自作小説

花旅ラジオ 第四話 「食事とお風呂」

投稿日:2019年4月22日 更新日:

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01

施設への帰り道、ルクは森を歩きながら、落ちている枝などを拾い集めた。
施設にはコンロなどの調理用の設備は無かった。
食事は食堂の機器があれば、人が調理する必要が無かったからだろう。

タマが施設の入り口近くで火を起こしている間に、ルクは食堂で塩と粉の胡椒を生成した。
バランスを考え野菜サラダも生産し、機器から出てきたトレーと、水のボトルを持って施設の入り口へ向かう。

入り口の扉を開けると、香ばしい匂いがルクの嗅覚を刺激する。

「いい匂いですね。」
「おう、お前も食べるだろ?」
「はい、いただきます。」

ルクはうさぎの肉を入れたボックスの上に、野菜の乗ったトレーとボトルを置いた。
タマが枝に挿した肉を渡してくれた。

「ありがとうございます。」
「何を持ってきたんだ?」
「野菜サラダと味付けに塩と胡椒を作ってきました。」

「野菜か…、あんまり好きじゃねぇんだよな。でもせっかく作ってくれたんだし食うよ。あと塩は分かるけど胡椒ってなんだ?」
「香辛料です。香りとピリッとする辛さが特徴で、料理に使うと美味しさが増すそうです。」
「ホントか!?」

タマはトレーに乗った胡椒を指につけ、ペロッと舐めた。

「ッ!!」

タマはトレーの横に置かれたボトルの水を、あわてて口に運び口を濯ぎ、ルクに言う。

「辛い!!毒じゃねぇのか!?」
「今朝プラントが出した物にも使われていた筈ですよ。」
「ホントかよ…。朝食ったのはこんなに強烈じゃなかったぞ。嘘だと思うなら、お前も舐めてみろよ。」
「おかしいですね?」

ルクは肉をトレーに置き、胡椒を一つまみ指に取って、香りを確かめようと鼻を近づけた。
スンスンと鼻を鳴らすと、粉末が鼻腔に吸い込まれた。

「クシュン!クシュン!変です。くしゃみが止まりません。クシュン!」
「ハハハッ!何やってんだよ!ドジだなぁ。ホレ。」

タマが笑いながらタオルを差し出す。
それを使って鼻をかみ、差し出されたボトルの水を飲みつつ、涙目になりながら、タマに礼を言う。

「ありがとうございます。胡椒は危険ですね。クシュン!」
「匂いを嗅ごうなんてするからだ。味を確かめろよ。」
「はい、では改めて。」

ルクは指に胡椒を付け口に運んだ。
独特の香りと辛さが口に広がる。

「これは少量、アクセントとして使うのが良さそうですね。」

そう言ってトレーの肉に、塩と胡椒を少量振りかけて食べてみる。
塩の辛さと胡椒の風味、肉から染み出す汁と肉自体の味が重なって、何ともいえない。

「とても美味しいです。クシュン!」
「…んじゃ、俺も。」

タマもルクがしたように塩と胡椒を肉にかけて、恐る恐る口を付けた。
一口食べて目を丸くした後、勢いよく食べ始めた。
どうやら気に入ったようだ。肉を一気に食べ終え、ふぅと一息つくとルクに言った。

「確かに味付けは朝食ったのと同じだな。でもこのうさぎの方がずっとうまい。」
「本当にそうですね。どうしてでしょうか?」
「さあな。ここにいた奴らは、ああいうのが好きだったんじゃねぇのか?」
「そうかもしれませんね。」

 

02

食事を終えて、焚火を始末し二人は施設内へ戻った。
残った肉は施設内の冷蔵庫に保管した。

ルクは汚れた服を洗濯し、体を洗おうとバスルームへ行くことにした。
タマも誘ったが、彼は水浴びは嫌いだとその申し出を断った。

「でもタマさん、時々後ろ足で首のあたりを掻いてますよね。痒いんじゃないんですか?」
「いいんだよ!水を浴びるぐらいなら、痒い方がましだ。」

ルクはセンサーのサイズを極小サイズも検知できるように設定して、タマの体をスキャンした。
首や腹など体のいたるところに反応が出たので、反応を拡大すると小型の虫が表示される。
ルクは取り込んだ生物に関するデータを検索した。

「ノミですね。タマさんやっぱり体を洗いましょう。」
「やだ!やだって言ってるだろ!放せよルク!!」

ルクは嫌がるタマを抱き上げ、自室のバスルームへ直行した。
ルクは服を洗濯機に入れ、裸になってバスルームへ入る。
始めは嫌がっていたタマだったが、全身に温水を浴びると大人しくなった。
毛が膨らみを失い、思いのほかスマートだったので驚いた。

バステトは、人と同じ生活を送れるよう作られていたため、人用の洗剤も問題無いと、タマのルーツが分かった時見つけた、バステトの飼い方というマニュアルには記されていた。

タマをシャンプーで洗ったあと綺麗に洗い流し、自分の体も洗って、二人で湯船につかった。
お湯の温度はタマに合わせて、少しぬるめに設定してある。

タマを抱え上げ、ゆっくりお湯につけると、あ゛ぁぁと微妙な声を上げた。

「熱かったですか?もう少し温度を下げますか?」
「んにぁ、水浴びは嫌いだけど、これは気持ちいい。」
「あまり長く入ると良くないようなので、もう少ししたら出ましょうか。」
「そうだな。」

