片喰と黄金 1 ヤングジャンプコミックス・ウルトラ
著:北野詠一
出版社:集英社
十九世紀半ば、アメリカ、カリフォルニアで始まったゴールドラッシュ。
当時、様々な人々が金を求めアメリカに渡りました。
そんな中の一組、飢饉により全てを失ったアイルランド人の二人がこの作品の主人公です。
彼らは経験した苦痛を覆す程の抱えきれない幸せを得る為、海を渡りカリフォルニアを目指します。
登場人物
アメリア・オニール
アイルランドで農家を営んでいた家の娘
農家といっても小作人で、地主はイギリス人。
高く売れる小麦等は地主(この時代、殆どの土地はイギリス人が所有者だった模様)に地代として奪われ、彼らが主食としていたのは安価なジャガイモ。
ジャガイモは痩せた土地でも収穫できる優秀な植物だが、種芋で増えるクローンの様な状態の為、病気に弱くアイルランドを襲った胴枯病が猛威を振るった。
それにより主食を失ったアイルランド人は、四年間も続く飢饉に見舞われる。
アメリアも例外では無く、飢饉により土地と家族を失う事になる。
コナー・ボウエン
アメリアの従僕
代々アメリアの家で使用人をしていた一族の一人。
彼も飢饉の被害者であり家族を亡くしている。
カイル・ボウエン
コナーの弟
飢えで倒れたアメリアを救う為その身を捧げた。
イリル
アイルランド人
行き倒れていた所を死体と間違われ、アメリア達と知り合う。
彼も農家であり、飢饉によって娘を亡くしている。
ダラ・マリー
アイルランド人
アメリカに渡る船でアメリア達と乗り合わせた少年。
ある秘密をもっている。
ビル・ザ・ブッチャー(ウィリアム・プール)
ニューヨークのギャング
アイルランド人を嫌っている。
あらすじ
1849年、四年間続いた飢饉によりアイルランドは壊滅的な打撃を受けた。
主食であったジャガイモを疫病で失い、飢えた人々は次々に倒れていった。
アイルランド人の少女、アメリアはその困窮の最中、貧困を覆せる富を求めゴールドラッシュに沸くアメリカ、カリフォルニアを目指す。
彼女は従僕であるコナーを連れ、死体を漁りながらアメリカへの船が出るコーブの港を目指していた。
そんな旅の途中、行き倒れていたイリルという男と出会う。
彼もアメリア達と同じく、元はアメリカを目指す一人だった。
しかし、その旅費が貯まる直前、一緒にアメリカへ向かう筈だった娘を失う。
その事を後悔していたイリルは、娘と同じ年ごろのアメリアが無謀な旅をするのを放っておけず、彼女を思いとどまらせようと説得を試みる。
だが、アメリアの決意は固かった。
彼女は失った幸せの全てを遥かに超える幸福を掴みたかった。
いつか戻ると信じた実りは畑に戻る事は無く、祖父も家族だった小作人たちも消えて行った。
自分の言葉を信じたがゆえに倒れた人々。
自分は間違っていたのではないか。
飢えと絶望に打ちひしがれ、アメリアは倒れてしまう。
そんなアメリアを救う為、コナーの弟、カイルはその身を捧げスープになった。
目を覚ましたアメリアは、自分が何を口にして生き延びたのかを悟る。
彼女は一人残ったコナーに言った。
もし実りが戻り、穏やかな暮らしが送れたとしても、その程度の幸福では自分たちが受けた苦しみには見合わない。
大富豪。
飢える事も病む事も無く、未来永劫、家族が苦労を知る事がない程の富。
それを手に入れなければ、とても贖えるものでは無い。
悲しみ、怒り、後悔、そんな感情を込めた叫びは彼女の行動の礎となった。
感想
アメリアは何も持っていない痩せた少女です。
残ったのは幸せを追い求める強い気持ちと、従僕であるコナーだけ。
彼女が富を求める理由、その背景の凄まじさに心を鷲掴みにされました。
現在であれば、これほどの飢饉が起きれば国民を守る為、国が動くのでしょうが、当時のイギリス政府は余り熱心に対策を講じる事はなかったようです。
アメリアはとてもポジティブで前向きな人物として描かれています。
ですがその姿は、折れそうになる心を自ら鼓舞している様にも見えました。
彼女が夢と理想を語り立ち続ける理由。
それは従僕であるコナーの存在が大きい様に思いました。
家長として、使用人であり家族であるコナーの前で弱い所は見せられない。
もし彼がいなければ、アメリアはもっと早くに折れていたのではないでしょうか。
まとめ
一巻では、海を渡りアメリカ、ニューヨークにアメリア達は到達しました。
目的のカルフォルニアは西海岸。
広大なアメリカ大陸でどのような旅が描かれるのか、読むのが楽しみです。
この作品はコミックDAYSにて一部無料でお読み頂けます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。