地図苔の森 ビームコミックス
著:須藤真澄
出版社:エンターブレイン
須藤真澄さんの描く、庶民的な暮らしの中に不思議を織り込んだ日常系ファンタジー。
庭先案内の続編、庭先塩梅第四弾。
各話あらすじ
おともだち
公園に呼び出された女性。
彼女を呼び出したのは、孫を預けていた老婦人だった。
どうやら置手紙を残し、女性の孫と老婦人の孫二人がいなくなったらしい。
女性は知り合いに連絡した後、慌てる老婦人を連れて、お稲荷さんに向かった。
レイディ・イン・クローゼット
別の高校に進学した為、疎遠になっていた友人と再会した少女。
二人は意気投合し、久しぶりに少女の家でお喋りする事にした。
しかし、少女の言った、おばちゃんと部屋を一緒に使っていたという言葉に友人は戸惑う。
小学校の頃は彼女の一人部屋が羨ましい事もあり、毎日の様に遊びに来ていたのだが、彼女の言うおばちゃんとは一度も出会った事がなかったのだ。
You?
小学校で一年生の担任になった女性。
彼女の悩みは字が汚い事。
元々上手い字ではないが、教壇で子供達の前で板書するとなると、余計に緊張して手が震えてしまう。
今はパソコンで打ち出した紙で誤魔化しているが、すぐにそれも対応範囲を超えるだろう。
ある日の国語の授業。
文脈を教えていた際、一人が「ぼくとおねえさんが『任天堂3DS』であそんだ。」と答えた。
勿論、用意した紙には「任天堂3DS」は無い。
彼女が気が遠くなりながら、黒板を振り返ると流暢な文字で、「ニンテンドウスリーデーエス」と書かれていた。
パンダーズ
パン屋さんの開店告知を、パンダの着ぐるみで行う事にした店長。
現れた着ぐるみを着たバイトは、少々大きいものの、明日オープンという事でチラシ配りを任せた。
バイトはこの仕事自体、あまり乗り気では無いようだったが、仕事は仕事と割り切り、チラシを配っていく。
そんな彼の足を、パンダの恰好をした幼い女の子が引っ張り見上げていた。
怪獣図鑑
ケーキ屋に呼び出された帽子屋と人形師。
どうやらケーキ屋と付き合いのあるホテルの総支配人から、子供の社会見学の依頼があったらしい。
子供が嫌いな帽子屋と人形師は、一度は話を断るが、総支配人の知り合いにはセレブも多いと聞き、依頼を引き受ける事にした。
りり子ちゃんのおくりもの
手作りの人形を、祖父にプレゼントしたりり子。
彼女はその代わりに、おくりものが欲しいと祖父に言う。
それはうっかりと、祖父は家にある品物を、どれがいいかと選ぶが、りり子は自分にではなく、新しいお母さまにあげたいのだと言った。
彼女は自分が作った人形だけでは、喜んでもらえるか不安だったのだ。
大回転
おねえちゃんが鮮やかな手つきで、たこ焼きを転がしていく。
妹の友人たちはそれを見て、はしゃいでいた。
妹はというと、部屋の隅でしょげて泣いていた。
いつもの様に振られ、彼女を慰める為に友人たちは、たこ焼きの材料を持って家に集まってくれたのだ。
姉と交代して、たこ焼きを焼き始めた妹は、何が駄目だったのか行った事をあげながら、焼けていないたこ焼きをかき回す。
そんな妹に突然、「そーいうとこじゃ!!」と男の声で罵声が浴びせられた。
温い霧
バスに乗るのは嫌だったのかと、ハトが老婆に語り掛けた。
老婆はアレはバスじゃ無いと返した。
その後、鍵が地面に落ちているのを見つけた老婆は、これで漸く帰れると呟く。
だが、老婆の手にしていた物は鍋敷きで、話していたハトは老いた男性だった。
カギもハトも彼女の認識の産物でしかなかった。
春よ
桜の舞い散る季節、大学の構内で花びらを手にした浪人生は泣いていた。
二ヵ月前のあの日、彼女は完全武装で部屋を出た。
今までの経験を踏まえ、先月のセンター試験の後、部屋に引きこもって過ごしていたのだ。
彼女に憑いた悪霊たちは、その所為で飢えていた。
不幸を糧にして存在している彼らは、部屋の中では彼女に大きな不幸を与えられず、やせ細っていたのだ。
試験会場へ向かう浪人生に、次々とアクシデントを仕掛けるが、今までの事が彼女を強くたくましく育てていた。
巻き起こる不運を、全てはじき返し、起こった出来事も笑って乗り越えていく。
大雪で電車が止まっても、ショートスキーを履き雪の街を疾走する。
そして彼女は無事、試験会場に辿り着いた。
幻燈機11
少女が映し出した景色を、村人は見飽きたという。
新しい物を求められているのは分かっていたが、彼女にもそれはどうにも出来ない。
なぜなら、映し出せる物は、彼女が感動し目に焼き付いた物でなくてはならないからだ。
感想
今回はずっと不幸に見舞われ続けていた浪人生が、やっと大学に合格する事が出来ました。
悪霊たちの執拗な嫌がらせを、経験と鍛えられた精神力、あらゆる障害に対する対応力で乗り越えていく姿は、笑いつつも感動してしまいました。
最後にこの巻で好きなセリフ
「今までのあたしは、ツイてねがったんでは ね!!経験から学ぶという手間を惜しんでいただけなんずや!!」
まとめ
今回は人々が一歩踏み出す前の姿が、多く描かれていたように思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。