自作小説

花旅ラジオ 第五話 「ずっと一緒に…」

投稿日:2019年4月23日 更新日:

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01

ルクは食堂でトマトや玉ねぎ、セロリ、ニンニク等を生産した。
データでは猫に玉ねぎ等は与えてはいけないとあったが、バステトは人と同じ物を食べられるようなので、問題なさそうだ。

メニューはうさぎ肉の煮込みにした。
施設の外に出て、簡易コンロを用意する。
施設内は火気厳禁だ。屋内で火を使うとセンサーが働き、消火装置が作動してしまう。
ルクは他にもキャンプ用のテーブルや椅子も準備した。

机の上にまな板を置き、食材をカットしていく。
食材を切り終わったら、鍋を簡易コンロにセットし、トマトソースを作った。

味見して、中々美味しく出来たとルクは笑みを浮かべた。
野菜もプラントではなく、畑で作った物のほうがもっと美味しいのだろうか?
そんな事を考えながら、うさぎ肉の調理に取り掛かった。

鍋にオリーブオイルを入れ玉ねぎをしんなりするまで炒め、別のフライパンで下ごしらえをしたうさぎ肉を焼く。
キツネ色になったら、うさぎ肉を鍋に入れトマトソースを加え煮込んでいく。

ルクはある程度煮込んだ鍋に、プラントで生産した白ワインを加えた。
お酒に興味のあったルクは一口飲んでみた。
程よく冷えたワインは飲み口が良く、ルクは料理をしながらコップに注いだワインをちびちびと飲んだ。

タマが様子を見に施設からでた頃には、日は沈みルクは陽気に笑いながら鍋をかき混ぜていた。

「ルク、何笑ってんだ?料理は出来たのか?」
「タマさん。何故だか分からないのですが、とても楽しいのです。」
「なんかお前臭いぞ。それ何飲んでんだ?」

タマはルクが飲んでいる白ワインに鼻を近づけた。

「うえ、何だこれ?へんな臭いがする。」
「何を言っているのですか。とてもいい香りではないですか。タマさんも飲んでみて下さい。」
「俺はいいよ。それよりそっちのを食わせてくれ。」
「分かりました。」

ルクは皿にうさぎ肉の煮込みを盛り付けた。
皿をテーブルに並べ、タマには水、自分にはワインを注いだコップを手渡す。

「どうぞ、お召し上がりください。それで美味しかったら、私を撫でて下さい。」
「お前、もうそれ飲まない方がいいんじゃないのか?なんか目がトロンとしてるぞ。」
「そうですか?でも美味しいんです。」

そう言ってルクはコップに口を付けた。
タマは少し呆れたように、首をふりテーブルに置かれていたフォークとナイフを使って、料理を口に運んだ。

「んじゃ、いただきます。……うん、美味い。そのまま焼いた奴より肉がすごく柔らかくなってる。味も甘酸っぱくていい感じだ。」
「やった。ではタマさん撫でて下さい。」

そう言って頭を差し出すルクに、タマはつれなく言った。

「撫でるのは食べ終わってからでいいだろ。」
「むう。分かりました。早く食べて下さい。」

ルクは口をとがらせて、不満そうにタマを急かした。

「急かすな。それよりお前も食べろよ。」
「…そうですね。いただきます。」

ルクは椅子に腰かけ、タマの向かいでワインを飲みつつ、うさぎ肉を頬張った。
タマが言うように肉が柔らかく、口の中でほどけるようだ。

「そういえばさ、ルクはずっとここにいたんだろ。料理したりはしなかったのか?」
「初めて会った時に言いましたが、光があれば食事は必要ないのです。ごくたまに水を取れば動くことが出来ます。」
「ふうん。便利だけどつまんねぇな。」

「そうですね。こんなにおいしいのなら、もっと早く食べるという事をしておけばよかったです。」
「まあ、これから色々食べればいいんじゃねぇか?」
「はい。」

ルクはそう言って笑みを浮かべた。
タマはそんなルクを目を細めて眺めた。

02

そんな風に食事を続けていると、ルクが突然お腹を押さえる。

「ん?どうした?腹が痛いのか?」
「アラートが出ています。排泄と表示されています。」
「汚いなぁ。さっさとして来いよ。そこの茂みなんかいい感じだぞ。」

ルクは自身のメモリーを探り、排泄について内容を調べた。
本来彼女には排泄は必要無いのだが、人に合わせて食事を取ると、体内で処理された廃棄物を体外に排出する必要が出て来る。
タマに合わせて食事をしていたため、廃棄物タンクの容量が一杯になってしまったようだ。

「タマさんが時々姿を消していたのは、排泄を行っていたのですね。」
「いいから早く行けよ。」
「分かりました。」

ルクは席を立ち、お腹を抑え施設に駆け込んだ。
暫くして戻ってきたルクは、少し沈んでいるようだった。
椅子に座ってワインを煽る。

「どうした?」
「……聞いてください。とても臭かったんです。」
「聞きたくないよ。そんな事。」

「ショックです。あんな物が体の中で生産されるなんて…。」
「んじゃ、食べるのを止めればいいんじゃねぇか?ルクは食べなくても死なないんだろ?」
「そんな!食べ物は美味しいんです。それは止めたくありません。」

