ホーンテッド・キャンパス
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫
八神森司は幽霊が視えてしまう心霊体質です。
彼は視えてしまうことを疎ましく思っています。
なぜならただ視えるだけで、除霊や交霊などは一切出来ないからです。
彼は高校生の頃、一年後輩の灘こよみという女の子が、ロッカーから出て来る何か良くない影に、近づかれそうになっている所を助けます。
その時の笑顔で一瞬で恋に落ちた森司は、それ以来中庭でたわいのない会話を続け、結局告白できずに高校を卒業。
一浪して入った大学で彼女と再会します。
彼女は大学のサークル、オカルト研究会に所属していました。
話を聞くと出来れば入っていたほうが良いと、勧められたとのこと。
彼女に忍び寄る影の事を思い出した森司は、心霊現象にはなるべく関わりたくないと思いながらも、彼女への想いからサークルに加入する決心をします。
各話のあらすじや感想など
壁にいる顔
あらすじ
大学に入って二か月、森司とこよみの中は特に進展のないままだった。
彼の入ったオカルト研究会(オカ研)は部員は五名。
部長の黒沼(男、霊感なし、オカルト好き)
彼の従弟の黒沼泉水(男、霊感あり、身長190センチ)
副部長の三田村藍(女、霊感なし、170センチ以上、スレンダー美女)
灘こよみ(女、霊に取りつかれやすい)
そして八神森司(男、霊感あり、こよみに片思い中)だ。
オカ研はその性質から学生などの心霊にまつわる相談を受けることがある。
あまり多く持ち込まれても対処できないので、紹介という形をとっているが、霊現象に悩んでいる人は多いようで、今日も一人オカ研の部室を訪ねて来た。
彼は経済学部二年の江藤と名乗った。
そして一枚の写真を取り出した。
そこには壁に浮き出る女の顔が、はっきりと写し出されていた。
感想
物語の記念すべき第一話目です。
お話にも書かれているように、泉水も森司も視る事、感じる事は出来てもお祓いなどは一切できません。
彼らに出来ることは原因を突き止め、自分たちで出来る範囲で対処するだけです。
彼らが今後、どんな事件に遭遇するのか、森司とこよみの恋の行方はどうなるのか。いろいろ楽しみです。
ホワイトノイズ
あらすじ
真夏のある日、ガリガリ君をコンビニ袋に入れた森司が、部室に戻ると部長がこれから相談に来る人がいるという。
部長は真夏にリアルな怪談話を聞けるとはしゃいでいる。
森司は救いを求めて泉水をみたが、「ほっといてやれ」と静かに言うのだった。
部室を訪れたのは小野塚という気真面目そうな男とその彼女だった。
相談をしようと言い出したのは彼女の方で小野塚はあまり乗り気では無い様だ。
彼は彼女におされ、話を始めた。
彼には昔から定期的にみる夢があるという。
昔ながらの日本家屋で縁側に座っている女性を見下ろしている夢だ。
女性の顔は長い髪に隠されて確認できない。
夢の終わり、彼女がこちらを見ると、視界が白く閉ざされ声だけが聞こえるらしい。
「この夢のことは、誰にも話しちゃだめよ。ぜったいに、絶対に話してはだめよ。」
彼は夢の中で話さないと約束してしまう。
小野塚は小学生から同じ夢を何度も見続け、その度同じように約束してきた。
やがて彼は大学に入り、サークルの歓迎会で夢の話をしてしまう。
話した相手が現在の彼女、穂波だった。
彼女と付き合うことになった小野塚だったが、しばらくすると彼女に異変が起こるようになる。
彼女が小野塚の家にいると、髪を引っ張られたり、腕をひっかかれたりするようになったのだ。
穂波は除霊をしてほしいようだったが、小野塚自身は夢の女性に恐ろしさを感じておらず、一度部室から去った後、一人戻って来て依頼を取り下げた。
それから二週間程たち、森司は再び小野塚を見かけた。
彼はたった二週間で驚くほどやつれていた。
森司は部室に向かい、小野寺の事をサークルの皆に話した。
藍も彼を見かけたらしく、あのやつれ方は尋常ではないと同意した。
どうするべきか話し合う中、部室のドアがノックされた。
渦中の人物、小野塚だった。
感想
夢の話は夢占いや予知夢など沢山あります。
小野塚君の見た夢は、彼を守ろうとした誰かの想いが形になった物だったのでしょう。
南向き3LDK幽霊付き
あらすじ
結花と璃子はオール電化オートロック付き3LDKの物件にルームシェアして住むことにした。
理由は簡単、今住んでいる部屋の家賃に、僅か数千円プラスするだけで快適な居住空間が手に入るからだ。
安い理由はもちろん気になったが、私たちみたいな鈍感な人間が幽霊なんか見るわけがないと入居を決めた。
三か月後、二人はオカ研の部室にいた。
当初は安い値段で広々とした部屋に住め、周囲の環境もよく住人とのトラブルもない物件に大満足だった二人だが、徐々におかしなことが起き始めたという。
最初は些細な事だった。
ビールがなくなったり、スリッパやコミックが消えたりだったのが、段々とエスカレートし、先日は洗面台の鏡に血で出来たと思われる手形が無数についていた。
どうしていいか分からなくなり、二人は知り合いの藍を頼ってオカ研のドアをノックしたのだった。
取り敢えず現場を見ないと、何とも言えないという部長の言葉で一行は彼女たちのマンションに向かった。
マンションに着くと結花と璃子は、やはり男性を部屋に入れるのは抵抗があるという。
