土筆柑の空 ビームコミックス
著:須藤真澄
出版社:エンターブレイン
須藤真澄さんの描く、庶民的な暮らしの中に不思議を織り込んだ日常系ファンタジー。
庭先案内の続編、庭先塩梅第六弾。
各話あらすじ
螢
月の輝く夜、年配の男性がウォーキングしている。
そのウォーキングの最中、男性は黒ぶちの眼鏡を拾う。
眼鏡には浴衣を着た女性が映っていた。
いぬぐちゅり
少女が泣きながら家中、ひっくり返している。
彼女は祖母が倒れ、母親から病院で必要な物を、持ってくるよう言われたのだ。
だが勝手知らずの祖母の家、何処に何があるか分からず、手あたり次第探していたのだった。
そんな時、インターホンが鳴る。
玄関にいたのは、以前会った事のある犬の薬売りだった。
とまれのま
夏のある日、三人の男女は俯き加減で歩いていた。
三人は道路に書かれた「止まれ」の“ま”の文字の丸い部分にすとーんと落ちた。
そこには時計の歯車の様な機械があり“ねじ巻いて下さい”と張り紙がしてあった。
めもりや
縁日に出かけた帽子屋、ケーキ屋、人形師の三人。
ケーキ屋とはぐれ、縁日を巡るうち、ふたりは「めもりや」と看板を掲げた出店を見つける。
中に入ると如何にも的屋といった風の男が座っていた。
男がカウンターに並べた品、それは全て帽子屋にとって見覚えのある物だった。
本日のランチ
老女は気が付くと、丸テーブルと椅子以外何もない、真っ白な空間で、その椅子に座っていた。
膝の上には猫のクロが欠伸をしている。
老女がどこだろとクロに問い掛けると、白い壁から「ご注文ーお決まりれしたら」と眠そうな声が聞こえた。
レストランかしらとクロに問い掛け、お鮨屋さんだといいねぇと呟くと、白い壁が開き、そこには鮨屋が広がっていた。
マザー・コンプレックス・イン・ア・ボトル
朝の七時半、女性が台所で朝食の準備をしている。
そこに起きて来た息子が、彼女に文句を言っている。
どうも友達といる時、母親に大声で呼ばれた事が恥ずかしかったようだ。
女性はそんな息子が可愛くて仕方がないようで、ギュッと抱きしめた後、目玉焼きを焼き始めた。
割った玉子に何か硬いモノが入っている。
彼女は特に驚く事も無く、それを箸でつまみ流しで洗った。
女性がつまんだ物、それは手紙の入った小さな小瓶だった。
はたちを、いわう
いつかのフリーマーケット。
そばかすの女性が、鼻歌を歌いながら現れ、手際よく商品を広げる。
隣で店を出していた女性二人が、話の流れで年齢を尋ねると、彼女ははたちになりましたと答えた。
世間では成人式を行っている。
行かなくていいのと尋ねると、彼女は「いーんす」と甘いお酒のカンを取り出した。
エクソシスターズ
東京は上野の美術館を訪れたおねえちゃんと妹。
二人はそこで、四体の悪霊に憑りつかれている元浪人生と出会う。
元浪人生の事が気になった姉妹は、彼女を美術館から連れ出し、話を聞くことにした。
話を聞いている最中も、悪霊が悪さをして鳥の糞が彼女に落ちた。
ムカついたおねえちゃんは、彼女から悪霊を引き剥がした。
ウィズ・ア・ブック
蜿蜒と続くような螺旋階段の壁に、無数の本が置かれている。
少女は二人、そこで本を読んで暮らしている。
無数にある本のどれかは、自分自身の物語で、それを見つければここから出る事が出来るらしい。
今日も誰かが自分の物語を見つけ、この場所から出て行った。
幻燈機 終
老人はかつて、弟子になると言った少女を連れて故郷の村に戻った。
老人は、取り敢えずテストという形で少女を連れて来たのだ。
老人が家の用事をする間、座っていろと言われた少女は、嬉しそうに室内の様子を眺めた。
そこに隣人の男が訪ねてくる。
誰か尋ねる男に、自分は老人の弟子で、老人は長旅からさっき戻ってきたと答えると、彼は老人は旅に出た事などないと答えた。
感想
庭先案内から始まったこのシリーズも、この巻でお終いです。
レギュラーだった、姉妹、帽子屋たち、不幸な浪人生、そして幻燈機の老人の話にも、それぞれ終わりが描かれました。
まあ、どの話も全然続きが描けそうな感じでしたが…。
彼らの人生は続いてゆくのだし、それはそれでいいなと思えるお話ばかりでした。
いつか須藤さんの描く作品の片隅に、彼らの姿を見つけられたら嬉しいなと思います。
最後にこの巻で好きなセリフ
元浪人生「すいません!!あたしのせいでー!それ!返してくださいっ!平気です慣れてますし!」
姉「……あかん あんたはもう幸せにならなな」
元浪人生「神!?」
まとめ
このシリーズはこれで終了です。
どのお話も暖かく、爆笑ではないですが、いつの間にか笑顔になっている作品ばかりでした。
須藤さんは現在、連載用のネームを書かれているそうなので、そちらも楽しみに待ちたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。