自作小説

花旅ラジオ 第十四話 「シェルター破壊」

投稿日:2019年5月5日 更新日:

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01

大佐はサブハッチの前で唸り声を上げていた。
弾き飛ばされたレーザーカッターは破損し使えそうもない。
注水は進み、水は膝の高さまで及んでいる。

「大佐!一端引きましょう!このままではシェルターごと水没してしまいます!」
「クソッ!!何か手は無いのか!?」

「……連中はまだ発進に時間がかかる筈です。複数人にカッターを持たせトンネルから出た所を押さえて取り付けば、内部に侵入できるのではないでしょうか?」

「よし、それで行こう。格納庫は封鎖する!爆破して塞げ!私は港から揚陸艇で先回りする!ついて来い!!」
「ハッ!!」

大佐は格納庫を出て、備品倉庫にあるだけのレーザーカッターを兵に持たせ港に向かった。

 

※※※※

 

薄いピンク色が見える。
タマはそれが髪の色だと気付いた。
顔に水滴が落ちている。

同じ色の瞳から、涙がこぼれタマの髯で弾けた。

「……アンドロイドも泣くんだな。」
「タマさん…。タマさん!!」

タマはルクの膝の上に頭を乗せていた。
その頭にルクはしがみつき頬を寄せた。

弾は左腕を貫通し、ベストによって脇腹で止まっていた。
左腕は不器用に布が巻かれている。

ルクを見るとシャツの左袖が無くなっていた。
タマは右手を伸ばし、寄せられたルクの頭を撫でた。

「どうなったんだ?」
「…タマさんが撃たれた後、すぐハッチを閉めました。大佐たちは格納庫に水が貯まって来たので退却したようです。」

「そうか。船は動くのか?」
「…はい、もう準備は終わっています。」
「じゃあ、決着をつけようか。」
「はい!」

二人はお互いを支えるようにブリッジに戻った。
ルクはコンソールの椅子にすわり、船の前方にあるトンネルへのハッチを開け、シェルターの電源設備を停止した。
格納庫内が暗闇に覆われる。

「発進させます。」

ルクの言葉にタマが頷きを返す。
後部のサブスラスターが点火し、移民船はトンネルに侵入した。

 

※※※※

 

島の東二キロの洋上に、兵を乗せた揚陸艇が浮かんでいる。

「大佐!!移民船が出てきます!!」
「波に船を立てろ!!近づいて乗り込むぞ!!」
「了解!!」

港から揚陸艇を発進させた大佐は、部下と共にトンネル出口で待ち構えていた。
港のドックに置かれたこの船は電力の消費が激しく、今まで動かす事はなかったが、そんな事を言っている場合ではなくなった。

バステトに逃げられ、移民船も失えば自分は終わりだ。
腹の底が冷えるような感覚を、大佐は生まれて初めて味わっていた。

海の底から巨大な物がせりあがってくる。
移民船が立てた波に全力で逆らいながら、揚陸艇を近づける。

揚陸艇を移民船に激突させ、大佐は部下に指示を出した。

「ワイヤー射出!!取り付いてハッチをこじ開けろ!!」

揚陸艇から移民船を部下が上って行くのを見上げながら、大佐は拳を握りしめた。

「それは私の船だ。奴隷ごときが乗るものではない。」

大佐がそう呟いた時、移民船の舷側に無数の半球体が出現した。
レンズの様な物を装備したそれは、一斉に取り付いていた兵たちの方を向いた。

「離脱しろ!!」

大佐が叫ぶより早く、兵が取り付けたワイヤーと武器が打ち抜かれる。
兵は次々に海に落ちた。揚陸艇に乗っていた兵士の武器も撃ち抜かれ使用不能にされた。
茫然としている大佐の前を、移民船がゆっくりと浮上していく。

移民船が立てた波に揺られる船上で、大佐はぼんやりとそれを見上げた。
移民船は揚陸艇のエンジンと救命艇を破壊し、島へ向けて飛んだ。

 

