歌屑 伊藤悠初期短編集 ヤングジャンプコミックス・ウルトラ
著:伊藤悠
出版社:集英社
シュトヘル、オオカミライズの伊藤悠さんの初期の読み切り作品を収録した短編集です。
各話あらすじ
新線西部軌道
城市と外殻(かべ)によって隔たれた西東京。
中央から見放され無法地帯と化した土地で、一人の男が鉄道を復活させた。
彼は鉄道会社「西部軌道」を設立し、人と物資の輸送を行っていた。
その西部軌道に大量の鉄を外殻の中に運び入れるという仕事が舞い込む。
現在、城市と西武は完全に分断され外殻に近づけば攻撃される事は必至だ。
だが依頼者の与那城(ヨナ)はその外郭の大門が明朝4時30分には開くという。
現在、城市からの燃料供給は途絶え、西部線は西に残った燃料をかき集め操業を続けている。
燃料が無ければディーゼル機関車は動かない。
城市は男が鉄道を復活させた事で蘇った西側の農地を見て、切り捨てた西部に価値を見出しそれを為した鉄道を欲しがっていた。
彼らは燃料の供給を絶つ事で男から鉄道を取り上げようとしていたのだ。
大門を開けるという与那城の息子は、城市でもそれなりの地位にいるらしい。
仕事の報酬はその息子の手による燃料ルートの確保。
西部線存続の為、そして外殻の向こうに線路が伸びているのか知る為、列車は外殻へ向けて運行を開始した。
黒白
短刀による格闘術を主体とした流派、水薙流(みずなぎりゅう)。
それを学んだ男、久我(くが)は軍部によるクーデターを後押しする暗殺部隊として暗躍していた。
彼はそれを良しとしない師を殺害。
同門であり、最大の障壁になるであろう大江哲蔵の捜索を部下に指示した。
黒突
人の血を糧とし夜を生きる烏有(うゆう)。
その烏有の里で忍びとして育てられた黒突(くろとつ)は殺しを嫌いつつも、当主蛾舞(がもう)の愛妾狐雪(こゆき)の事を想い里を出る事が出来ずにいた。
そんなある日、黒突は里のある山に入った者は皆殺しにするという里の掟を破り助けた老人から礼だと簪を貰う。
見た事のない金属だという黒突に、老人はその簪はわるい物から守ってくれると教えた。
病の為か具合の悪そうな狐雪にその簪を渡そうと向かった里の城で、蛾舞が狐雪の血を吸い尽くしたのを見た黒突は激高し蛾舞を襲撃。
しかし蛾舞を殺す事は出来ず、追手に追われ里を逃げ出す事になった。
影猫
十手持ちの梟太(きょうた)は大名屋敷に盗みに入った夜走り又三という盗人を捕縛中、何者かに襲われ手傷を追う。
何とかそこから逃げ出し、上役である同心斎藤に又三が盗んだ物を預けた。
しかし奉行に話すと言っていた斎藤は殺害され、梟太も何者かに襲撃され重傷を負う。
影猫II
四年前、守るべき子を守り切れなかった影能(かげよし)は伯父から主君の子の護衛を依頼される。
四年前は伯耆の虎と呼ばれた武芸者だった影能だったが、現在は自身を野良猫と呼ぶやくざ者の様な風体になっていた。
感想
新線西部軌道は if 及び近未来、黒白は昭和初期、黒突は戦国時代、影猫の二編は江戸時代だと思われます。
中でも新線西部軌道はもっと詳しい話を知りたい作品でした。
読み切りの為、作中どうして東京が荒廃したのか明確な理由は語られません。
事の発端や後日談など読んでみたい作品です。
今回、あらすじを書くにあたって鉄道を復活させた男、社長を中心としましたが、主人公は彼の会社で働く二人の乗務員、今川潮里(いまがわ しおり)と来島百子(くるしま ももこ)です。
ただ、個人的には荒廃し無法地帯と化した西東京で、地雷の埋まった土地で線路を掘り出し、機関車を走らせ人と資源を運び農地を復興させた社長の話が読みたかったです。
社長、見た目は小太り眼鏡のパッとしない感じなんですけど、何やったか聞いてるだけで泣けてくるほどカッコいいんスよね。
まとめ
ハッピーエンドが好きなので、未来に光を感じた新線西部軌道を推す形で書いてしまいました。
ちなみに表紙で女の子の間からチラッと見えているのが社長です。
この作品は少年ジャンプ+にて黒突前編を無料で閲覧いただけます。
作者の伊藤悠さんのアカウントはこちら。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。