自作小説

花旅ラジオ 第十二話 「解放」

投稿日:2019年5月3日 更新日:

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01

シェルターの監視ルームでは大佐が怒りの声を上げていた。

「何が起きているのかすぐ確認しろ!!」
「タレットの反応が消えました!!全て破壊されたようです!!」
「シェルター周辺のカメラの映像が途絶えています!!」
「動体センサーが潰されました!!シェルター内からは外部の確認が出来ません!!」

「すぐに街に向かわせた者を呼び戻せ!!どうせ扉を開く事は出来んのだ!!押し潰してやる!!」
「大佐!!正面ハッチが開いています!!敵は内部に侵入したようです!!」
「何だと!?」

シェルター内の監視カメラには、黒いバステトとピンクの髪の女が映し出されていた。
その映像も、女が銃口を向けた瞬間に途絶えた。

「何者だ……。」

その後も次々とカメラの映像が消えていく。
暫くするとバステト達を監視していた兵士から、次々と報告が入った。
突然バステトの首輪が外れ、逃げ出したというのだ。

「馬鹿な!?首輪のカギは、私しか持っていない筈だぞ!!一体どうやって…。とにかく体制を立て直す、監視につけた者達もシェルターに呼び戻せ!」
「了解しました。」

部下が無線で兵に戻ってくるよう伝えているのを聞きながら、大佐は唇を噛んだ。
彼は今更ながら九年前に、運営主任を殺したことを後悔していた。

「大佐!!、船が…船が起動しています!!」
「退け!!」

大佐はモニターを見ていた兵士を突き飛ばすようにして、モニターにかじりついた。
モニターには移民船の補助機関が起動準備に入っている事が表紙されていた。

「さっきの侵入者か…。なぜ承認なしで起動出来る…?」
「大佐!!どうしますか!?」
「シェルターに残っている民間人を招集しろ。」

「まさか、民間人を巻き込むのですか!?」
「船が奪われれば、この島から動けなくなるぞ!お前、鍬で畑を耕して一生を終えたいのか?」

監視ルームにいた兵士たちは、全員が口を閉ざした。

 

シェルターは食料供給は自動化された農業プラントが担っていた。
人々は設備の延命に精力を注いだ。
外部カメラにより、島が緑を取り戻しつつあることを知っても、最初の世代が語った、環境の悪化による人体への影響を恐れたのだ。

シェルターはその内部で全てが完結し、外部と接触しなくても全てが循環するよう設計されていた。
だが六百年は長すぎた。
施設の老朽化が進み、電力不足で農業プラントの生産性が低下。
人々は飢えに苦しみ、ようやく外に出る事を選択した。

約六百年、開くことなかった扉を開け、外に出たシェルターの住民は光あふれる世界に歓喜した。
しかし、そこは決して楽園ではなく、狩猟も農作業もした事のない人間が、易々と糧を得られる世界では無かった。

銃は有っても獣は彼らの気配を感じると姿を消し、食料になる植物を採取しようにも、どれが食べられる物か分からない。
畑を作るにも開墾の方法さえ彼らは知らなかった。

そんな時、シェルターのライブラリから保安主任だった男が、開墾の方法が書かれた書籍データを見つけた。
当初は木々を伐採し農地を広げようと計画したが、道具も無くグレネードで森を焼いても切り株を排除する事もままならない。

農地に適した土地を探すべく島を探索する内、この島にはかつて愛玩動物として飼われていたバステトという人語を介する猫が、集落を作り生活している事を知った。
彼らは狩猟をして日々の糧を得ているようだったが、小規模ながら畑を作り作物を生産していた。

保安主任は彼らを捕え、労働力として使う事を提案した。
無論、平和的な道を望む声もあったが、重労働に辟易していた人々は保安主任の意見を支持、シェルターに残されていた武器で、武装した兵士を集落に送り込みバステト達を脅し、首輪を使い奴隷化した。

