
三枚目には川の上流から大きな白い実が流れてくる様子が描かれている。
鶴橋は三枚目に書かれている話を詳しく語った。
桃太郎のように、老夫婦に拾われた瓜の中には可愛らしい赤子が眠っていた。
夫婦は赤子を瓜子と名付け、大切に育てた。
やがて瓜子は成長し村の御役に選ばれた。
しかし瓜子は蛭子に騙され殺され、死体は畑にまかれた。
蛭子は瓜子の髪と皮をはぎ、それをかぶって瓜子のふりをして御役を務めようとするが、鳥にそれを見抜かれ、村人に八つ裂きにされ泥地にまかれた。
やがて瓜子がまかれた畑に瓜が実り、その中から赤子が生まれ再び瓜子と名付けられた。
瓜子は御役目として神の子を宿し、うまれた子は神の声を聞くことができた。
その神の子の子孫が村の村長を代々務めている瓜生家の子孫であると鶴橋は語った。
まとめ
葛橋が落ちた事により、陸の孤島と化した雪深い山村で起こる村の因習にまつわる祭事。
祭事でお役目を担うはずだった少女がいなくなったことで、こよみちゃんに白羽の矢が立ってしまいます。
森司君は村で出会った少女、香枝の助けを借りてこよみちゃんを救うべく奔走します。
長編ということで読みごたえがあり、白い布袋を被った人影等、横溝正史作品のテイストも含まれていて、大変楽しく読めました。