ホーンテッド・キャンパス なくせない鍵
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
年の瀬も押し迫ったある日、オカルト研究会では藍が二年参りに行こうと提案していた。
二年参りとは大みそかと元日をまたいで行う初詣の一種でこの地方で使われる言葉だ。
黒沼部長は実家に居なければならないと藍にいうが、彼女はそんなことはお構いなしに予定を決めていく。
大学を舞台にしたオカルトミステリー第七弾。
各話のあらすじや感想など
嗤うモナリザ
あらすじ
「モナリザってどう思います」
開口一番そう言った男は尾之上と名乗った。
彼は法学部四年で絵画愛好会の代表だ。
依頼はサークルで行った展示会に関するものだった。
彼らのサークルは今回モナリザをテーマに、展示会を開いたのだが展示した一つの絵にクレームが殺到した。
尾之上が言うには絵は作者の恋人に、モナリザのポーズをとってもらい描いたもので、特におかしな所はなかったと語った。
しかし客からは「気持ち悪い」「嫌い」「サブリミナル効果の実験か」などとクレームが入り、展示会の最後の一週間は展示を取りやめた。
するとクレームはぴたりと止んだそうだ。
尾之上は絵をこのまま作者が持っていていいのか、焼き払うのか、その前にお祓いを受けるべきか、扱いについて、どうするべきか聞きたいようだ。
黒沼部長はひとまず絵を見に行こうと尾之上に告げた。
絵は展示会を行ったギャラリーの倉庫に保管されていた。
作者も尾之上に呼び出されていた。
蓮倉と紹介された男に森司は見覚えがあった。
先日構内で鍵を拾ったのだが、その鍵の持ち主だった。
彼はその時の礼を再度森司に言い、鍵は婚約者のアパートのものだと説明した。
問題の絵はその婚約者、茜音をモデルに描かれたものらしい。
表情は多少引きつった苦笑に見えるが、現代的な女性がモナリザのポーズをしているだけのいたって普通の物だった。
森司は絵を見たが何も感じなかった。
部長や藍、こよみも特に何もおかしいとは思わなかったようだ。
蓮倉は安心し、持って帰って彼女に見せると言った。
問題もないようなのでその日は解散した。
蓮倉は絵を持って、茜音の部屋に向かった。
絵を見た彼女は喜んでくれた。
蓮倉は展示会で絵の評判が悪かった事と、父親にも不評だったことが気になったが、茜音が特に気にしていないようなので、まあいいかとその日は彼女の部屋に泊まった。
翌日、目を覚ますと茜音の姿が見えない。
バスルームで彼女を見つけた蓮倉は固まった。
そこには絵と同じ引きつった笑みを、顔に張り付けた茜音がいた。
感想
肖像画にも少し怖さを感じます。
音楽室に飾られた作曲家の肖像画が、怪談のモチーフになるように写実的な絵には、写真では出ない怖さがあると思います。
灰白い街灯の下で
あらすじ
二人の男が冬の夜道を歩いている。
ゼミの新年会に出たのだが、片方が飲み過ぎてしまったようだ。
帰り道が同じということで、彼に介抱役が押し付けられた。
放っておくわけにもいかず、夜道を歩いているうちに迷ってしまったようだ。
街灯が明滅している。
暗い夜道で酔っぱらいを抱え、どうするか考えあぐねていると、タクシーの空車ランプが目に止まった。
渡りに船とタクシーに乗り込む。
東京ならいざ知らず、田舎町の住宅街でタクシーが拾えることなどまれだ。
酔った友人をタクシーに乗せ、運転手と会話する。
行き先を告げると運転手はずいぶん迷ったねぇと言った。
住所を聞くと全く見当違いの場所に来てしまっていた。
運転手の話では、最近そういう客が多いのだという。
住宅街を流しているとあの街灯の下でポツンと立っているそうだ。
これまでに七、八人そんな客を拾ったらしい。
口をそろえて、彼らはなんでこんなところに来たのか分からない街灯が切れて暗くて難儀したと語ったそうだ。
運転手はあの街灯も新品のはずなんだけどねぇと不思議そうにいった。
タクシーの中でうたた寝をし、目的地に着くと少し酔いのさめた友人が、迷惑料だとタクシー代を全額払ってくれた。
街灯の事や迷ったことなどすかっり忘れていたが、週明けの月曜日、ニュースが伝える事件が彼の記憶を呼び戻した。
殺人事件を伝えるニュース映像には、彼が迷った家並みが映し出されていた。
熊沢と名乗った男は、雪大新聞部の部長らしい。
彼は事件の取材をしており、そこで気付いた点をオカルト研究会に検証して欲しいと話した。
彼の話では、事件が起こった本湊町では、以前から住んでいる住民と、新しく出来たアパートに越してきた住民の間でトラブルが多発しており、住民間にぎくしゃくとした空気が流れているそうだ。
小火騒ぎや痴漢、空き巣の被害が相次ぎ、痴漢以外は犯人は捕まっていない。
そこに来て殺人事件が起きてしまった。
熊沢が取材を申し込んだ、町内会長は頭を抱えているようだ。