その後、保安主任の男は大佐と名乗り、反対を口にした人々を次々に処刑した。
ここにきて、大佐を支持していた人々も自分たちが間違っていた事を悟ったが、総勢二百名の武装集団に逆らう事は出来ず、シェルターの設備修繕に当たる事になった。

大佐はバステトの集落を次々と襲い、彼らを奴隷化していった。
その中には開墾作業ではなく、シェルターに回される者もいた。

 

02

ルクとタマは薄暗いシェルターの中を進んでいた。

「この先に反応があります。」
「敵か?」
「いえ、待ち伏せしているようには見えませんし、バステトも一緒にいるようです。」
「ホントか!?」
「はい、近寄って様子を伺いましょう。」
「おう!」

通路を進むと、反応のあった部屋のドアには農業プラントと書かれていた。
ドア周辺に誰もいない事を確認して、ルクはドアを開けた。

内部は広く、部屋一部の天井からは太陽光に似た光が降り注いでいる。
光の下には水耕栽培で野菜が作られている。
近くで十人程の人間と、数人のバステトが設備のメンテナンスを行っていた。
その内の一人がルク達に気付き、こちらに目を向けた。

「動かないで下さい。」

ルクが銃を向けると、全員両手を上げた。

「ここは農場ですか?」

ルクの質問に手を上げた人間の一人が答える。

「そうだ。君はシェルターの人間ではないね?」
「はい、私達は島の外から来ました。」
「そうか。外には生き残っている人もいるんだね?」
「それはまだ分かりません。私達も最近外に出たばかりなので。」
「そうなのか…。手を下ろしてもいいかね?」

ルクの答えに少し落胆したようすの男がそう口にした。
それに頷き、ルクは銃を下ろした。

「この年になると、手を上げるだけでも億劫でね。私はバル。農場プラントの管理をしている。」

壮年の男がそう言いながら手を下ろすと、周りの人間やバステトも手を下ろした。

「俺はタマ、こっちはルク。俺たちはバステトを解放したいんだ。ここに端末はあるかい?」
「バステトを解放する?首輪を外すのかい?端末は有るが、鍵は大佐が管理している。ここの端末じゃ難しいと思うが…。」

訝し気に尋ねる男にルクが答えた。

「メインコンピューターにつながっていれば問題ありません。」
「そりゃ、ここの端末もつながってはいるけど、上位権限がないとアクセスできないだろう?」
「私はアンドロイドです。ネットワークがつながっていれば、侵入できます。取り敢えず案内してください。」

バルはルクがアンドロイドだという事に戸惑いながら、わかったと頷いた。
二人はバルに近づきながら、他の人々を観察した。

人間はバル以外は全員女性だった。
老人からおそらく十代と思える者まで年齢はバラバラだ。
皆、痩せており明らかに栄養が足りていない。

バステト達は、毛の長い者や短い者、毛色も様々で三毛、白、キジトラ、サバトラと色々いたがタマと同じ黒い毛並みの者はいなかった。
バステトでも幼いキジトラの個体が、タマに近寄ってきた。

「お兄ちゃん、私達を助けてくれるの?」
「ああ、俺達はその為にきたんだ。」
「でも、一緒に働いている人たちは優しいけど、黒い服の奴らは強いし怖いよ?」
「任せとけ、ルクが何とかしてくれる。」

そう言ってタマはキジトラの顎を優しく撫でた。
キジトラは目を細め、喉を鳴らした。
ルクはそれを見て、胸が苦しくなるような感覚に襲われた。

「タマさん、行きましょう。」
「ルク、なに怒ってるんだよ。」
「何でもありません。」

ルクはバルを促して端末に案内してもらった。
タマはその後に続き、キジトラの子はすっかりタマに懐いたようで、手を繋いでついて来ている。
ルクは自分の中に沸き上がった感情が理解できず、気持ちを切り替えるように案内された端末にアクセスした。

