小説短編

ホーンテッド・キャンパス 夜を視る、星を撒く 各話あらすじ・感想

投稿日:2019年10月29日 更新日:

マネキンホーンテッド・キャンパス 夜を視る、星を撒く
著:櫛木理宇
画:ヤマウチシズ
出版社: 角川書店 角川ホラー文庫

大学を舞台にしたオカルトミステリー第十六弾。

文化祭で遂に部屋に手料理を食べに来ないかと誘った森司君。
こよみちゃんはそれを承諾し、彼は現在その事で頭が一杯のようです。

各話のあらすじや感想など

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累ヶ淵百貨店

冒頭部分 あらすじ
こよみを部屋に誘う事の出来た森司は浮かれていた。
勿論やましい事をするつもりは無く、唯、手料理をご馳走するだけだ。

彼女が来る日を指折り待つ日々の中、森司は書店を訪れる。
目的は料理のレシピ本を求める為だ。
今更という感はあるが、自分の作ってきた料理はネットでレシピを見て目分量で作った物が殆どで、本を見て分量を量り作った事等無い。

想い人にそんないい加減な物を食べさせる訳にはいかないと、本屋を訪れたという訳だ。

本を探していると、隣の客と手が触れる。
静電気の様な痛みを感じた森司は、その客に謝罪する。
相手も同様に謝りそそくさと立ち去った。

その後、本を買い求め帰宅した森司にLINEが届く。
送り主は影山。
以前、事故物件の事で色々あった中学の同級生だ。

トラブルメーカーである彼には余り関わりたくないが、取り敢えず内容を確認する。
それによると、霊感少年として有名だった両角巧(もろずみ たくみ)というタレントが、撮影の為エキストラを募集するらしい。

エキストラは雪大生から募集されるらしく、森司に応募してサインをもらってきてくれと書かれていた。

なんで俺がと返した森司に、影山は食い下がる。
どうやら新たに狙っている娘が、彼のファンらしい。
自分でどうにかしろとメッセージを打っていた森司に、影山が両角の写真を送ってきた。

写真に写っていた美形の青年は、森司が書店で遭遇した男だった。

 

感想
累ヶ淵というお話は、醜さゆえに殺された人間の祟りの物語です。
累(るい:かさね)という女性が物語の中核にいるのですが、周囲の人間の身勝手さが作中の登場人物と被ります。

またこのエピソードで登場した両角巧、花澄(かすみ)の二人は初回特典として封入されたペーパーに、ヤマウチさんがイラストを描き下ろしされています。
霊能者としてタレント活動をしている巧と、彼によく似た容姿を持つ美形の花澄。

二人が今後、森司たちにどう絡んでくるのか気になります。

渇く子

冒頭部分 あらすじ
小山内の紹介で稻生藤乃(いのう ふじの)と名乗る歯学部二年の女子がオカ研の部室を訪ねてきた。

彼女は現在無くなった祖母の家で一人暮らししている。
彼女の祖母は夫の死後、出家して尼となり、寺から家に戻った後も座禅教室を開き、周囲の人間にも慕われていたそうだ。

高齢となり脳卒中で倒れ半身が不自由になった後も、子供を頼る事無くヘルパーの手を借りながら独居を貫いた。
藤乃はそんな祖母を誇らしく思っており、隣に家を建てて住むと宣言するほど懐いていた。

だが、彼女が約束を守る前に祖母は他界した。
遺言で家は藤乃に譲ると祖母は書き残していた。
普通は遺産相続で揉めそうだが、親戚たちは逆に藤乃が引き継ぐ事を歓迎した。

彼女が一番祖母に懐いていた事が原因だろう。
大学に合格し、家族が住む千葉を離れ祖母の家で一人暮らしを始めて暫くしてからの事だった。

入浴していた藤乃は、窓から何者かが覗いている事に気付いた。
覗きかと怯えたが、そこにいたのは輪郭のぼやけた子供のような何かだった。


感想
飢饉による一家無理心中は、天災の多い日本では度々起こったようです。

餓死というのは死因として、最も辛く苦しい物だと聞いた事があります。
食べる事は生命維持に直結し、水だけでは人間は三週間程で死ぬそうです。
その三週間、ずっと飢えを感じ続ける。
それがどれほどの苦しみか、一、二食抜くだけで死にそうになる私には想像もつきません。

作中で例として、子を苦しみから救う為殺し、自らも命を絶った父親の話が語られますが、希望が見えず子供を殺すしかなかった親の気持ちを考えると心が締め付けられます。

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赤珊瑚 白珊瑚

冒頭部分 あらすじ
その日、森司がオカ研の部室を訪れると、法学部二年の林田萌菜という女性が部長たちと話していた。

彼女は藍の後輩で、元カレの事を藍に相談していたらしい。
藍に詳しく話を聞くと、別に復縁したいとかそういう事では無く、彼から大事な物を取り返したいという話だった。

彼女の大事な物とは祖母の遺品の珊瑚珠で、赤珊瑚と白珊瑚で一対になっていた。
だが同棲を解消し彼の部屋から引っ越し後、私物を纏めていた段ボールを整理していた時、片方だけ無くなっている事に気付いたそうだ。

返してもらおうと彼の部屋を、藍の依頼を受けて泉水が連日訪れたのだが、男は部屋に帰っている様子が無い。
そもそも、別れを決めたのも彼がバイトに重点を置き始めた事が原因だった。

萌菜が珊瑚珠を取り返したいのは、遺品というだけでは無く、ある伝承があるからだった。

伝承は、二つの珊瑚珠はけして離すな。離すと、かならず不幸が起こるという物だった。


感想
三作目は近代日本で起きた女工にまつわるお話でした。
このエピソードは読んでいて、気持ちの揺れ幅が激しくとても疲れました。

萌菜の元カレの場面では怒りが、森司とこよみのシーンでは喜びや楽しさが押し寄せ、感情が上がって下がってを行き来してしまいました。

全体の感想

今回は三話とも社会的な問題が背景にある様に感じました。
政治の失策による格差の拡大、それがもたらした一般庶民の貧困化。
そしてその事が原因で精神を病む人々。

これらは決してフィクションでは無く、現在の日本が直面している問題だと思います。

余裕の無さが学生から時間を奪い、バイトに明け暮れる毎日を送らせる。
イメージでしかありませんが、私の幼い頃、大学生のお兄さんお姉さん達は、もっと遊んでいたという印象があります。

社会全体に閉塞感が溢れ、最近とても息苦しさを感じます。

経済については素人ですが、税制を見直し庶民が自由に使えるお金が増えれば需要が拡大して景気が良くなる気がするのですが……。
その方が結果的に税収も増えると思うんですけどねぇ……。

まとめ

お堅い感想を書いてしまいましたが、森司君とこよみちゃんはとても可愛くてその部分は気持ちがホッコリします。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

※イメージはPixabayのShekuSheriffによる画像です。
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