いまかこ イブニングKC
著:松浦だるま
出版社:講談社
場所の幽霊と自身で名付けた、無くなってしまったモノが見える鶴見也徒(つるみ やと)は、無くなってしまった音を聞く少女早淵今(はやぶち いま)と出会います。
失ってしまったモノたちを想い続ける人々が過去と向き合い、前に進んでいく物語です。
登場人物
鶴見也徒(つるみ やと)
美術系の予備校講師
恋人を台風により増水した川で失った。
既に無い過去の風景「場所の幽霊」を見る事が出来る。
ただ、見る事しか出来ないそれは鶴見に苦痛を与えていた。
眼鏡越しだと見えないようで、普段は伊達眼鏡をかけている。
早淵今(はやぶち いま)
中学生女子
いなくなってしまったモノたちが発する音を聞く事が出来る。
そのせいで家から出られなくなり、現在学校には通っていない。
彼女の母は外に出る為の訓練として今を予備校に入れたようだ。
震災により父親を亡くしている。
音から逃れる為、常にイヤホンで音楽を聴いている。
恩田過子(おんだ かこ)
鶴見の恋人
台風により増水した川に流された。
物語冒頭では遺体は見つかっていない。
鶴見とは正反対の明るく社交的な女性。
だが、根っこの部分では鶴見と近しい物をもっていた。
二人が魅かれ合ったのは、どちらも孤独を感じていたからかも知れない。
小野路雁(おのじ 名前は読み不明)
予備校の生徒
鶴見と過子の事も知る浪人生。
亡くなった友人、大熊の事を引きずっている。
大熊昭太(おおくま しょうた)
予備校の生徒
美しいモチーフを見つけるセンスに優れていた。
それゆえにそれを再現出来ない事に憤りを感じていたようだ。
また、実家である印刷会社の倒産で経済的にも困窮していた。
砂田(すなだ)
予備校の生徒
小野路、大熊と同じ受験科の女生徒。
小野路とは友人関係だが、二人っきりになると喧嘩をしてしまうらしい。
恐らくだがサバサバした性格の砂田は、色々考える小野路に苛立ちを感じるのではないだろうか。
あらすじ
恋人を増水した川に流された予備校講師の鶴見は、復帰した予備校で学院長から担当学科の移動を告げられる。
移動は今まで担当していた受験科から、一般の絵画教室コース。
その生徒の中にイヤホンをした中学生、早淵今がいた。
彼女は絵が好きという訳でも無く、受講中も常にイヤホンで何か聞いている余り受講態度の良い生徒では無かった。
午後になり居眠りをしている今の横で、どうすべきか考えながら恋人の過子の事を思い出す。
彼女だったら今にどう接するだろう。
相談したい。鶴見の思考は彼女が生きて帰ってきたらという事に変化し、結婚式での過子の花嫁姿を思い浮かべていた。
だが、鶴見の持つ場所の幽霊を見る力は、死んだ者がいなければ顕現しない。
彼はかつて住んでいた台風により流された家の姿を見ていた。
もう存在しない家を鶴見が見たという事は……。
涙を流した鶴見を目覚めていた今が凝視する。
今は自分が聞かないから泣いたのかとイヤホンを外し鶴見問う。
それを否定した鶴見に理由を尋ねた今だったが、突然何かに気付き振り返ると怯えた表情で教室を飛び出した。
鶴見はなんで何もない場所を見てと困惑するが、ある可能性に気付き眼鏡を外した。
鶴見の目には死んだ生徒「大熊」が最後に描いて、自らナイフで切り裂いた絵が映っていた。
感想
鶴見は場所や物、今は音を知る事が出来ます。
ただ、二人にとって死者の出すその音や風景は、人が死んだ証左であり悲しみと苦痛になっている様でした。
声も届かず、ただ見て聞くだけ。
出来る事が何もないなら、キツイだけでしょう。
今回は過去に囚われていた鶴見が、それを乗り越え未来を見始めるエピソードから始まっています。
ナイーブでとても優しい今が凄く愛おしい作品です。
まとめ
消えてしまった物や人。
それは時間を重ねる事で消化され、思い出に変わっていくのだと思います。
鶴見はそれをずっと見続ける事で、思い出に変える事が出来なかったのでは無いでしょうか。
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こちらの作品はコミックDAYSにて第一話が無料で閲覧いただけます。(20年2月現在)
最後までお読みいただき、ありがとうございました。