02

移民船のブリッジではタマが歓声を上げていた。

「ルク見たか!あいつ間抜け面でこっちを見てたぞ!!」
「タマさん、あんまり興奮すると傷に障ります。」
「大丈夫だって!…いてて。」

「ほら、だから言ったのに…。大人しく座っていて下さい。これから港とシェルターを破壊してバステト達を拾い上げます。そしたら……家に帰りましょう。」

「家か…。そう言えば島に来てから何も食ってないな。猪食いたいな。」
「戻ったら一緒に食べましょう。」
「そうだな。お前、食いにくそうだから、食わしてやるよ。」

ルクはタマにあーんと言って、肉を口に運ばれる自分を想像した。
施設に戻ったら、すぐ体を治すつもりだったが、しばらくこのままでも良いかもしれない。

「本当ですか!?」
「凄い勢いだな。そんなに食いたかったのか?」
「……はい。」
「じゃあ、さっさとやる事やって、おさらばしようぜ。」
「そうですね。」

ルクはコンソールを操作し、港とシェルターに照準を合わせた。
船のセンサーには生体反応は検出されなかった。
兵たちは全員、揚陸艇に乗っていたようだ。

船の下部のハッチが開き、大型のレンズが露出する。

「撃ちます。」

ルクがパネルをタッチすると、放たれたレーザーがシェルターの入り口を吹き飛ばした。
続いて港の埠頭部分を破壊し、船の接岸が出来ないように破壊する。

その後、発見した小型艇やシェルター関連施設も次々と破壊した。
ルクは、外部スクリーンを表示し、島にいるバステト達に呼び掛けた。

この外部スクリーンは、移民した星に知的生命体がいた場合の、コンタクト手段として作られたものだ。
まったく違う環境で進化した文明と、対話が出来るかは不明だが…。

『皆さん、私はルク。彼はタマ。シェルターは破壊しました。大佐たちは武器を失い、皆さんが脅かされる事もないでしょう。皆さんは自由です。私達は東の大陸から海を越えてこの島に来ました。大陸に渡りたいという人は北のビーチに集まって下さい。この移民船で運びます。』

『皆、島の外の森には美味い物が沢山ある。一緒にいこうぜ。』

スクリーンでメッセージを流しながら、移民船は島の上を旋回した。
時折、島に残っていた大佐の部下が攻撃してきたが、小口径のレーザーを使い、武器だけを破壊した。
武器を破壊された兵士は、シェルターや港に向かって走り去った。

メッセージは、船に乗せたバステト達にも協力してもらった。
見知った顔が呼びかければ、彼らも警戒を解いてくれると考えたからだ。

暫く島の上を飛んでビーチに向かうと、沢山のバステトが集まっていた。
ルクはセンサーで近くに人間の姿がない事を確認すると、ビーチに船を下ろし、船体下部の格納庫のハッチを開けた。

バルやチャコたちにも船から降りてもらい、集まった人たちにスクリーンを使って語り掛けた。

「皆さん、私はアンドロイドのルク。彼は皆さんと同じバステトのタマです。後ろの人たちはシェルターで働いていた人たちです。」

バステトの集団から、一人の老人が若者に支えられながら歩み出た。
灰色の長い毛並みのバステトだった、

「儂はこの島で一番ジジイの、タイガちゅうモンじゃ。シェルターが壊れたってのは本当かの?」
「はい、この船の武器で入り口を破壊しました。電源設備も止めたので、あそこで生活する事は出来ないでしょう。」

「突然首輪が外れたが、あれもあんた等の仕業かい?」
「そうです。」
「……何故、儂らを助けてくれたんじゃ?」

「私は施設で製造され、最近初めて外に出ました。外の世界は美しく輝いていました。そこでタマさんと出会いました。彼の母親の故郷かもしれないとこの島を訪れたのですが、島は私が施設で読んだ過去を引きずっている人たちに支配されていました。

……私はそれがとても嫌だったのです。星には緑が戻り、生き物が営みを初めています。誰かを奴隷にしなくても、生きていく事はできるはずだし、皆、誰かに強要されたり束縛されず、自由に生きていいと思うのです。」

タイガはルクの瞳をじっと見つめた。

「そうじゃな。儂らも彼らが現れるまでは、のんびりやっておった。」

それからタイガはタマに目をやり、口を開いた。

 

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03

「タマと言ったな。お前さんの両親はテツとトラというのではないかな?」
「父ちゃんと母ちゃんを知ってんのか!?」

「やはりか。テツによく似ておるからそうではないかと思ったんじゃ。二人は生きておるのか?」
「どっちも死んじまった。父ちゃんは俺が生まれてすぐに、母ちゃんは二年前に死んだ。」

