死者は弁明せず
安田均 編
山本弘 他
イラスト 米田仁士
富士見ファンタジア文庫
テーブルトークRPG「ソード・ワールドRPG」の世界フォーセリアを舞台にした短編集、第十二作目。
今回の短編集は「マジック・アイテム」をテーマに描かれています。
この短編集には4作が収録されています。
各話のあらすじや感想など
空と君の間には 北沢慶
原因は今ガリンが乗っている魔法の絨毯だ。
この絨毯は、速度は一般的な魔法の絨毯の二倍の速度出せるが、曲がらない止まらないと制御が非常に難しく、操作を誤り、グリフォンの巣に突っ込んでしまったのだ。
ロマールで交易商を営むガリンは、もともとは魔術師の家系で有名だったドウエル家の生まれだった。
しかし彼女の祖父が厳しい人で、ガリンの母はそれに反発して家出をしてしまい、数年後ガリンの父であるエルフの男が、ガリンを連れて妻の死を祖父に報告に来た時も、ガリンを引き取り、父を追い払ってしまった。
一人残されたガリンは、祖父に育てられることになった。
娘には厳しかった祖父だったが、孫には甘く、ガリンは何不自由なく育った。
しかしガリンが十二歳の時、祖父は娘を蘇生させてやるという話に引っ掛かり、莫大な借金を負ってしまう。
借金自体は、家にあった魔法の品を売却することで返済したが、財産は無くなってしまった。
ガリンはその後、十六歳で交易商となり、コツコツと資金をためて、売却してしまった魔法の品の中の一品、魔法の絨毯を買い戻したのだ。
絨毯は二枚あり、片方は今回ガリンが購入したスピードは出るが制御の難しいものと、速度を出すと不安定になるが制御のしやすいものの二点だった。
もう一枚の方は売れてしまったようだが、ガリンはもともとスピードの出るものを狙っていたので問題はなかった。
ガリンが絨毯を購入した奇跡の店で、店主の若旦那と今後は絨毯をつかって商売をしてきたい旨を話していると、一人の若者が取り巻きをつれて店に入ってきた。
若者はロマール屈指の商家、ローラン家の次男クーン・ローランだった。
もう一枚の絨毯を購入したのはクーンで、ガリンと同じく空路での交易を考えているという。
クーンはタラントまでどちらが早く着くか勝負をして、買ったほうが絨毯を使った交易の独占権を得るという賭けをガリンに持ち掛ける。
売り言葉に買い言葉で賭けを受けたガリンは、クーンとの勝負に挑むのだった。
感想
ガリンが手に入れた魔法の絨毯は、スピードは出るのですが、曲がらない止まらないという極端に扱いにくいものでした。
しかし、作中で語られるように、徒歩だと一週間かかる行程を一日で踏破できるのですから、移動手段としてはとても優秀でしょう。
ファンタジーに限らず、空を飛ぶ乗り物には心惹かれるものがあります。
地の底に響く風の唄 友野詳
あらすじ
オランの酒場で一人の男が小話を披露していた。
客の受けはあまり良くない。
男の名はヒュウ、黄緑色の髪の変わった訛りで話す青年だ。
舞台を降りた彼に初老の男が話しかける。
初老の男はロマールでマジック・アイテムを扱う店を営んでいたが、息子に店を任し、オランに新たに店を開いたのだ。
店主はヒュウに仕事を頼みたいらしい。
実際の依頼人は店主の後ろにいた娘だった。
アドリと名乗った娘は、オアーズと言う男を探して欲しいという。
店主の話ではオアーズは若いが優秀な鍛冶屋で、入荷した先から売れていくらしい。
ヒュウの持っているショートソードも、彼の手によるものだった。
オアーズはオランに来たのは間違いない様だが、その後の行方がまるで解らないそうだ。
ヒュウは酒場で小話を披露する以外に、別の顔も持っていた。
人でもモノでも、なんでも探し見つけ出す、風使いヒュウ、穴掘りヒュウと呼ばれる物探しのスペシャリストだ。
ヒュウはアドリの依頼を受けることにして、彼が居るであろう下水道に向かった。
感想
ヒュウとアドリのやり取りが楽しい作品です。
彼はこれまで受けた仕事と同じように、軽口をいったり、恐怖を煽ったりと、様々な揺さぶりを掛けて、依頼人の事情を探ろうとします。
彼の受ける依頼がいつも真っ当なものではないことが、その理由なのですが、依頼人であるアドリには全く通じません。
アドリが都会にもまれず、田舎で真っすぐ育ったことが要因なのですが、ペースを乱されたヒュウがモヤモヤしている様子が、とても楽しい作品です。
楽園の泉 高井信
あらすじ
オランの下町で小さな酒場を経営するイワンの元に、一人の青年が訪ねてくる。
吟遊詩人のその青年ラグドーは大変な音痴だった。
彼の話を聞いて、イワンは奇跡の店の店主に相談を持ち掛ける。
相談を受けた店主は、楽園の泉と呼ばれる泉の噂をイワン達に話す。
エストン山脈のどこかにあるという、その泉の水を飲めばあらゆる苦痛から解放されるらしい。
話を聞いたイワンは過去の冒険の記憶がよみがえり、泉の探索を決意する。
イワンは吟遊詩人のラグドー、そして昔の仲間である魔法使いのミューレンと、ドワーフのゴメスの四人で、エストン山脈へ旅立った。
感想
イワンは過去に冒険者として活躍していました。
今回、旅に出る切っ掛けは、店主の話を聞いたイワンの冒険心からでした。
昔の情熱がふとしたことから蘇る、そんなこともあるのでしょう。
死者は弁明せず
あらすじ
ロマールで衛視をしているジェイシーは、魔術師ギルドで幹部が研究室で変死したとの通報を受け現場へ向かった。
現場に着いたジェイシーはギルドの高導師ジョウイから通報は間違いで事故だと説明される。
現に人が死んでおり、納得のいかないジェイシーは衛視の立場から現場の捜査を要求する。
ジェイシーはギルド内での事故の調査を担当している、ミシェールと共に死亡現場である研究室に足を踏み入れた。
研究室では死亡したクリュバス導師が机に突っ伏して死んでいた。
首がなく机には大量の血が流れていた。
ジェイシーは首の所在をミシェールに尋ねると、研究室のごみ箱のなかに彼の首があった。
部屋は魔法のロックが掛かっており、さらに窓からの侵入も難しい。
争った形跡がないことから、クリュバス導師は抵抗するこなく首を落とされたようだ。
ジェイシーたちは捜査を進めるため、ギルド内の関係者に話を聞くことにした。
感想
魔術師ギルドで起きた密室での幹部死亡の真相を、衛視のジェイシーと魔術師のミシェールがおっていきます。
一般的な探偵小説と違い、魔法の存在が密室であることを希薄にします。
高レベルの術者しか使えないという制限はありますが、テレポートの魔法があるため、いくら部屋が密室であろうが関係なくなってしまうからです。
それを加味したうえで、真相に迫っていく過程は楽しいものでした。
まとめ
今回の作品集はマジック・アイテム及びそれを扱う店がテーマに書かれています。
多彩な魔法の品物は、ファンタジーを味わう上で欠かせない要素の一つだと思います。
現実世界では起こりえない不思議な出来事も、魔法があれば描くことが出来ます。
今回の表題作「死者は弁明せず」の二人の活躍は短編集「ゴーレムは証言せず」でも読むことが出来ます。