それとは別に起こっているのが、人を迷わせる街灯の件だ。
迷わせ街灯と命名したと熊沢は語り、持論を展開した。
被害者が亡くなったのは八日、迷う人が出てきた時期と一致している。
町内会長の話では街灯は、去年の夏にLED電球に変えたばかりで、寿命が来たとは考えにくい。
熊沢は黒沼部長に、幽霊が街灯を使って早く見つけてくれと、サインを送ることは可能でしょうかと聞いた。
感想
夜道で街灯の明かりで照らされた空間はほっとします。
ですがそこに不意に人が立っていると、ぎょっとします。
私も以前、帰宅途中で街灯の下に佇む人を見たことがあります。
その人はもちろん普通の人間でしたが、意図せずそういう光景をみると驚いてしまうものです。
薄昏
あらすじ
大学図書館の事務員、免田は書籍を探しにデスクを離れた。
閉架書庫で書籍を見つける。
戯れに窓にかかるブラインドに手をかけ外を眺める。
雪景色の中、学生の姿がみえた。とても綺麗な子だ。
最近同学年の男子学生と仲がいいようだ。
ほほえましく思い、自分にもあんな時期があればなあと考えてしまった。
急に寒さを感じ、閉架書庫を後にする。
書庫に鍵をかけようとした瞬間、背後に視線を感じた。
しかし免田はそれを無視して、書庫に鍵をかけた。
その日帰宅準備をしていた免田に、若い職員が声をかけた。
合コンへの誘いだったが、別の同僚が若手を止める。
若手も察したようにあやまり、誘いを取り下げた。
アパートに帰り風呂で髪を洗おうとした時、背後から視線をかんじた。
免田は振り向くことも出来ず、うずくまりじっと耐えた。
感想
髪を洗う時、ふと背後を意識すると怖くなる時があります。
誰もいないし、何もないのですが想像が膨らみ、我慢できなくなって途中で振り向き目を開けてしまい、ムスカ状態になったことが何度かあります。
夜に這う物
あらすじ
夏実、真琴、由貴乃の三人は地域社会文化論のレポートの為、五十年前、大学の寮があった跡地に来ていた。
現在は簡素な木造二階建てのアパートが二軒建っている。
写真を撮ろうとアパートを見上げると、一つの窓にシルエットが映っている。
天井からぶら下がっている紐か何かを引っ張り、強度を確かめているようだ。
脚立に乗っているように見える、人影は紐の穴にためらうように、首を入れたり出したりしている。
まさか首つりだ。
真琴は駆け出し、夏実に通報を頼んだ。
二階に駆け上がりのアパートの扉に駆け寄る。
鍵はかかっておらず、扉は簡単に開いた。
部屋の中では若い女が首を吊っていた。
遅れてきた由貴乃と二人で女を下ろす。
女は意識を失っていたが、心臓は動いていた。
せき込んでいるが、命に別状はない様だ。
警官は電話から十分ほどで到着した。
初老の警官は「ああまたか」と頭をかき、何もなかったようだからと帰ろうとする。
真琴が呼び止めると、警官はめんどくさそうに自分たちは事件性がないと動けないから、次からは119番にかけるように言い背を向けた。
憤る真琴に、警官が去り際「あんたら、吊らないでよ」と声をかける。
警官が言うにはここらで起こった首つりは伝染るらしい。
その後、女は意識を取り戻した。
彼女はなぜ自分があんなことをしたのか、分からないと言った。
彼女に気分が悪くなったら、すぐ救急車を呼ぶように言って三人はアパートを後にした。
アパートに帰りたくないという由貴乃に、真琴はじゃあ二人でうちに来ないかと誘った。
精神の細かい由貴乃を放っておけなかったし、彼氏と別れて落ち込んでいるのも知っていた。
誰かに話せば、楽になることもあるだろう。
再度誘いの言葉をかけようとした、真琴の言葉にかぶさるように由貴乃が口を開いた。
「虫が多いんだよね、うちの部屋」
由貴乃の様子がおかしい。
目の焦点が微妙にあっていない。
家に帰ろうとする由貴乃を無理やりタクシーに乗せ、夏実と二人がかりで真琴の家に連れ帰った。
由貴乃を寝かしつけ、真琴と夏実も床に就いた。
夜中、物を音で目を覚ました真琴は、由貴乃がタオルで首を吊ろうとしているのに気付いた。
夏実も目覚めたようだ。
慌てて止める真琴に、由貴乃は虫がいないうちに死んじゃおうと思ってと、意味不明なことを口走る。
その夜は真琴と夏実、二人で由貴乃をなだめながら夜を過ごした。
感想
虫が苦手です。
いや苦手というよりも、怖いという方が近いでしょう。
霊的存在でなくても、大量の虫にたかられたら、私は死んでしまうと思います。
まとめ
森司君は今回、勝手に勘違いして、失恋したと思い込んでしまいます。
回りの人たちの呆れた声も聞こえず、どんどん想像が膨らみ思いは辛い方向に進んでいってしまいました。
最終的には思いもかけない大胆な行動をしてしまうのですが…。
そういう所も彼らしいなと感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。