そう言って、ボトルからワインを注いでいるルクをタマが止める。

「お前なんか揺れてるぞ。大丈夫か?」
「おかしいですね。クラクラします。」

ルクを作った管理者は、彼女を限りなく人に近づけて設定していた。
本来必要のない、食事や睡眠を取るように体を構成したのも、人と同じようにするためだ。
物を食べれば美味しいと感じるし、嬉しければ笑う。
現在の彼女が、たまにしか笑わないのは、コミュニケーションの取れる他者との触れ合いの経験が少ないからだ。

例えば戦闘用のアンドロイド等は、光と水さえあれば体が破壊されない限り永遠に戦い続ける。
人間の介在しない機械による代理戦争は、資源と技術が勝る国が勝利し、最終的に敵が降伏するまで、無慈悲に人を殺し続ける悲惨なものだった。
管理者はそれを嫌ったのかも知れない。

話がそれたが、つまりルクは人間と同じように、アルコールによって酔っぱらっていた。

「おい、大丈夫か!?」

タマが椅子から飛び降り、ルクの側に駆け寄る。
ルクはタマの首に腕を伸ばし抱き着いた。

「えへへ、ふわふわ。タマさん約束、頭を撫でて下さい。」
「ぐえ、臭っ!」

ルクの口から漏れ出るアルコール臭に、タマは顔をしかめた。

「タマさん、頭。」
「分かった。分かったから顔を寄せるな。」

タマはアルコールの匂いに辟易しながら、ルクの頭をガシガシと撫でた。

「違う。昼間はもっと優しかったです。」
「鬱陶しいなぁ。この飲み物は禁止だな。」
「タマさん、早く撫でて下さい。」
「分かったよ。」

タマはルクの頭を優しく撫でた。
撫でているうちに、ルクは寝息を立て始めた。

「寝たか。ほっとく訳にもいかないし、部屋まで引っ張っていくか。」

 

03

タマはルクを抱えるようにして、施設内のルクの部屋まで連れて行った。
何とかベッドに転がし部屋を出ようとすると、ルクはタマを抱き上げそのままベットで寝てしまった。

「ワワッ!何すんだ!放せよ!」
「…むにゃ、タマさん、…ずっと一緒にいてくだい。……一人はつまらないです。」
「……ほんと、しょうがない奴だなぁ。」

タマはため息交じりに、ルクの頭を撫で今日はこのまま寝るかと、目を閉じた。

翌朝、目覚めたルクは、目の前にタマの顔があったので少し驚いた。
意識がはっきりしてくると昨日の事が頭に蘇ってくる。
彼女の電子頭脳は、酔っぱらっている間の事も克明に記録していた。

ルクは自分の行動を省みて、いたたまれない気持ちになった。
ベッドから離れ、部屋の隅でうずくまっていると、タマが起き出す気配がした。

タマは四つん這いになり、四肢を伸ばすと大きく欠伸をする。
ルクに気付き声を掛けた。

「そんな隅っこで何やってんだ?」
「反省です。昨日はすいませんでした。」

こちらに顔を向けず、謝罪を口にするルクにタマはベッドから降りて近寄った。

「なんだ、覚えているのか?お前あれ飲むの禁止な。」
「はい、美味しかったですけど、二度と飲みません。」
「…たまにならいいよ。とにかく体を洗ってこい。まだ少し匂うぞ。昨日の片づけをしたら、飯食って、猪を取りにいこうぜ。」
「はい。」

タマはうずくまっているルクの頭を軽く撫で、部屋を後にした。
ルクはタマが去った後、おもむろに立ち上がりバスルームへ向かった。

シャワーを浴びながら、ルクはタマと出会ってからの事を思い返した。
よくよく考えれば、彼と出会ってから二日しか経っていない。
しかし、この二日間で経験したことは、ルクにとって衝撃の連続だった。

風の匂いを感じ、自分以外の者と話し、海を見て、初めて物を食べ、街が沈む光景を見た。
そして猪に破壊されかけ、排泄をし、酔っぱらってタマに甘えた。

最後の方は情けないが、それでも同じ事の繰り返しだった五年間と比べ、とても充実した時間だった。
彼と出会わなければ、海を見て施設に帰りそれで終わり。だっただろう。

ルクが施設を出ると、タマが食器や鍋を片付けていた。

「ルク、遅いぞ。これどうするんだ?」
「施設に流しがあるので、そこで洗いましょう。」
「分かった。案内してくれ。」
「はい。……タマさん、ベッドで私が言ったこと覚えてますか?」

タマは鍋を抱えてルクを見上げた。

「ん?ああ。寝言で言ってた事か?お前覚えているのか?」
「はい、あれの答えが聞きたいです。」
「んー。先のことはわかんないしな。でも俺も一人はつまらんから、お前が嫌って言うまでは一緒にいるよ。」
「タマさん!」

ルクはタマに抱き着いた。
タマは鍋を取り落とし、ワタワタしている。

「ワワッ!いきなり抱き着くなよ。危ないだろ。」
「タマさん、嬉しいです。」

そう言って抱き着くルクの頭をタマは優しく撫でた。

「お前どんどん甘えんぼになるな。最初会った時はこんなじゃなかっただろ。」
「何故でしょうか?でも今の方が楽しいです。」
「はいはい、分かったからさっさと片付けて飯にしようぜ。もうウサギはないから、美味くも不味くもないやつだけど。」
「そうですね。」

二人は食器や鍋、テーブル等を片付け食事を取った。
食事はタマが言うように、美味しくも不味くもない味だったが、タマと食べるとルクにはなぜか美味しく感じられた。

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