藍の言葉で森司一人が、部屋のリビングへ入る流れとなるが、森司は部長と違い、好き好んで幽霊を見たいわけではない。
なんとか断ろうと言葉を紡ぐ森司にこよみが一緒に行こうかと提案する。
その言葉に嫌な予感を覚えた森司は、その提案を断り一人で部屋に入った。
部屋には確かに何かがいるようだが、森司にはそれ以上は解らなかった。
部長の提案で部屋をビデオに収めることにして、一行はいったん引き上げた。
その後、渡されたビデオをサークルの女性陣に確認してもらっていたところ、映し出されていたものは想像の上を行くものだった。
感想
何のかんのあり事件は解決、結花と璃子は部屋に住み続けることにするのですが、真相が解ってもそれを選択する二人はたくましいなと感じました。
私なら窮屈でもいいから、曰くの無い物件に住みたいと思います。
雑踏の背中
あらすじ
森司はこよみと一緒に屋台の並ぶ縁日を歩いていた。
彼女が声をかける。
「もう少しゆっくり歩いてもらっていいですか」
「ああ、ごめん」
森司はそう言ってこよみの手を握る。
「これなら、はぐれないだろう」
「はい」
その後花火を見上げ、彼女の唇に自分のそれをかせねようとした瞬間、目が覚めた。
夢だった。
その後、食事をつくり、夢がいかがわしい場面まで進まずに良かったなどと考えながら支度を終え、大学に向かい講義を受けた。
二時限目は休講だったので、森司は仮眠を取らせてもらおうとオカ研の部室に向かった。
部室には客がいた。
彼は泉水の紹介でオカ研を訪れた。
名前は桑山保、身長は泉水と同じく190センチはあるだろう長身だが体つきは細く、髪も若白髪か五割程白くなっている。
彼はどうやらドッペルゲンガーを見るらしい。
ドッペルゲンガーとは自分が、もう一人の自分を見てしまう現象で見てしまった人間は命を落としてしまう。
保は都合五回ドッペルゲンガーに遭遇しており、彼はもう一人の自分を捕まえたいのだと語った。
他人の空似ならそれでいいし、もし自分自身ならなぜ現れるのか問い詰めたいという。
状況を聞くと、もう一人の自分はいつも人ごみのなかで現れるとのこと。
捕まえようとしても、行く人波に邪魔されて捕まえることができない、今回オカ研を訪れたのは人海戦術でそいつを捕まえるのが目的らしい。
藍の提案で今夜から鎮守様の祭りがあるから、そこで作戦を実行することとなった。
森司は図らずも夢と同じシチュエーションになったことに何かを感じるのだった。
感想
男女の仲や肉親の情というのは、いつの世のも難しいものです。
保ちゃんの義父が良い人物だったことが、彼に良い影響を与えているのだと感じました。
秋の夜長とウイジャ盤
あらすじ
暑かった夏も終わり季節は秋を迎えていた。
十月のある日、オカ研の部室に一人の女性が訪れていた。
竹村静香と名乗った彼女は降霊会を開いてほしいという。
真似事だけでもいい、本当に霊が出なくても構わないと彼女は語った。
詳しく話を聞くと彼女の相談は妹の事だった。
妹は六歳下の中学二年生で名前は巴絵。
彼女は同級生が自殺してから、部活もやめ部屋に引きこもるようになり、家族との会話も無くなったという。
静香はしばらくすれば、元の快活な巴絵に戻ってくれると信じて待っていたが、久しぶりに顔を合わせた妹の姿をみて、これ以上時間はかけられないと思ったらしい。
静香の話によれば、巴絵はサッカー部に所属しており、ポジションはMFで今年はレギュラーになれそうだと喜んでいたそうだ。
しかし久しぶりに見た彼女は、髪はぼさぼさで、日に焼けていた肌は青白く、体重も増えまるで別人のようになっていた。
静香は同級生の自殺が、妹の変化の原因と考え、元気だったころの妹に戻ってもらえるよう、降霊会で死んだ同級生を呼び出したいと考えたようだ。
もし何も起こらなくても、それなら同級生はこの世に残らず、成仏したのだから、妹にも彼女の事は早く忘れるよう話すつもりだと語った。
部長の黒沼はもし降霊会が成功して、彼女の霊が呼び出されたらどうするつもりかを静香に聞いた。
彼女は巴絵を巻き込まないでと霊に言ってやる。
妹の為なら幽霊とだって対決して見せると言った。
彼女の啖呵が気に入った黒沼は、降霊会を開くことを了承した。
感想
他人を羨む気持ちは少なからず誰にでもあるでしょう。
かっこいい、かわいい、綺麗、勉強ができる、お金持ち。
様々な事で自分と人を比べてしまいがちです。
スヌーピーの言葉を思い出します。
「配られたカードで勝負するしかないのさ…。それがどういう意味であれ」
結局は自分の出来ることを、精一杯やることしか出来ることはないのでしょう。
まとめ
主人公の八神君とこよみちゃんの関係は、シリーズを通して少しずつ進展していきます。
読んでいる側からすると、お前らもう付き合っちゃえよ、そして爆発しろよと思うのですが、なかなかそうもいきません。
心霊については、一話目の感想に書いたように彼らには除霊などの能力は無いため、行動や会話によって解決するしかありません。
別の作品においての霊力を使った戦い的なお話も楽しいですが、残った思いを理解し解明していく優しさがこのシリーズの魅力だと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
この作品は映画化もされました。
キャスティングもよく合っていたと思います。
各キャラクターの個性が強調されており、森司君はよりヘタレに演出されていました。