風呂から上がり体を拭く、タマは体を振るわせ水気を飛ばした後、しきりに体を舐めていた。
濡れているのが嫌なのかと、ルクは髪を乾かしていたドライヤーをタマに向けた。

「やめろ!それはなんかやだ!」
「でも早く乾きますよ?」
「それより、日向ぼっこ出来るところはないのか?そこで乾かす。」

「日向ぼっこですか?施設の中心に、疑似的に日光浴が出来る設備があったと思いますが。」
「じゃあ、そこに連れて行ってくれ。」
「分かりました。」

ルクは手早く髪を乾かし、タマを連れてリフレッシュルームと書かれた部屋を訪れた。
タマはベストや銃、ナイフを抱えルクの後ろをついて来た。
装備を気に入ってくれたようで嬉しい。

リフレッシュルームは、三次元映像で様々な環境を再現できる。
無論、映像なので手で触れたりする事は出来ないのだが、管理者達のストレスを緩和するため作られたらしい。

「そうですね。あまり暑いのも良くないでしょうから、初夏の公園を再現しましょう。」

ルクが端末を操作すると、爽やかな風と優しい日差しの公園が映し出された。
風も日差しも人工的なものだが、日向ぼっこするには丁度いいだろう。

「急に外になった!でもなんでわざわざ部屋の中に作るんだ?外に出ればいいじゃないか?」
「昔は環境が悪くて、あまり長時間外で過ごしていると、体に悪影響が出たらしいです。」

「ふうん、昔は不便だったんだな。まあいいや、俺はここでしばらく体を乾かすついでに昼寝する。ルクはどうする?」

タマは床に腰を下ろし、毛を舐めながらルクに言った。

「私はキャンプ用の調理器具を作ります。晩御飯は私が作っていいですか?」
「作るって、朝の美味くも不味くもない奴だったら、俺はウサギでいいぜ。」
「大丈夫です。任せて下さい。」
「なんか心配だなぁ。お前どっか抜けてるから。」

 

03

不安を口にするタマを置いて、ルクは装備製造施設で端末を操作し、フライパン等の調理器具や食器を製作していく。
軍隊用の行軍装備で、コンパクトで持ち運びしやすい物をチョイスした。

製造を終え、装備を確認していると、すっかり乾いてふわふわの毛並みになったタマが施設に現れた。
ベストは着ているが、露出している腕や首元の毛は艶々と輝いていた。

「ルク、道具は出来たのか?」
「タマさん、撫でていいですか?」
「いきなりなんだよ。お前、初めて会った時に比べて、なんだか目が怖いぞ。」

「…そうでしょうか?すみません。そのふわふわ艶々の毛を見ていると、なんだか無性に撫でたくなって。」
「しょうがねぇな。ちょっとならいいぞ。」
「ありがとうございます。」

タマは毛艶を褒められてまんざらでも無かったようで、口では不満そうに言いつつも、尻尾はゆったりと揺れていた。

ルクが首元を撫でると、タマはゴロゴロと喉を鳴らし目を細めた。
ベストを渡したのは失敗だったかもしれない。背中も触りたい。
そんな事を思いながら、ルクはしばらくタマを撫でた。

「ありがとうございました。堪能しました。今度は背中も触らせて下さいね。」
「なんでそんなに触りたいのか、よく分かんねぇけど、まあいいよ。」
「約束ですよ。」

タマの手を握り、顔を近づけるルクに少し怯えながら、彼は改めて道具について尋ねた。

「調理道具一式と食器等をつくりました。他は調味料などです。」

タマは並べられた道具を眺めてルクに聞いた。

「道具の使い方は俺は分かんねぇけど、ルクは使えるのか?」
「はい、そちらもマニュアルをチェックしています。料理の作り方も調べたので問題ありません。」

無表情でこぶしを握り、それを掲げるルクを、タマは訝し気に見つめた。

「ホントかねぇ。」
「タマさん、疑っていますね。夕ご飯は期待していて下さい。あっと言わせて見せます。」
「分かった分かった。楽しみにしてるよ。」
「あのですね。それでですね。美味しかったらでいいんですけど…。」

ルクは言いにくそうに俯き加減で言葉を続けた。

「何だよ。…また撫でたいのか?」
「いえ、そうではなくて、頭を…。」
「頭を、何だ?頭は撫でさせないぞ。ホントに嫌なんだからな。」
「違います。今日の昼のように、私の頭を撫でて欲しいのです。」

ルクは俯いたままで、タマの返事を待った。
タマはキョトンとした顔をして答えた。

「なんだそんな事か、別にいいぞ。でもなんでだ?頭を撫でられるのは嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないです。」

「ふうん、昼は丁度いい位置にあったから、落ち着かせようとして撫でたけど…。人間やアンドロイドは頭を撫でられるのが好きなのか?」

「分かりません。でも私は好きです。」
「そっか、俺よりでかい図体してんのに、子供みたいな奴だな。」
「私は五歳です。」
「そういえば、年下だったな。分かったよ。ただし美味かったらだぞ。」
「はい!」

ルクはタマに笑顔で答えた。

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