「そうか……。あの二人は、シェルターの人間に一番最初に襲われた集落の、村長の息子とその恋人じゃった。村長が港にあった朽ちかけた小舟で、海に逃がしたと集落の生き残りからは聞いておる。」
「村長の息子…。村長は俺の爺ちゃんって事か?爺ちゃんは生きてるのか?」

タイガは首を振った。

「いや、襲われた時に亡くなったそうじゃ。」
「そうか…。会いたかったな…。」
「お主の村の連中なら生きておるぞい。会って来るとええ。」
「そうだな。ルクちょっと行って来ていいか?」
「はい。」

タマはルクを座らせ、タイガを支えていたバステトに案内されて、彼らの中に消えていった。

「テツの子か…。ルクさんや、あの子はトラが死んで、あんたに会うまで一人ぼっちだったのかね?」
「そう聞いています。」
「そうかい…。」

ルクは遠目にタマがバステト達と、楽しそうに話しているのを見た。
楽しそうなタマを見ていると、何故か胸が苦しくなった。

タイガはそんなルクを見て、口を開いた。

「大陸はどんなところだね?」

「大陸には豊かな森や草原があり、沢山の生き物が息づいています。行きたい人は移民船で運びます。生活の基盤が出来るまでの食料や家は、私が生まれた施設で機材をつくれば、整える事が出来ると思います。」

「儂のような老いぼれは、この島を出ようとは思わんが、若い連中は行きたい者もおるじゃろう。連れて行ってもらえるかい?」
「はい。」

ルクの言葉を聞いて、タイガはバステト達に振り返り、声を上げた。

「儂はルクを信じようと思う!!島を出たい者はこの船に乗れ!!この娘が大陸まで運んでくれる!!大陸には広い土地があり、森や草原には獲物が溢れているそうだ!!」

タイガの言葉で、集まったバステトの中から数人が歩み出てきた。
中のひとり、シバトラの毛並みのバステトがルクに声をかける。

「俺はルード。あんたは俺達を奴隷にしたりはしないのか?」
「私は、タマさんと一緒に居られれば、それで十分です。奴隷なんて必要ありません。」
「ふうん。さっきの黒い奴か…。ホレてんのか?」

はっきり言われて、ルクの顔に朱が差した。
それを見て、ルードは笑いながら言った。

「あんた、見た目は人間なのに、バステトが好きなんて変わってるな。」

ルードはタイガの横に立って声を張り上げる。

「オレも長老と同じくルクを信じる!!島を出て大陸に渡りたい奴は俺に続け!!」

ルードはバステトの中でもリーダー的存在だったようだ。
彼の言葉でビーチに居た半数近くが船の近くに集まった。
タマもルードの声を聞いて、ルクの側に駆け寄って来た。

「話は出来たのですか?」
「ああ、父ちゃんや母ちゃん、爺ちゃんたちの話を聞かせてもらった。」
「そうですか……。」

嬉しそうに話すタマを見ていると、ルクは少し悲しい気持ちになった。
それを振り払うようにルクはタマに言った。

「タマさん。タイガさんの近くに連れて行ってもらえますか。」
「分かった。」

ルクはタマに支えられてタイガに歩み寄った。

「移民船にあった発信機です。ボタンを押せば私に連絡できるようになっています。何かあれば使って下さい。」
「ふむ。島を出たい者が出れば使うかもしれん。その時は迎えに来てもらえるかな?」
「はい。すぐに駆け付けます。」
「…彼らのこと、よろしく頼む。」
「はい、任せてください。」

その後、ルクとタマはバルたちと一緒に、バステト達を船に乗せるべく誘導した。
バステトを収容すると、ルクは最後にタマに頼んで隠してあったボートを回収し、船に乗り込み移民船を発進させた。

島を横切り、港をカメラで見ると、黒いスーツの集団がこちらを見上げていた。
総勢二百人程、まだ武器を持っていた者が散発的に発砲している。
ルクは対人兵装を起動し、彼らの武器を残らず破壊した。

ルクは外部スクリーンを表示し、集団に告げた。

『シェルターは破壊しました。武器も首輪もない今、あなた達は自分たちで畑を作り生きていくしかないでしょう。バステト達に謝罪し、助けてもらうかどうかはあなた達の自由です。ではさようなら。』

ルクの言葉を聞き、兵士が大佐に詰め寄っているのが見えた。
ルクは高度を上げ、移民船を大陸に向けた。

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