「先ほど説明したように、権限が無いと中枢には入り込めんぞ。」
「大丈夫です。」

ルクはブレスレットからコードを引き出し、端末につなげた。
マスターキーを使い、メインコンピューターに侵入する。

膨大な管理データの中から、シェルター内の地図や、バステトの首輪の管理項目(首輪はもともと囚人用の物だったようだ。こんなに大量にあるという事は、ここは囚人用のシェルターだったのかもしれない。)、そして船に関する情報を収集した。

首輪の管理項目から、解除を選択する。
何度かアナウンスが表示され、本当に解除するかを問われる。
全てイエスを選択し、全ての首輪を解除した。

「あッ!外れた!お兄ちゃん、外れたよ!!」
「そうか良かったな。」

ルクの耳にそんな声が聞こえた。他のバステトも驚きの声を上げている。
ルクは二人の様子に、先ほど感じた感情が湧き上がりそうになったが、船について調べることで、気持ちを落ち着けた。

 

03

船が起動できないのは、メインエンジンを動かすための電力が足りていない事が判明した。
補助機関を調べると、電力はそちらで補えるようなのだが、補助機関の起動には施設責任者二人以上の承認が必要になっていた。

権限を持った者を検索すると、現在の責任者は保安主任と運営主任となっている。
ルクは二人の情報を表示させた。
保安主任は存命しているが、運営主任は死亡していた。

ルクはバルに二人について尋ねた。

「保安主任というのは大佐の事だよ。運営主任は平和案を提案して、大佐に殺された穏健派のリーダーだった男だ。」
「その二人がいないと補機が動かせないから、シェルターの電力で強引に船を起動させようとしたのですね?」
「船の事を知っているのか?」

「はい、私達を捕らえようとした男に聞きました。……このシェルターで大佐に反発している人はいますか?」
「武装していない人間は、殆どが大佐にはついて行けないと思っているよ。」

ルクは少し考え口を開いた。

「タマさん、バステトの他に、彼らも連れて行きたいのですが構いませんか?」
「チャコ達に聞いたけど、兵士以外はバステトに好意的らしい。いいと思うぜ。」
「その子はチャコというのですか?」
「うん、チャコだよ。お姉ちゃんは?」

「私はルクです。それと先ほどから気になっていたのですが、チャコはタマさんにくっつき過ぎです。離れなさい。」
「ヤー!チャコはお兄ちゃんと一緒にいる!」
「ルク、まだ子供だぜ。こいつは甘えたいだけだよ。」

「…タマさん、私も子供です。……私の手も握って下さい。」
「…しょうがねぇなぁ。」

そう言ってタマがルクの手を取ると、先ほどまでの気持ちが収まっていくのをルクは感じた。

「バルさん、船が動くなら私達と一緒に島を出ますか?」
「……動かせるのか?」
「私なら可能です。船を使って大陸に渡れば、私の居た施設で食事や開拓に使う資材も用意できます。」

バルはルクの言葉を聞いて、少しの間視線をさまよわせた。
やがて彼女に視線を戻すと口を開いた。

「……連れて行って欲しい。バステト達を奴隷にして糧を得ても、施設の老朽化は止めようがない。最初に地上に出た時、彼らと手を取り合えば、農地を作って暮らす事も出来たのだろうが、大佐はそれを拒否して安易な道を選んだ。彼の提唱するプランに先は無いように思える。」

「分かりました。逃げ出したい人をまとめて下さい。」
「どうするんだ?」
「船を起動して、施設の電源を落とします。その後、船を動かして武装した者を、船の兵装を使って無力化させましょう。」

「あいつ等を殺すのか?」
「いいえ、移民船は移住する惑星の環境を不要に破壊しないために、対人兵器も豊富に用意されています。それを使えば彼らの武器だけを破壊出来ます。」

タマはルクと手を繋いだまま、彼女を見上げた。
ルクはその手をキュッと握り、笑みを返した。

「分かった。んじゃ行くか。」
「はい。」

ルクはタマの手を放し、行動を開始した。

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