窓辺には夜の歌
著:田中芳樹
イラスト:ふくやまけいこ
講談社文庫
大学生の能登耕平と小学生の来夢が活躍する長編ゴシック・ホラー シリーズ第二弾。
冒頭部分あらすじ1
夏の事件から季節は廻り今は秋、十月の最終日、世間はハロウィンで盛り上がっている。
耕平の通う聖ルカス大学のキャンパスで彼は来夢と北本と再会した。
北本は来夢が小学校を卒業するタイミングで彼女を引き取ることにしていた。
彼は来夢を大学の付属中学に入学させようと考えていた。
北本は大学の学長とは旧友で来夢の事を話すついでに彼女に学祭を見せたいと連れてきたのだ。
学長と縁があると言っても北本は別にコネで来夢を入学させようとしている訳では無く、入試はあくまで来夢の実力で受かるべきだと考えていた。
学祭は明日からだが前夜祭には歌、CM、女優、作家とマルチな才能で脚光を浴びている小田切亜弓がコンサートを行う事になっており、本祭よりも賑わうのではと思われた。
耕平は試験の時ノートを貸した礼として同じ学科の藤崎からコンサートのチケットを受け取った。
耕平は小田切亜弓には特に興味は無かったが雨を避けるため来夢と北本と三人で会場に入った。
あらすじ2
コンサートには熱狂的ファンが詰めかけていた。
マジックショーのような演出でなかなかに凝っている。
耕平は舞台に立つ亜弓と度々目が合う気がしていた。
気の所為かと思ったが一緒に居た北本も彼女がよくこちらを見て来る気がすると口にした。
ステージ上の亜弓が何かを投げる。
それは黒いバラで五本投げられたそのうちの一本は耕平の手に落ちた。
亜弓はバラを受け取った人はステージに上がってと呼びかける。
何とも言えない不安を感じながら他の四人と共に耕平はステージに上がった。
亜弓は耕平にデュエットしましょうと声をかけて来る。
しかし亜弓に対して恐怖を感じた耕平は立ちすくんだ。
動きのない耕平にファンからの怒号が飛ぶ。
ヒステリックに非難の声が上がり異常を感じた学生の一人も狼狽している。
耕平はステージの上で突如、闇の中を走る列車のイメージが脳裏に浮かんだ。
それは夏に体験した出来事を思い起こさせる。
浮遊間に襲われ宙に浮いた感覚のまま列車の窓に顔を寄せる。
車内には耕平と来夢が座っていた。
耕平を引き戻したのは自分を呼ぶ来夢の声だった。
現実に戻った直後、落雷が会場を襲い照明が消えパニックに陥る会場内に異様な音が響く。
二階席の一部が崩れ人と崩れた建材が一階に落ちた。
混乱する会場内で耕平はステージから降り、来夢と北本を抱えるようにしてロビーの外へ駆け出した。
誰かが今年の学祭は終わりだなと話している。
遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
感想
学園祭での出来事の後も耕平と来夢は奇妙な出来事に遭遇します。
そして二人で出かけた遊園地で閉じ込められ、追われた先で逃げ込んだ鏡の迷宮というアトラクションから別の世界へ迷い込みます。
この作品では耕平と来夢がお互いを気遣い信頼している描写が多く見られました。
耕平は命がけで来夢を守り来夢もまた耕平を守ろうと行動します。
二人がお互いを気遣う理由、それは作中で亜弓からのアプローチに対する耕平の答えが理由のような気がします。
「来夢と一緒だったら空だって飛べる気がする。あんたとじゃだめなんだ。」
終盤で来夢も同じ言葉を口にします。
耕平は来夢でないと駄目だし来夢も耕平でないと駄目。
その事を強く感じる言葉でした。
まとめ
耕平と来夢、二度目の冒険の舞台は鏡の中の奇妙な世界でした。
二人は手を取り合ってそこから脱出しようと奔走します。
奇怪でグロテスクな表現もあるのですが、それを余り感じないのはふくやまけいこさんの挿絵の力が大きいと感じます。
お読みいただき、ありがとうございました。